第13話

 よし、働こうと思った。あたしにも出来そうな仕事といえば、喫茶店のウエイトレスだった。

 千葉駅まで行き、駅ビルの中にある明るめの喫茶店に「ホール従業員募集」という張り紙を見つけた。

 応募したら即日採用。嬉しかったね。従業員のみんなも、常連客も、マリちゃん、マリちゃん、と可愛がってくれたし。まあ若かったしね。

 高校に居場所はなかったけどここにはある。そう思えた。


 だが、そこで働く20歳のオネーサンが嫌だった。

 あたしが来るまでは、自分が最年少でみんなに可愛がられていたのが、あたしが来た途端にその座をあたしに奪われて、悔しかったのか嫉妬したのか何だか知らないけど、毎日毎日嫌味ばっかり言うんだよ。

「マリちゃんってどうして高校行かなかったの?」

だの

「高校くらい出ていないとね」

って。お客さんにまであたしが中卒だって言いふらすし。

 たまりかねてこっちも嫌味言ったよ。

「大学どこ出たんですか?」

 そしたらすっとぼけて

「あたし大学は行ってないよ。でもいいじゃない。ちゃんと高校卒業してるんだから」

だって。

 エラソーに学歴の話するなら、有名な大学出てからにしてくれよ。高卒のあんたに言われたかねーよ。

 その上そのオネーサン、チアキさんって言ったけど、店の備品や食材の配達で、あたしが業者さんへの支払いのお金を立て替え、領収書を見せながら

「立て替えたのでこの金額を下さい」

と「正当なお願い」をするたびにこう言った。

「ああ、このお金よこせってそう言うんでしょう」

 毎回、毎回、大声で、他の人に聞こえよがしにそう言った。だから立て替えするのは苦痛だったよ。

 ある時、配達の為にやむなく立て替えし、その領収書に「ああこのお金よこせってそういうんでしょうなんて言わないで下さいね」とメモを付けて渡した。口頭で言うより良いかと思ったんだけど、チアキさん過剰反応したよ。小学校で同じクラスだった河野さんみたいに。その金額を「叩きつけるようによこして」きた。

 …あっけに取られたさ。その上、その日一日憎悪にみなぎった目で睨んでくるし。あんたが悪いんだろ!暴言吐くのは悪くなくて、それをやめてくれと言ったこっちが悪いなんておかしーだろ!

 けど、それ以来チアキさんはあたしに立て替え金を黙って払ってくれるようになった。この人も河野さんと同じで反撃した途端にいじめて来なくなったなと学んだ。

 そしてチアキさんは、ある時遅番で来ていながら、早く帰ろうとしていた。早番のあたしが仕事を終えて制服から私服に着替え、帰ろうとした所でちょうど鉢合わせになっちまってさ。

 びっくりして

「あれ?チアキさん今日は遅番じゃなかったんですか?」

って聞いたら

「え…ええ…えええええ」

って訳の分からない返事をして帰っちまった。

 ありゃま、大人のくせにさぼってやんの。しどろもどろで見苦しいねえ。


 で、翌朝の事。あたし自分の交通費の件で本社にいる社長に電話を掛けたんだよ。話が済んで切ろうとしたら、社長がこう言ったの。

「チアキさんから電話もらえるように言ってくれる?」

 社長がチアキさんに何か用事あるんだろうと思って

「分かりました」

って答えて電話を切ったら、そこにちょうど中番のチアキさんが出勤してきてさ。

「チアキさん、社長に電話してください」

って言ったら、ギクッとしてやんの。

「どうして?」

って聞くから

「してみればいいじゃないですか」

って答え、仕事にかかったよ。

 チアキさんったら茫然としてやんの。自分がやましい事あるからって馬鹿じゃないの?

「あんた、若いくせに生意気ね」

だって。自分が悪い事して、ばれて逆切れしてんじゃねえよ。

 恐る恐る本社に電話して真っ青な顔で社長と喋ってるし。結局全然違う要件だったらしく、あたしがチアキさんがさぼって早く帰ったとか言いつけた訳じゃないって分かったらほっとしてやんの。大人げないねー。

 だがチアキさんは、よっぽどあたしが憎たらしかったみたいで、その日の売上金が合わないからってこう言った。

「マリちゃんじゃない?」

 慌てて言ったよ。

「違いますよ」

 そうしたら母さんみたいなしたり顔でまた言った。

「マリちゃんじゃない?だって高校中退してるんでしょ?」

 高校中退してたら、店の売り上げ金を盗むのかよ!冗談じゃない!

 結局、前日の伝票が一枚紛れ込んでいて、それを抜いたら金額合ったからあたしの無罪は証明されたけど、犯人扱いされた事には深く傷ついた。

 きっとこれからも、何か悪い事があるたびに

「マリちゃんじゃない?だって高校中退してるんでしょ?」

って言うつもりなんだろう。

 おまけに本社の人が来た時に、チアキさんあたしを指差しながらこう言った。

「ああこの人、結構厚かましい所あるようで」

 本社の人もびっくりしてたよ。何であたしが厚かましいんだよ!

 あたしはチアキさんが嫌でそこを辞めた。

 働くってこんなに大変なんだって学んだ。


 次に選んだのは、やはり千葉駅から近い喫茶店だった。

 しかしそこにも似たようなオネエチャンがいた。

「マリちゃんって、どうして高校行かなかったの?」

と何回も聞くんだよ。

 うっせーな。どうしてもそうせざるを得なかったからだよ。

 その人も、前の店のオネーサンそっくりで

「高校くらい出ていないとね」

とほざいた。


 もうひとつ、あたしは小学生以来の持病である喘息に悩まされていた。年中喉に絡む痰に咳ばらいをせざるを得なかった。

 そのオネエチャン、それも気に入らないらしくてこう言った。

「マリちゃんの咳払い、あたしたちはもう癖だって分かっているけど、お客さんが聞いたらどう思うかしらね」

 癖じゃねーよ。喘息って病気だよ。痰がからむからしょうがないんだよ。もう咳払いさえ出来ないのかい?なんてやりにくいオネエチャンだ!

 その上

「その髪、くせ毛?真っすぐにならない?」

とか

「ほくろ、多いね」

って直しようのない事までとやかく言うし。しかも同じ事を何回も。

 たまりかねて

「あたしの顔見るたびに、どうこう言うのもう嫌なんですけど、やめてくれませんか?」

って言っても

「でもあたしは来たお客さんの上から下まで見なさいって言われたわよ」

って憤然と言い返してくるし。その人だって、それをあえて口に出して指摘しろとは言わなかったと思うけどなあ。

「顔、剃ったね」

とか、そんな事まで言って来るし、もう黙っててくれよ!うるさいよ!

 その上そのオネエチャン、ヒサコさんっていったけど、自分がシフトを間違えたくせに、それをあたしのせいにしやがった。なんて人だ!

「ヒサコさん、あたしじゃないですよね?ヒサコさんですよね?」

って勇気を出して言ったあたしの話を「凄い遮り方」するし。

「あーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあーあー」

ってあたしの顔見ながら大声で言うんだよ。その「あーあー」であたしの声をかき消すの!酷いよもう!

