第32話、色々な意味で、ちょっと心配性に過ぎるくらいがちょうどいい




なるほど、此度の依頼……その条件、参加資格のせいでクリムくんは女装と言うか、女性化しているらしい。

その生き様に漢を感じて、拒否感が和らいで。

お主も好きよのう、なんて一人ごちつつによによしていると。



「おしゃは……大丈夫ですか?」


そう言えばおれっちも雄だったと、改めて気づかされた君の呟き。


「みゃん!」


大丈夫って言うか、こんな美味しい依頼……じゃなくて、君を一人にするなんてありえないだろ? 絶対ついてゆくぞ、とばかりに一声上げ、ひしっと君にいつもより余計にしがみつく。


「そうねぇ……前例があるかどうかも分からないし、登録と面接がてら聞いてみましょうか」

「面接で何されるのか、ちょっと楽しみね?」

「べ、ベリィ、はしたないですわよっ!」


ウェルノさんの言葉に、有無を言わせず引っ張る、やっぱり楽しげなベリィちゃんの言葉が重なる。

それに、いろんな感情がごちゃ混ぜになってる風のクリム君がいて。


「あ……」


手を引くでもなく、自然と歩き出すウェルノさんたちに。

君も一緒になってついてゆく……。



そうして、いざ登録をし面接よ、といったくだりで。

君がギルドにまだ登録していないことが発覚した。



「それで一人旅って、おしゃちゃんもいるけど、剛毅ねえ。じゃあ、先に登録すませちゃいましょ。ついでにパーティ登録もしときましょうか。そうすれば、ティカも討伐依頼受けられるし」


だが、それに対しベリィちゃんはお構いなしであった。

所属すらしていなかった理由も聞かず、甲斐甲斐しくも君のギルド所属登録を済ませてしまう。


「あ、あの。でも、パーティは……」

「ん? もしかして、組む人いるの?」

「はい。……レンさん、キィエさん、ジストナさんに、一緒に依頼を受けませんか……と」


正確には、『パーティ』を組むことではなく、『海の魔女』討伐を一緒にしないかと誘われたわけだが。

階位のことを言わなかったことを考えると、元々パーティを組むつもりだったのかもしれない、と君が考えるのは理解できる。

まぁ、あくまでその言葉が彼女たちの本意であったのなら、の場合だが。



「……ふぅむ。ロエンティ王国のものではないようだけど、すみません。今、参加登録を終えている方のリストなどがあれば見せてもらってよろしいですか?」

「かしこまりました」


ウェルノさんの言葉に、かっちりとして真面目そうな受付のお姉さんは、一つ頷き何やら紙の束を取り出す。

そして、提示されたそれを見て。


「ああ、既に参加登録されてるわね。パーティ登録にはそのパーティの代表者の立会いが必要、だったかしら?」

「はい。そうしませんと、有力なパーティに勝手に所属してしまう、なんて事例もありますので」

「その子たち、どこにいるか分かる?」


ウェルノさんと、受付のお姉さんのやり取りを受け、問うのはベリィちゃん。

君はそれに眉を寄せ、首を振るしかなかった。

街に入ってからギルドへやってくるまでの間、彼女たちを見かけることはなかったからだ。


考えうる最悪は、のこのこ街に入ってきたおれっちたちをみんなで待ち構え……といった感じだったので、拍子抜けしたと言うか、山狩りの件は彼女たちともおれっちたちとも関係なかったのかな、なんて考えてしまうおれっちである。



「うーん。そうしたら一旦私たちとパーティ組んでおいて、参加登録だけしちゃわない? その子たちに会ったら、またパーティ組み直せばいいんだし」

「わ、私なんか……いいんですか?」


君のそれは、自分なんか、と言う意味合いだろうが。

そこには、ギルド初心者でもいいのか、と言う意味合いも同時に含まれている。


「ティカさまの珍しい【火(カムラル)】の治癒魔法を見れば、ある程度の実力は分かりますわ。わたくしも【火(カムラル)】の術を得手としておりますし、火の使い手であるからして、当然攻撃魔法は使えるのでしょう?」

「あ……はい。一応は」


得意げに、あるいは同じ属性が主であることへの仲間意識か、そう聞いてくるクリム君に、君は曖昧ながらも頷く。

確かに君の攻撃手段、その主力は【火(カムラル)】属性の攻撃魔法であろう。


だが、そこに無意識に【闇(エクゼリオ)】の魔力が混じってしまうことは、この世界で常識の範囲かどうかは怪しかった。

そもそも、君の火力は一応などと言うレベルではすまされない。

おれっちを含めて、攻撃を与えるべきもの以外の周りの全てに影響を与えずにすむ攻撃魔法なんて、君は数えるほどしか使えないはずで。


「よし、それじゃ、仮にでもパーティ登録しちゃうけど、いい?」

「……お、お願いします」


君にしてみれば、未だ戸惑いの方が大きいようだったけど。

仲間になろうと誘ってくれることは、おれっちにとっても、嬉しいことなのは確かで。


それはきっと、君のためになるはずで。

ほぼ初対面に近い、素性の知れぬ君をパーティに引き入れる訳は、おれっちが考えればいいことだった。


面倒臭いから、やれることは一気にやってしまえばいい。

本当にそれだけが理由であるのならば。

おれっちもこんな無粋なことに頭を悩ませる必要はないわけだけど……。



             (第33話につづく)






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