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午前の授業を受けたがなんだか落ち着かない。

聞きそびれたことがたくさんある。

しかたない、時間もなかったし。


弁当を一人で食べるのもなんだかなあと思って、昼休みがはじまる頃担任に「妹を病院につれていく」と行って家に帰った。

とにかく朝天造の顔が早く見たかった。

母親の顔も。

そういえば母親から直接話って聞いていいものだろうか?

……いままでうちが変わった家庭だとしたら、行方不明の祖父が生きていること

父親が植物人間のまま5年近くも経っていること。祖母のことが話に出ないこと。

もう一人ずついるはずの祖父母の話も出ないこと。

変わっているかはわからないが、母親の料理が異常にうまいことくらいだ。


先日、姉の母乳を飲むまでも変な家だとは思っていたが、もっとおかしくなった。

母親はどこまで知ってるのだろう?

でも今話したら祖父の話をしてしまう……とりあえず帰ってきた俺を母が「どうしたの?」と迎える。

「なんか俺も調子悪くて」

全くの嘘である。帰りに早く帰りたくて元々近い家だが少し走ってみたらめちゃくちゃ体が軽くてすごく早く走れた。

体育の時間はセーブしないと疑われてしまう程度には早かった。

「お弁当、もたせたの食べてないの?」

「あ、うん。朝天造の分は?」

「弁当箱に詰めるだけにしてあったからそのままあるわよ」

誰か来た音で目がさめたのか、それとも飯の話をしたからか、朝天造が二階から降りてきた。顔が少し赤い。

「兄ぃなんでいるの?

おかーさんおなかへったー!」

無邪気にご飯を要求する朝天造は顔が少し赤い以外いつもの朝天造だ。

この体に神に匹敵する力が入ってるとはとても思えない。

俺に変化があったのだから、朝天造にもなにかきっかけがあればなにか起こるかもしれないんだが……。

「普通に食べられそうなの?」母親が朝天造に聞く。

「うん。熱ある以外別になんともないよ

で、兄ぃは?どしたの?」

「いや、なんとなく帰ってきただけ。俺も弁当あるから一緒に食べようか」

テーブルに弁当箱にあけた俺の弁当と、皿に載せた朝天造の分の昼食が並べられる。

そういえば昼に母親は何を食べているのだろうか?

「かーちゃん、昼間何食べてるの?」

「あんたがたに作った弁当のあまりとか」

しかし今日は一緒に昼食を食べる気配がない。

「食べないの?」

「今日はもう食べちゃった」

朝天造は皿に盛り付けられたおかずで茶碗に盛られた米を食べている。

「お弁当のお米も好きだけど、温かいおかずとお米だと違うね!!」

はやる気持ちを抑えるようにひとつのおかずごとに少しずつ食べながら俺の弁当箱の中身を見る。

「兄ぃの……弁当も」

「あんたのも温めるわよ、お米はよそいなおすか卵だけだけどチャーハンにしようか」

母親もめんどうだろうに、ありがとう、と小さくつぶやいてされるがままにした。

「チャーハン!!」

朝天造の声だ。

しばらくすると先に温めたおかずが皿にいれて出てくる。

あたり前のように朝天造が手をだしてくる。

俺も朝天造の皿のおかずをいただく。

すると、黄金色に光るパラッパラのチャーハンがテーブルに出された。

「チャーハンを……おかずがあって米として食べるって……

サイゼリヤでハンバーグをおかずにミラノ風ドリア食べるくらい贅沢……いや、サイゼリヤはサイゼリヤでおいしいけどうちは母さんが料理上手だからその……何倍!?」

千葉県民らしい驚きを早口でまくし立てると朝天造は俺に白飯を半分押し付けチャーハンも食べだした。

「おいしい!パラパラ!」

そうして俺もよりどりみどりのおかずと白飯とチャーハンをお腹におさめた。

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