 用事があって電話しても、話の最中にガチャ切りするし。どうせ、手が滑ったとか言い訳するんだろうけど。

 更にヒサコさんは、あたしに用事がある時に直接言わず、メモに書いてよこしてくるんだけど、そのメモの端っこに必ず「カス」って薄く書いてやんの。あたしをカスだと言いたいのか?もう嫌だよ、こんな変なねーちゃん。

 ある朝出勤したら従業員全員が一斉にあたしを変な目で見た。はて?なんじゃらほい?

 訳が分からんまま仕事したけど、みんながみんな、変な目で見続ける。

「どうしたんですか?」

と厨房の人に聞いたらこう言われた。

「マリちゃん、ヒサコさんの家に脅迫電話したんだって?今朝、ヒサコさん泣きながら言っていたよ」

 がーーーーーーーん!!!!だからみんなあたしを変な目で見るんだ!

「していませんよ」

と言ったが

「でもヒサコさん、そう言っていたよ」

と何回も言う。

 もーやだ。今度は濡れ衣かよ!あたしの言い分を聞いてくれる人はひとりもいなかった。

 悔しかったけど、もうここにあたしの居場所はない、と悟って辞めた。

 人間関係って大変だって学んだ。


 次に選んだのは、また千葉駅前の喫茶店だった。

 だが、またしても似たようなネエチャンがいた。

 もーおーお。前の二人とおんなじ事言うんだよ。

「どうして高校行かなかったの?」

だの

「高校くらい出ていないとね」

だの

「学校もろくに出ていないくせによくそんな平気な顔していられるね」

だのと。

 しばらく我慢してたけど、ある時もういい加減にしてくれと思って言ったよ。

「すごく失礼だよね。あたし高校中退した事を一度も後悔した事ないし、これからもしないと思う。だからもう高校くらい出ていないとねって言うのやめてくれる?」

 勇気がいったよ。何で返されるか分からないしね。

 けど、言って良かった。その人、ぴたっと言わなくなったし。前の二人にも、こう言えば良かったのかな。

 だけどそのネエチャン、サトコさんっていったけど、お客さんが店に入って来た時に従業員全員で

「いらっしゃいませ」

と言うんだけど、その時のあたしの声が小さい、小さいって言うんだよ。

「ほらもっと大きな声で言いなさいよ。ほらもっともっと大きな声で。でないとこの店の一員になれないよ」

だと。叫べってか?

 でね、開店前でお客さんが誰も居ない時の事。背中に何か冷たいものを急に入れられたんだよ。何だろうと思って取ったら、何と!死んだ魚だった。

 びっくりして悲鳴を上げたらサトコさんこう言った。

「ほら、大きな声出るじゃない。その調子でいらっしゃいませって言いなさいよ」

 他のみんなも失笑している。あたしをかばってくれる人も、サトコさんを咎める人もいなかった。酷いよ。こんなんいじめだよ!

 更にその日の夕方、サトコさんはみんなの前でこうのたまった。

「マリちゃん、マリちゃんに聞いても無駄だと思うけど、レジの日次と月次の集計の取り方って分かる?」

 さも馬鹿にしたような聞き方だった。ヘラヘラ笑ってるし。みんなも失笑している。

 確かに分からなかったが、その前に「教わってない」んだよ。それに何もみんなの前でそんな事言うなんて、と茫然としていたら、

「あ、やっぱ分かんないね」

ってニヤニヤしながら2回ウンウンって頷いた。

 これで黙って我慢したらいじめられると思った。だから勇気を出して言ったよ。

「サトコさん、サトコさんって本当に失礼な人だね。今朝も死んだ魚、あたしの背中に入れたし。酷いよね?」

 サトコさんの顔色がさっと変わる。みんなの顔色も変わる。サトコさんは慌てたように

「マリちゃん、伝票の…」

とあたしが絶対に分かるだろうと思う事を、わざわざ聞こうとした。あたしはそれを遮って言ったよ。

「聞いても無駄だと思うなら、最初から聞かなきゃいいよね?ってか、教わってないし」

 サトコさんも、みんなも、黙る。

 サトコさんは二度とあたしを馬鹿にしたような事を言わなくなった。

 けど、意地悪な事は言った。

「マリちゃんには悪いけど、あたしたちみんな時給が上がったのよ」

 悪いと思うなら最初から言うなってーの!耐えられなくて辞めた。

 仕事そのものより、人間関係が本当に大変だと学んだ。


 次に選んだのは、60歳くらいの女の人がひとりで切り盛りしている喫茶店だった。オーナーひとりって事は、嫌な先輩にいじめられなくて済むかなって思ったんだけど、決してそんな事はなかった。

 そのオーナーっちゅーのがスゲー曲者で、あたしの「名前を呼ばない」上に、言った事ややったことで気に食わない事を「カレンダーに書き留める」人だった。

 お客さんがみんな帰って洗い物をしている時に

「あなた、お客さんに出すミルクカップ、ある程度使い回して」

と言うので、もしかしてあたしが洗うの大変だろうと気づかってくれているのかと思い

「大丈夫ですよ。まめに洗いますから」

と答えたら、むっとしたように黙っちまった。

 でね、その店は厨房からフロアへ出る壁にカレンダーが貼ってあったんだけど(つまりお客さんからは死角になっていて見えないけど、あたしは必ず目に入るって訳)、そこに「まめに洗いますから。お客さん100人の時、ミルクカップ100個」って書いてやんの。

 …あたし、カレンダーを前に茫然としちまったよ。明らかにあたしに対するメッセージってか、嫌味ってか、不気味ってか、このオーナー異常じゃねーの?って思った。

 ただもしかしてあたしが悪いのかなって気もした。だからオーナーに言ったよ。

「済みません、あたしの言い方に問題があったようで…」

 オーナーは苦笑いしながら許してくれた。その日はもう月末であと何日か辛抱して次の月になればカレンダーめくれて、そのメッセージは見なくて済むようになるし我慢したよ。

 翌月になり新しい頁のカレンダーになり、ほっとしたのもつかの間、オーナーがお客さんと話している最中に電話がかかって来た。

 あたし、取り次ごうとして

「電話です」

って言ったら、それも気に入らなかったらしくてむっとしてた。次に見たらまたカレンダーに「話の最中に電話と」って書いてあった。

 あたしその時も呆然としたよ。確かに

「お話し中済みません」

って言えば良かったんだけど、何もカレンダーに書く事ないだろうって。

 でさ、1回目は我慢したけど、2回目はやっぱり嫌で、そのメッセージを消しちまったんだよ。幸い鉛筆で書いてあったから消しゴムでサラサラと。まだ月初でこれから1か月近くこれを見るのは耐えられないって思ったからさ。

 そしたらオーナー、カレンダーを睨みながら鬼のような形相していたよ。あんたが悪いんじゃん。

 で、また翌日の事、お客さんが店内に居なくて二人で掃除していたら、オーナーが外した腕時計がないないって騒ぎだしたんだよ。目の前のカウンターに置いてあるっつーに気が付かないんだよね。

「腕時計、そこにありますよ」

と言ったが

「え?どこ?どこ?」

ってキョロキョロしてる。オマエが自分で外して「置いた」んだろ!「老いた」ババアめ!って駄洒落じゃないよ。あまりに分かっていないからついイライラしちまい

「目の前にあります」

って言っちまった。言っちゃってからイカン!って思ったんだけど、時すでに遅しで

「目の前にありますとは何ですか!」

って怒り心頭してやんの。それはあたしが悪いから

「済みません、済みません、済みませんでした」

って必死に謝ったんだけど、ババアの怒りは止まらなかった。

 で、次にカレンダー見たら「目の前にあります」ってやっぱり書いてあった。今度は消せないようにマジックで黒々と。

 何となく、昔母さんが父さんがお酒を飲んで帰ってくるたびに「父さん飲んだ日」ってカレンダーに書いてた事を彷彿させる出来事だった。

 更に翌日、嫌な気持ちと長続きしない予感を抱えながら出勤したよ。

 ひとりしかいないお客さんとオーナーが話し込んでいるから、洗い場をひとりで磨いていた。聞くともなしに聞いていたら、オーナーとお客さんがこんな会話していた。

「年は取りたくないねえ。目に来て、歯に来て、耳に来て、頭に来て」

「ほんと、ほんと」

 …なんのこっちゃい?分かんねーよ、何が目に来て歯に来て耳に来て頭に来るんだい?

「光陰矢の如しね、あたしなんてついこの前成人式だったのに」

「ほんと」

 バアサンたちの会話だねえ、と思っていたら

「ちょっと、あなた」

ってオーナーの声がする。だけどそのお客さんに言っているのかと思って、背を向けたまま洗い場を磨き続けていた。

「ちょっと、あなた、聞こえないのかしら、あなた!あなた!」

と声を荒げる。そこでようやくあたしを呼んでいるんだと気付いて

「はい、何か」

と振り返ったら、わざとらしく目をまん丸くして

「何回呼んでも聞こえないなんて、あなた頭がおかしいの?」

とそのお客さんの前で言われた。

 …だったら「名前呼んで」くれよ。「あなた呼ばわり」ばっかりして、分からないよ。

「お客さんと話しているのかと思ったんですけど」

と答えたら

「あなたよ、あなた。こんなに近くで呼んでも聞こえないなんて」

と、異常者を見る目で言う。母さんそっくり!

 そのお客さんでさえオーナーに対して呆れた顔をして、こう口添えしてくれた。

「名前呼んでくれたらいいのにねえ。分からないよねえ」

 あたしはその言葉に頷いたよ。オーナーは相変わらず変な目で見続けていたけど。

 で、次にカレンダーみたら「いくら呼んでも無視」って書いてあった。もう限界だった。

 このオーナーやっぱり変な人だわ。そのうち出刃包丁でも持って追いかけて来るんじゃねーの?って思ったら、恐ろしくて働き続ける気にはならなかった。

「辞めさせて下さい」

って言ったら

「あなたはやっぱりそういう人ね。拾ってやったのに、恩を仇で返すのね」

だって。

 あたしの次にここで働く人が可哀想だから思い切って言ったよ。

「気に入らなかった事をカレンダーに書くのはやめた方がいいですよ」

 そして黙ってドアを開けて出て行った。なんか助かったような気がしたさ。

 年を取った人が大人になっているとは限らない、と学んだ。


 その頃、急に右手の甲が痒くなった。

 尋常じゃないかゆみでいつもボリボリ掻いていた。

 かさぶたが出来、無理にはがしたら、何と!真ん丸いいぼになっちまった!

 加山さんを、いぼいぼっていじめたのが返って来たような気がした。


 次も千葉駅前の喫茶店を選んだ。喫茶店なんて、いくらでもあると思った。

 ただそこは、常連客で嫌なオヤジがいてさ。

「スカート長いね」

だの

「化粧が濃いよ」

だの、うるさいっつーの!こういう人を女の腐った男って言うんだなと思った。

「甘ったれるのもいい加減にしろ、男だったら殴っている」

とも言ったし。

「あたしがいつ甘えました?」

と聞いたら

「生き方そのものが甘ったれてるんだよ!」

だって。誰もかばってくれないし。

「そんなにあたしを嫌いなら、ここに来なきゃいいじゃないですか」

と言ったら

「何だよ、儲けさしてやってんじゃん」

だって。儲かったなんて思わないよ。

 右手のいぼを気にしていつもバンドエイドを貼って隠していたら

「何でいつもそこに、ばんそこう貼ってるんだよ!」

とか余計な事言うし。どうしてもそうせざるを得ないからだっつーの!

 ある時バンドエイド貼るの忘れて仕事に行った時の事、利き手だし注文伝票を書くのに右手を出さない訳にいかない。

 気にしながら伝票書いていたら、さっと目をそらして見ない振りしてくれる人もいたけど(ああマリちゃんはいぼを隠すためにいつもバンドエイド貼ってるんだなと、気持ちを汲んでくれたんだろうね)、その人は目ざとく見つけてこう言った。

「何、そのブクブク。いぼ?いぼじゃん!いぼ!」

 ただでさえ気にしているのに、傷ついているのに。ああ加山さんもこんな気持ちだったんだなと、改めて悪かったと思ったよ。

 それからもその客、あたしの顔見るたびに

「よう!いぼ!」

ってせせら笑いながら言った。この人の手にいぼは出来ないんだろうなあ、と悔しかった。

「お前の欠点、全部言ってやる!」

とも言ったし。で、甘ったれだのいい加減だの、化粧が濃いの、手が荒れている上にいぼがあるだの、しつこく言ってさ。

「俺、あんた見てるとスゲー傷ついた過去あんじゃねえかって気がする」

とまで言いやがった。みんなもあたしを変な目で見るし。そんな事言って何になるんだよ。恥ばっかりかかせて、うるさいよ、もう。

 だったら

「あなたの長所全部言ってあげるね」

とか言って褒めてくれる方がずっとお互い気分も良いし、やる気も出るけどさ。

 パチンコの景品でもらったのか何か知らないけど、いかにも安そうなネックレスよこしてきて、そんな安物付けたら金属アレルギー起こしそうだし、付けたら付けたで何時にどこに来いとか言うんだろうし、着けなかったら

「ネックレス、どうしてしないの?」

って毎日来て、毎日聞くし。よく騒ぐねえ。

 うるさいからしまいに突っ返したわ!不満満タン!って顔してた。

 ある時、変な風が来るなと思ったら、その人が口を尖らせてあたしの耳をめがけてフーッ、フーッて息を吹きかけているし。

 変態か!そうすればあたしが急に変な気起こしてラブホでも行くとでも思ったのかね!

 その上急激に痩せたから何だろう、腹でも壊したかいな?と思えば

「君との来たるべき時に備えて15キロ痩せたよ」

だと!冗談じゃないよ!

 あたし、そのお客が嫌でそこを辞めた。

 一緒に働く人だけでなく、お客が耐えられない場合もあるって学んだ。


 次に面接したのは、クラシック音楽を流し続ける喫茶店だった。

 クラシック曲が流れてるって事は、みんな穏やかかなと思ったけどとんでもなくて、面接官が明らかに変なおばさんだった。

 顔の造作がどうって言うより、やってきた事とやられてきた事がそのまま表情に出てるってーか、なんてーか、酷い騙し方と騙され方をしてきましたって顔なんだよ。開口いちばんこうのたまうし。

「あなた、子どもをおろした事あるでしょ」

 …何言ってんの?このおばさん。頭おかしいんじゃねーの?って思った。

「ありません」

って答えたら

「じゃああなたのお母さんは?お母さんある筈よ」

と言う。って事は、あたしに水子のきょうだいがいるって事だし、父さんが妊娠した母さんに子どもをおろせと言う人だって事じゃん。

「ありません」

と答えたら

「じゃああなたのおばあちゃんは?おばあちゃんある筈よ」

と食い下がって来る。

「そこまでさかのぼったら分かりませんけど」

と答えたら、意気盛んに言う。

「それよ、それ!親子は一体だから」

だと。親子って…祖母と孫だろーが!それに祖母はおろしたなんて一言も言ってねーよ!

 面接に一切関係ないし、誰にでも当てはまる事をわざわざ言って、もしあたしに本当にそういう過去があったらドキッとするだろうから、その顔を見たかったんだろうし、それで自分を超能力者みたいに凄い人って思わせたかったんだろうし、それより何より、初対面でここまで侮辱するって事は、働こうもんならどんなにいじめられるか分かったもんじゃない。

 このおばさんこそ10回くらい子どもおろしたんじゃねーの?自分の不幸を人になすりつけるんじゃねーよ!こっちから蹴ったる、こんな変な所。

「働けません」

と言ってそのまま出て行った。

 世の中には色々なキチガイがいると学んだ。


 その日の帰り、電車内での事。

 隣の車両から中学生くらいの男の子が急に入って来た。

 …と思ったら、震える小声でこうのたまう。

「いちばん、タムラアキヒロ、歌います」

 そして調子っぱずれな歌をうたい始める。向こうの車両では、同じ制服を着た数人の男の子たちが嗤って見ている。歌っているタムラ君は、明らかにいじめられている。

 何とかしてやりたかったが、あたしもどうすればいいか分かんねーし、周囲の人も困惑しながら無視している。

 タムラアキヒロ君は、恥ずかしさのあまり、耳どころか首まで真っ赤になり、涙をポタポタこぼしながら去って行った。

 ああ、タムラ君。そんな悪い友達とは縁を切りなよ。


 さて、次に選んだ仕事はスナックだった。あたしもついに水商売かいなってドキドキした。

 なんてーか、母さんがあまりにも水商売やるようになる、なる、なるなるなるって言ったので、そうなったのかなって気もしたよ。人のせいにしちゃいけないけどね。

 だけど酔っぱらいのオヤジとチークダンス踊るのが嫌で、一日で辞めた。隣りに座ったら座ったで、嫌らしい手付きで太ももを何回も撫でるし。冗談じゃないよ!父さんみたい!

 水商売も楽じゃないと学んだ。


 次に選んだのはカウンターバーだった。カウンター越しだったので、お客に触れられる不快さがない。

 あたしは潔癖症までいくかどうか分からないけど、汚いのはとにかく嫌いだった。だが、アブラギッシュなオヤジが自分の飲みかけのグラスを

「飲め」

と差し出してくるのは耐えられなかったし、何を話せばいいか分かんないし困ったさ。

 お客ってだいたいおんなじ事しか聞いて来ないんだよね。

 名前聞く前に年幾つ?って聞いてくるの。で、18歳(ふたつ上に言ったさ)って言えば、昭和何年生まれ?干支は何?って根掘り葉掘り聞いてきて、本当の事言ってんのかどうかいちいち確かめようとするし、どこで生まれたのかって聞いてきて、福岡って言えば必ず九州の?って聞くし、そうって言えば、そこ何があるでしょ、何が名物だよね、とかさも知ってるって顔で聞くし、もううるさいよ。

 今どこに住んでるの?ってのも必ず聞いてくるしさ。答えたくないよ、成田までついて来られたら嫌だし。

 あとタレントの誰それに似てるね、とかさ。

 それだけならまだいいんだけど、中には

「俺の事好き?」

と真顔で聞いてくる客もいたし。…嫌いとも言えず、黙っちまったよ。そのお客さん、じいっとあたしの顔色見てた。よっぽどさびしくて不幸で愛情に飢えているんだろうねえ。妻子にも相手にされず、会社でも誰にも相手にされないんだろう。でも好きじゃねーものは好きじゃねーよ。何て答えればいいか本当に分からず、絶句するしかなかった。

 こっちが居たたまれなくて辞めたさ。

 水商売はれっきとした「接客業」だと学んだ。


 次に選んだのは、クラブだった。高級っぽくて緊張したよ。営業は夜中の2時までだけど、電車に間に合わないからあたしだけ11時半にあげてもらう特別待遇だった。その点はありがてーな、と思った。

 しかし、やはり客と何を話せばいいか分からなかった。

 …その店でこんな思い出がある。

 会社員風の男性客3人が来店し「席に着いた途端」に、そのうちのひとりがあたしに向かってこう声を荒げた。

「ねえ、あなた。お父さん何やってる人?」

 最初から怒り口調で、喧嘩腰だった。

「会社員です」

と答えたあたしに、その人は更に語気を強めて言った。

「どういう関係?」

「航空会社です」

 水割りを用意しながら答える。

 急に、その人の顔色が変わる。

「どこ?…」

「JELです」

 その人のこめかみに、サッと怒りが走る。

「うっそおお!じゃあその娘が何でこんな所にいるんだよ!」

 それは答えようがなかった。あたしは「聞かれたから本当の事を答えただけ」だった。

「絶対に信じない!」

と言いながら、その人はあたしを憎悪に満ちた目で睨みつけている。

 ああ、ここにもあたしを罵倒する人がいる。ここにも人の職業しか見ない、母さんみたいな人がいる。

 あたしは作った水割りを、3人の前にポンポンと置き、こう言った。

「お客さん、あたしの事、気に入らないみたいだから、ほかの子に代わりますね」 そしてさっさと店長の所へ行き

「すいません、はずされちゃいました」

と言った。

 店長は不思議そうに言ったよ。

「え、どうして?」

「父親の職業を聞かれて、正直に言ったら嘘つき呼ばわりされて睨まれました」

って答えたら、

「お前のお父さんって何やってる人?」

と聞いてくる。

「会社員です」

「どういう関係?」

「航空会社」

「…どこ?」

「JELです」

「えーっ、そうなの?お前のお父さんってJELなの?」

 店長も、そのお客と同じ、信じられないって顔をしていた。

 あたしは思ったよ。ああ、この人もみんなと同じだ。もうめんどくさいから、今度から父親の職業聞かれたら、大工とか何とか言おうかなって。でもあたし、大工って、どんなんか全然知らないんだよな。大工を見下す気はないけど。

 本当の事を言えばいいってもんじゃないと学んだ。


 次は別のクラブを選んだ。クラブもいくらでもあると思った。今まで学んだ事を多少なりとも活かせればって気もしてた。

 その店ではこんな思い出がある。

 初めて付いたお客が、あたしをちらりと見て、気に入ったのか何だか知らないけど、したり顔でこう言った。

「俺はマサコの客だ。嘘だと思うなら支配人にでも誰にでも聞いてみればいい」

 誰も嘘だなんて言っていないし、思ってもいないのに、何このオヤジ、馬鹿じゃん?って思ったら更にこう言う。

「その俺をマサコから奪いたければ、店がはねた後、俺に付き合うがいい」

 …返事のしようがなかった。要はエッチをさせろ、という事なんだろう。

 だけど「落とした女」に金をかけて通うお客がいるとは思えないし、何の魅力もないオヤジだし、変な噂広がったら困るし、嫌なものは嫌だった。

 それにあたしは別にマサコさんからその人を奪いたいとも何とも思っていないし、口説くならもうちょっとマシな口説き方あるだろう。

「どうする、お前の心ひとつで俺はマサコからお前に乗り換えてやってもいいと思っているぞ。今日マサコは休みだし、チャンスだぞ」

 …どうするもこうするもなかろう。なんちゅう上から目線!電車じゃあるまいし「乗り換える」とは、なんちゅう言い草!チャンスともなんとも思わないよ、テメエみてえな何の魅力もないオヤジと寝たがる女なんていねーよ!!何て変なオヤジだろう、何てねじ曲がった人だろう、この人物凄く不幸な人なんじゃねーの?って思っていたら、駄目だと思ったのか何だか知らないけど、急に怒り出して

「あっち行け!」

と、まるで犬でも追っ払うかのように、シッシッてやりやがった。

 何がシッシッだよ!犬じゃねえよ!あんたにプライドあるように、こっちにだって少しはプライドあんだよ!

 ただ、昔、クラスの友達で体臭のきつい里中さんって子にしっしってやったのが返ってきたような気もした。

 すぐ離れたら、支配人を呼び、あたしを二度と付けるなだの、すぐ首にしろだのと、聞こえよがしに言っている。

 あーあー、そうかよ!こっちから辞めてやるよ!こんな不愉快な仕事!

 切り返す能力を身につけなくては、と学んだ。


 次も別のクラブを選んだ。だがそこではこんな思い出がある。

 付いた客が、自分の女房がいかにお嬢様育ちか、得々と自慢するんだよ。そんなお嬢様を妻に出来た自分こそ甲斐性があると言わんばかりにね。どこの大学出ているとか、親の職業が立派とか、難しい漢字読めるとか、反物巻けるとか。

 で、一応こっちも感心したような顔で聞いていたんだけど、急にあたしに向かってこう言いやがった。

「あなた、どこの大学出たの?」

「…大学は行っていませんけど」

って、答えた。高校も行っていませんと言おうもんならどんな目に遭わされるんだろうと思いつつ。

 そしたらその人さも馬鹿にしたように

「だろうね、だったらこんな所で働いている訳ないもんね」

だとよ。

 返事のしようがなくて黙っていたら、急にコースターの裏に何だか難しい漢字書いて

「これ、なんて読むか分かる?」

だって。読めねーよ。首を傾げたら

「だろうね。あなたどうせ高校もろくな所行かなかったんだろうしね」

だって。

 その通りだから答えようがなかった。

「あなた、反物巻ける?」

だって。

「巻けません」

と答えたら

「だろうね。そうだろうね」

だって。

 居たたまれなくなって

「もっと頭の良い子に代わりますね」

って言って席を離れた。

 そのお客さん凄い目で睨んでいたよ。

 知らないよ、もう。反物なんて巻けなくたって負けないよって駄洒落じゃないよ。漢字読めなくても感じが良ければいいんだよ、あれ?親父ギャグ。

 ママはママで

「あなた、頭、悪過ぎるのよ」

って言うし。

 その席って言うより、その店に居たたまれなくて一日で辞めた。

 無知ってこんなにつらいんだって学んだ。 


 あたし、自分は水商売って無理だと思った。

 母さんはホステスなんて誰でも出来る、馬鹿の代名詞みたいな職業と思い込んでいる。

 もうひとつ!母さんはホステス=売春って思っている!

 あほか!全然そんな事ないよ。接客技術も、話術も、気配りも必要だし、馬鹿話だけでなく、経済やら何やら、色々な事に精通していないと話題についていけないし、客の名前も勤め先の会社名も覚えなきゃだし、馬鹿には務まらないよ。

 売れているホステスって、毎日必ず新聞を隅から隅まで読んで、どんな客のどんな話題でも上手についてっていたし、1回付いたお客の名前も会社名も役職も前回どんな会話したかもばっちり頭に入っていたしね。

 あたしなんて、どのお客もみんな同じオヤジに見えて(ホント!)、名前も何も覚えらんなくて、いつも名前呼ばずにごまかしながら接客してた。ああ無理だって思いながら。

 給料だって、世間の人が思っているほど高くないしさ。時給は良くても、拘束時間が短いからあんまし稼げない。

 それに同じ時間働くにしても、昼間と夜じゃ、疲れ方が全然違うんだよ。

「楽して稼ぐ事を覚えたら、もう普通の仕事は出来ない」

とか説教たれてくるお客もいたけど、全然楽じゃないよ!むしろ苦労してるよ!胃に穴が開くほど気を遣うし、緊張だってするよ!

 馬鹿にするな!ちきしょおおお!!


 次に選んだのはレストランだった。

 メニューが多く、セットで何が付くだの、ソースは何を選ぶのと、覚える事が多くて久しぶりに脳をフル回転させたぜ。

 ランチタイムは戦争みたいになるし、重いものを運ぶから体はきついけど、ホステスやってお客と苦手な会話したり、嘘つき呼ばわりされて責め立てられるよりいいや、と頑張れた。

 そこはそんなに嫌じゃなかったよ。あたしゃ喜々として働いていた。給料日を待ちわびながらね。


 だが父さんは言った。

「お前、学校に戻る気はないか?」

 ある訳ねーだろ!

「退校になるぞ!退校に!」

 そうなりてーんだよ、分かってねーな。バカジジイ!

「誰のお陰で生活してる?誰のお陰でこの家に住める?」

とも言っていた。

 あははははははははは。さすがに

「誰のお陰で学校行ってる?」

とは言えなくなったね!

「それでも育ててもらった恩は残るんだから!」

とは言っていたけどね。

 いくつになっても「家族を養う」ってー覚悟は出来ないんだねえ。自分の稼いだ金を家族の為に使うのがとことん嫌で、見返りばっかり期待するんだねえ。

 母さんは、あたしに家事を頼まなくなった。ラッキー!ってなもんよ。頼まれたってやらないけど。

 だが、口を開けば嫌味を言った。

「あんた、あんまり顔がしわだらけでびっくりした!たばこ吸うからよ」

だの

「その店は、昼間は喫茶店でも、夜はスナックになるんでしょう?そうなんでしょう?」

だの。

「その店は夜の何時まで営業しているの?」

と聞くから

「10時まで」

と正直に答えれば

「ああ、バーね」

と、したり顔で言うし。

 まったく、ウルセーよ。バカババア!顔がしわだらけと言えば、あたしがたばこやめるとでも思ってんのかよ!鏡をよくよく見たけど、あたしゃしわなんかねーよ!お前と一緒にするな!

 ああ、バーね、なんて、そんなにあたしに水商売して欲しいのかよ!そうあって欲しくないならわざわざ言うなよ、聞かされるこっちの身になれよ。

 いつもいつも「そうなって欲しくない状態」に言葉を重ねるなよ。そうなったらどうすんだよ。

 だいたい夜の10時に閉まるバーなんて聞いた事ねーよ!水商売を売春と間違え続けてるし。あれはれっきとした接客業であって、客といちいち寝る訳じゃないんだよ。それをまるで分かっていないアホ面母さん。

 前にあたしの働いている喫茶店に来て、窓から中を覗き込んでキョロキョロ見回してやがった事あるし、夜は飲み屋になるのかどうか見たかったんだろうけど。   

 で、中にいたあたしと目が合うと、急に知らん顔して立ち去るし、ホントあほ!

「早く働いて好きな物好きなだけ買いなさい」

って言ったのだってどうせ忘れてるんだろうし。

 仮に思い出させてやっても

「誰が中卒で働けって言ったの?」

って憤然と切り返してくるんだろうしね。

 食事もわざとあたしの分だけ作ってくんねーし、あたしの使ったお皿だけ洗わねーし。

「あんたはいないものと思っているから」

だの

「あんたは小学生くらいで死んだものと思っているから」

だの、

「あんた、まさかと思うけど妊娠してるんじゃないでしょうね」

だの、もううんざりだよ。

 もーおー、黙っててくんねーかなー。

「あんた、新宿に行ってるんでしょう!」

とかほざくし。新宿?どこだよ、そこ。知らねーよ。行き方も何も。成田人のあたしにとって、当時千葉でさえ大都会、新宿なんて外国、まして銀座や六本木なんて宇宙だったよ。

 あはははははは!電車どう乗り継いで行きゃいいのか、知らんでー!!!


 姉ちゃんもあたしを相変わらず無視していた。まったく目を合わせないし。

 いじめられるのも嫌だったが、無視も同じくらい嫌だった。相変わらず自分に妹なんていないって言い張っているし。

 そうかよ!そうかよ!


 そして働き始めて2か月後、あたしの退学が正式決定した。


 母さんが普段の百倍のヒステリーを起こしてやがる。

「これで全部が無駄になった。全部が!」

 怒りながら泣いてやんの。

「あんたを生んだ事も!苦労して育てた事も!何もかも!」

 中卒は人間じゃないって事かいな。

「どうしてくれるのよ!いったいどうしてくれるのよ!」

 どうする気もなかった。ってか、どうしようもなかった。

 上級生のリンチが怖いから行けないんだ。「行かない」のではなく「行けない」のだ。そう言えなかった。母さんに早く向こうへ行って欲しいだけだった。

「あたしあんたなんかいらないっ!あんたが中卒ならいらないっ!中卒の娘なんていらないっ!いらない!いらない!いらない!!!」

 そうかよ、そうかよ、まだ言うのかよ。

「あんた、今度こそ本当におしまいよ!本当におしまいよ!中卒のあんたにどんな未来があるっていうのよ!もう何も出来ないし何やったって無駄よ!無駄無駄無駄!!あんたは小学生レベルの学力しかないんだからね!!」

 だったらなんだっつーんだよ、卑下しろってか?

 母さんはあたしが

「定時制なら行ってもいい」

って言ったのを突っぱねたよね?もしかして定時制なら続いたかも知れないじゃん。勉強も凄く後戻りしてスタートしてくれるっていうし、だったらついて行けたかも知れないじゃん。あとは通信制とか。

 全日制にしたって単願ではなくいくつか受けさしてくれてどこの学校がいいか選ばせてくれた訳じゃなかったし、何にせよいくつか選択肢を出してくれて、どれがいいか選ばせてくれた事なんていっぺんもないじゃん。

 自分の意志で選んだ道なら続けられる可能性はあるけど、いつもいつもこれしかない、一択、だからこうしろってヒステリックにわめいてさ。1から10まで命令して、思い通りにならなきゃ切れるし、あたしゃあんたの奴隷でも持ち物でも何でもないよ。自分で決めさせてくれよ!

 それに中退したらしたで、定時制か通信制高校に転入する事も出来た筈。大検受けるとか、そういう選択肢も何もなく、中退=おしまい、どうしようもないただの馬鹿って決めつけて、暴れ狂って、わめき散らして、もううるさいよ。本当におしまいなのあんただろ!

 とにかく早く黙ってくれよ、早く向こう行けよ。

「散々お金かけさせて!散々手間かけさせて!散々苦労させて!何の役にも立たない!あんたなんて死ねばいい!死ねばいい!死んでよ!本当に死んでよう!」

 どうかその口を閉じてくれ。

 本当に閉じてくれ。

 どうせ孤独。いずれにしても孤独。

 なら、放っておいて欲しかった。


 いづらい家を後にして、友達の家に行ったよ。

「定時制か通信制の高校に行こうかな」

って言ったら

「4年かかるよ。20歳になっちゃうよ」

って馬鹿馬鹿しいって感じで言われた。他の3人の友達も同感って顔で頷いている。

 けどさ、16歳のあたしが4年後に20歳になるの当たり前じゃん。要はどう4年過ごすかじゃん。同じ4年なら、何もせずにただダラダラ過ごすより、何かやりながら過ごした方が良いと思うんだけどなあ。

 あたし、間違っているかなあ。母さんもどうせ同じ事言うんだろうし、なんてーか、あたしを八方ふさがりの状態に追い込んでるの周りって気がするんだよなあ。

 あたし、おかしいかなあ。20歳まで生きていないんだろうから、どうでもいいのかなあ。

 あたしいつ死ぬんだろ。早く死にてーよ。

 帰りたくない家に、だらだら帰る。


 朝、出かける前にシャワーを浴びた。

 体を拭き、洋服を着てから湿気を逃がそうと、浴室の窓を開けて自分の部屋へ上がった。

 3分もしないうちに、ノックなしにいきなりドアがバン!と開き、激高した母さんが立っている。

「あんた!風呂場の窓が全開だったわよ!!そんなに自分の裸を人に見せたいの?そんなに見せたいの?頭おかしいんじゃないの?このストリッパー女っ」

 服を着てから開けたよ、そう言う気力を一気に奪われた。

 何で、窓全開でシャワー浴びたって決め付ける訳?開けたまま浴びたのか、服を着てから開けたのか、それくらい確認してから怒ってくれよ。そんなにあたしをストリッパーにしたい訳?色眼鏡でしか見られない訳?ああ、うぜーよ!もう何もいう気がしなかった。

 赤鬼より真っ赤な顔の母さんが怒鳴り散らす。

「出てってよ、さっさと出てってよ。あんたみたいな汚らしい娼婦を家に置いておくだけで恥ずかしくてしょうがない。早く死んでよ。ほらほら!死んでよ死んでよ!言っておくけどこれは冗談でも脅しでもなく本気よ。あたしは本気であんたを憎んでいるのよっ」

 毎度のパターンで、言っているうちに興奮してきた母さんが、顔をくしゃくしゃにしながらあたしをスリッパでひっぱたく。

「やめてよう!やめてよう!!裸を見せたり、男の子とセックスしたり、そういう事するの、もうやめてよう!そんな事するなら死んでよう!!ほらあ!ほらあ!死んでよおおお!」

 スリッパを投げ、そこにあったドロップの缶を投げ、ヒステリックにドアが閉められる。

「あんたは死んだものと思っているからね!」

 毎度おなじみのセリフも飛んで来る。

 ああ、やっと今日の修羅場が終わった。ある意味ほっとしながら、そして心底嫌な気持ちになりながら化粧を始める。

 娼婦とか死んでくれとか、実の娘によくそんな事を言えるね。何度目かもう分からんが。


 翌日の修羅場もきちんと仕掛けられていた。

 風邪気味で病院へ行くつもりで保険証を探していたあたしの後ろ姿に、母さんの罵声が飛んできた。

「保険証ならないよ。あんたに保険証は貸さない!」

「は?何でよ?」

と振り返ったあたしに、母さんは得意満面で言い放った。

「あんたに保険証貸すと、産婦人科に行って中絶手術する。それが父さんの職場に知られたら出世に響く、とんでもない事になる。だから絶対に貸さない!」

 そいつぁー物理的に困るぜ。苦手な反論をしたよ。

「そんな訳ないじゃん、医者がわざわざそんな事言う訳ないじゃん」

「言うに決まっている!絶対に言うに決まっている!!」

「じゃあ風邪引いたり怪我したらどうすればいいのよ!」

「知らないわよ、そんなの。自分で何とかすればいいじゃない!あたしはあんたからこの家を守るんだから!」

「おお、素晴らしいね。そうしなよ。誰より家を引っ掻き回しているのあんただよ!」

「どうして?あたしに何のミスがあるのよ!あたしは万にひとつも間違った事は言っていないし、していないわ!断言するわよ!」

 母さんは本気でそう思っているらしかった。自分は絶対に間違っていないと。

「あんた、まさかと思うけど妊娠してるんじゃないんでしょうね!」

「またそれ?いい加減にしたら?嫌らしい、馬鹿じゃないの?」

「当たり前じゃない、親にそんな心配させる娘がどこにいるのよ。あんたが悪いんじゃない。あちこちでセックスしているあんたが悪いんじゃない。悔しかったらまっとうな道を歩いたらどうよ」

「悔しがっているのはあんたでしょ。まっとうじゃないのもあんたでしょ。大体妊娠しても中絶できないなら産むしかないじゃん。そんなにあたしに妊娠してもらいたいの?あんたの言う事なす事めちゃくちゃだよ!」

 そう怒鳴ってやったら、また得意満面で言い返してきやがった。

「じゃあセックスしなきゃいいじゃない!そうすれば妊娠の心配もこっちだってしなくていいんだから。ふふっ、まあ、あんたは小さい頃から、手のしわが多かったからね。この子は苦労する人生を送るだろうとは思っていたわよ」

 この言葉に、ブチ切れたよ。おーおー、ブチ切れたさ。また人の神経を逆なでしやがって!

 あたしの手が荒れているのは、あんたに代わって家事をし続けたからだろーが!「なになにして」と言い続けるあんたの要望に応えてやったからだろーが!

 頭の中で闘いのゴングが鳴り響く。

 母さんを「黙らせる為に」思い切り突き飛ばしてやった。力いっぱい蹴ってやった(この時、わめき続ける母さんを黙らせる為に殴っていた父さんの気持ちがよく分かった)。

 わざとらしく顔をしかめ、両手を前に伸ばし、必要以上に後ろに吹き飛んでいく母さん。

「あたしはこんなにか弱いのよ」ってパフォーマンスだ。

 もっとムカついた。だから滅茶苦茶に蹴りのめしてやった。壁に頭を打ちつけ、悔し泣きしながら亀みたいに丸くなっている、みっともない母親!

 あたしは家を飛び出し、あてもなく走りながら誰か殺してくれないかと本気で思った。

 そう、飛び出したってどこにも行く所なんかないんだから!


 世の中には何とかなるものとならないものとある。

 保険証を貸さないなら貸さないで、「国民健康保険証」の存在を教えてくれればいいものを、母さんはそれさえ教えてくれなかった。何も知らないあたしはそれ以降、風邪を引いてもどこを怪我しても実費で病院へ行っていた。そうするしかないと思っていたから。

「だってあんた、お金持っているんでしょう。働いているんだから」

それが母さんの言い分だった。

「あんた、あたしの言う事全然聞かないし、困らせるから。あたしもあんたの言う事聞かない。あたしもあんたが困る事する」

だの

「あんたは死んだものと思っているからね!」

だの

「あんたがあたしの言う事聞かなかったらそのたびに、あんたの物をひとつずつ取り上げていく。しまいに何もないようにする」

というセリフももう何回も聞いたよ。

 自分の言った言葉くらい、覚えてろっつーの。どうせ前に何回も言ってるって事さえ忘れてんだろ!

 何回あたしを殺せば気が済むんだよ!

 無知なあたしに国民健康保険の手続きの仕方を教えてくれたのは、病院の看護婦さんだった。

 あたしも無知だったけど、母さんも無知で世間知らずでおまけに忘れっぽかった。

 医者にも看護婦にも「守秘義務」ってーものがあって、あんたんとこの娘が中絶しましたよ、なんて職場に知らせる訳ないって事も知らなかった。

 もうひとつ、妊娠は「保険適用外」って事も。

 二人も子ども生んだくせに!!


 母さんは常に「最悪のシナリオ」を抱えていた。

「最悪の事態に備えているのよ」

って言うけど。言えば言う程本当にそういう状態を「引き寄せる」よ!バカだねえ!!

 あたしが妊娠し、誰の子か分からないのを勝手に産む。その子を自分に押し付け、遊びまわる。

 また誰の子か分からないのを孕み、産み、自分に押し付ける。この家に訳の分からない子どもばかりがウヨウヨ増える。

 そのうち覚せい剤に手を出す。犯罪を犯す。自分たちが犯罪者の家族として、マスコミにさらされる。

 週刊誌にもバンバン出る。やくざの情婦になり、そいつに家も財産もすべて乗っ取られる。真顔でそう言い続けていた。

「あんたは一般社会ではバカで役立たずだけど、やくざから見たらいいカモだからいいようにやられんのよ。あんたくらいいいカモいないよ!」

だってさ。

 そうなって欲しいの?そうしなきゃいけないの?

 そうなって欲しくないなら、言わなきゃいいじゃん!

 母さん、気は確かなのかな?この人の方がよっぽどおかしくて、よっぽど狂ってるんじゃないのかな?

 本当に「キチガイ病院」に行くべきなのは母さんじゃないの?

「犯罪やる前に死んでよ!早く死んでよ!」

だってさ。

 誰が犯罪やるって言ったんだよ。てめえの発言こそ犯罪だろ!

 そうかと思えば

「近所には、あんたは中学浪人って言ってあるから」

だってさ。

 相変わらずきちんとものを考えないババアだねえ。中学浪人なんて聞いた事ねーよ。来年どうすんだよ、バーカ!

 いつもあたしに言っているように近所にも言えばいいじゃん。

「次女は死んだものと思っています」

って。相手はどんな顔するんだろうね!

 まあ来年あたしは生きていないんだろうから、あんたの言う通り死んでいるんだろうからいいんだろうけどね!


 言っとくけどね、あたしは「この程度」で済んで良かったと思っているよ。

 だって小さい頃、あんたに父さんと母さんどっちが好き?としつこく聞かれ、耐えられずに幽体離脱しちまった時、もうひとりの自分を見て、あたしこう思ったんだ。

「ああ、酷い目に遭っているのはあたしじゃない。あの子だ」

ってね。

 もっと進んだら多重人格者になっちまったかも知れない。その別人格が、それこそ犯罪やったかも知れねーよ!

 ましだと思ってくれよ!


 あたしは人間扱いされずに育った。

 まるで吠えるたびに電流が流れる首輪をされた犬のようだった。吠えるたびに電流という罰を与えられる方が、どんな気持ちになるか、飼い主にどんな不信感を持つか、憎しみを募らせるか、考えもしないんだろう。

 そしてそんな事をされ続けた犬は、例え首輪を外されても二度と吠えなくなる。吠えたら罰を与えられると学習しているからだ。

「さあ、吠えなくなれ」とばかりに、親はどんどん罰を増やしていった。首輪ばかりか、足輪も腕輪も胴輪も、全身に電流をあてがった。

「あんたが悪いのよ、吠えるから」

「これに懲りて二度とやるな」

それが親の言い分だった。

 だが、こっちは「用があるから」もしくは「伝えたいから」もっと言えば「人間だから」吠えていた訳だ。

 親はあたしを本当に人間扱いしてなかった。


 ただね、これだけは分かって欲しい。

 恨みたくて自分の親を恨む奴はいないんだよ。

 子どもってーのは、ぎりぎり親を憎めない生き物なんだよ。

 親の愛情がなければ生きられないんだよ。

 あんたらは死ねとばかりにあたしを「まったく愛情のない状態」にしやがった。

 小さい頃から生きている事さえ否定され、行く当てもないのに出て行けと罵倒され、些細な事で殴打され、責め立てられ、これでもかとばかりに粗末にされ、メシは抜かれ、交換条件ばかり出され、脅され、その積もり積もった怒りがとうとう爆発しちまったんだよ。出来ない我慢をし続けた結果がこれなんだよ!

 天皇陛下じゃないけど、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んだ結果がこの姿なんだよ!誰も分かってくれないし、あんたたちはあたしをいじめるだけいじめておいて、いじめる方は悪くなくて、そのいじめに耐えられない方が悪いような事言うし、冗談じゃないよ!

 本当の加害者はどっち?

 それのどこが「躾」なの?

 どこが「愛の鞭」なの?

 本当の被害者はどっち?

 子どもは育てた通りに育つんだよ!


 あたしは家でいちばん小さく弱い存在だった。

 それを良い事に、父さんも母さんも姉ちゃんも、あたしを滅茶苦茶にいじめた。あたしをかばってくれる人はいなかった。あたしの話を信じてくれる人も、マチコ以外はいなかった。そのマチコを母さんは遠ざけたしね。

 あたしだけが悪いのかな?父さんや母さんや姉ちゃん、そしてあたしを見殺しにした人たちも悪いんじゃないのかな?

 小さい頃は憎めなかった親が、憎かった。憎くて、憎くて、ああ憎くて、八つ裂きにしてやりたかった。

 小さく弱かったあたしをよくもあんなにいじめてくれたね!よくもそこまでやってくれたね!その頃の自分を擁護し、仇を取るような気持ちだった。

 そしていつもいつも、心の奥底でこう思っていた。

「あたしはきちんとした扱いを受ける価値のある人間じゃないのかな?」ってね。

 …誰も分かってくれなかったけど。


 何故この人はそんな事をするのだろう、と周囲が不思議がる事でも、理解できずとも、当人にはきちんと理由がある。

 それは「そうしたかったから」あるいは「どうしてもそうせざるを得なかったから」だ。そしてほとんどの場合「どうしてもそうせざるを得ない」からそうしているのだ。

 あたしも、マチコも、ぐれているみんなも、どうしても、どうしても、ああ、どうしても、そうせざるを得なかった。

 当時、子どもの非行は100%本人が悪くておかしい、とされていた。みんながみんな、こう言った。

「あなたが悪いの!あなたがおかしいの!あなたの親は正しいの!」

 そう、あたしの抱える孤独、憂い、事情を分かってくれる人はいなかった。


 母さんがほざく。

「あんた、沖本って名乗らないで。あたしはあんたを沖本家の一員として認めてないから」

 黙って頷く。ああ、あたしはますますユウレイだ。名前さえ名乗れないんだから。アルバイト先に出す履歴書に、沖本、とさえもう書けない。


 翌日、母さんが聞く。

「名前、何にしたの?」

 あたしは短く答える。

「相川」

 それは母さんの旧姓だ。

「やめてよ、相川なんて、冗談じゃないわよ!汚らわしい!」

 相川も駄目なのか。疎外感は尽きなかった。


 翌日、また母さんが聞く。

「名前、何にしたの?」

 あたしは短く答える。

「水原」

 母さんがせせら笑う。

「は?水原?かっこいい名前にしたね。馬鹿丸出し!」

 …何だよ、沖本も相川も駄目なら、何て名乗ればいいんだよ。


 だが、あたしのアルバイト先から電話がかかってくる時に、毎回混乱する。うちは沖本なのか?水原なのか?

 あたしが電話に出た時はまだ何とかなるが、あとの3人が受話器を取った時は、かけてきた人も混乱していた。

「水原さんのお宅じゃないんですか?」

だって。そりゃそう聞くよね。

 慌てて

「ああ、お待ちください」

と答え、階段の下から上に向かって

「マリーっ!電話!」

と叫ぶ母さん。

 あんたが撒いた種なんだよー。自分で刈り取ってねー!!

 せめて名前くらい使わせてほしかった。


 ある時、母さんが何だか機嫌良さそうだったので(また展示会で母さんの作品がいちばん評判が良くて、完売して、みんなに褒められたのか何だか知らないけど)思い切って話しかけた。

「この前、シャワーの後、服を着てから窓開けたんだけど」

 母さんは言った。

「でも、そう思うじゃない」

 何が「でも」だよ。ああ違ったのね、勘違いして怒ってごめんね、くらい言えねーのかよ!

 あーもー、言わなきゃ良かった。せっかく歩み寄ってやったのによ!ばかばかしい!!!

 もう何も言わない!!!

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