第27話、老若男女、神様天使悪鬼羅刹構わず誑すねこのこの世で一番苦手なもの



ユーライジアの世界ではもはや化石レベルのあるあるだけれど。

この世界では違うのかもしれないって。

もっとご主人さま……君としっかり話し合っておくべきだったかと。

気を逸らしたのが、そもそも間違いだったらしい。



「おら、どけっ!」

「……ぎっ!?」


三人組のうちの一人(有象無象の男どもは、顔も名前も覚えられないのだ)が、いきなり足を振り上げたかと思うと、おれっちの頭の何倍もある靴先が、おれっちのぴかぴか白い一張羅に減り込んだではないか。


衝撃とともに、驚きで声が出る。

ナンパ相手の所有猫だと分かっていて、そんな暴挙に出るとは。

仲良くする気などさらさらないのか。

周りが見えず正しい判断ができなくなるくらい、君にやられてしまったのか。

あるいは単純に猫が嫌いなのか。


冗談でなく普段から、男女に関わらずこの容姿で母性本能的なものをくすぐり、そのような仕打ちなど受けたことのなかった自分にしてみれば、やはり違和感がつきまとう。

はたして、正常な精神状態で、このような仕打ちができるのかと。



「あちっ? ってーなぁ!」


衝撃の瞬間、爆ぜる【光(セザール)】の魔力。

おれっちの身体を常に覆っているそれを受け、痛みに顔をブサイクにするチンピラ一号。


その光の衣のせいで、おれっち自身には見た目ほどダメージはなかったが、それ以前に質量の差がありすぎる。

少なくない衝撃を逃がす意味もあったが、あまりに軽いおれっちは、あっという間に吹き飛ばされる。

自然と身体が丸まり、視界がぐるぐると回転する。

回転しながら、おれっちは自分の迂闊さに大いに焦っていた。


天地の入れ代わる視界に映るは、茫然自失する君の能面のような表情。

更にその髪より尚色濃い闇色が滲み出ているのを感じ取って。



「みゃあああああぁっ!!」

「……っ」


おれっちは怒鳴った。

形だけ猫の鳴き声で。

本気の怒りを、威圧を、君にぶつける。


びくりと震え、我に返る君。

思わず動きを止める男たち。

何事かと騒ぎ始める、有象無象。

とりあえず最悪な結果は此度も免れたらしい。

うまく尻尾を使って、回転を抑えつつ地面とキスしていると、それを追いかけてくる君の理性的な気配。


それに思わず安堵の息を吐いていると。

凄い勢いで掴まれ、抱き上げられ、抱きしめられる。


それは何しろ急だったので。

覆う力を抑えることもできず。

君の【闇(エクゼリオ)】の魔力とおれっちの【光(セザール)】の魔力が、一層反発し合い、地味に密かに蹴られる以上の負荷を受け、ふぎゃぁと情けない声をあげてしまう。


それに気づき、少し抱擁を緩めた君は。

そこではっきりと分かるくらい、道を塞ぐ三人を睨み付けた。



「お断りします。……おしゃを傷つける人は、どこかへ行って!」


おぉ、ちゃんときっぱりはっきり言えたではないですか。

その進歩に。

君には悪いけど、この出会いにも意味があったかも、なんて思っていたけど。



「うるせえ! いいから来ればいいんだよっ!」


最早、体裁も情緒もまるでなく。

強引に君を囲おうとする男たち。


処置なし、と言う感じだ。

おれっちはやれやれ、とため息を吐き、ちょっとは痛い目見てもらわにゃ駄目かもしれん……あるいは正気に戻してやる必要があるかな、なんて結論に達した時。




ゾクリと。


まるで計ったかのような絶妙なタイミングで。

刹那背筋を凍らせる、おれっちが最も苦手とするものの気配がした。



「【ヒート・カラル】ッッ!」


それは、横合いから飛んできた熱線。

それを受け、無個性な悲鳴をあげて吹き飛ぶ三人組の姿など、最早目に入ってなどいなかった。



「ふぎゃぁああっ!」

「お、おしゃっ?」


全身の毛と言う毛が逆立つ感覚。

慌てる君に応えてやる余裕すらない。


そこにいたのは、ショートソードを下げた、橙のドレススカートを身に纏いし、【火(カムラル)】の魔法に長けていることを表すロングの赤い髪と朱色の瞳……君ほどではないにしろ、細身の美少女。



「みゃっ、みゃみゃみゃっ!」


そう評しそうになった自分を、首振ってまで否定する。

確かに見た目だけなら、出会い頭にもふもふするに申し分なくはある。


だが、その生まれもった匂いは誤魔化せない。

どうやら、その辺りについても、魔法某で誤魔化している玄人のようだが、おれっちには通用しない。



ほんの僅かに匂う、野郎……男の匂い!

男であることを、誤魔化そうとするそれ!


見た目で誘導しておきながら。

おれっちの心の奥底にまでダメージを与える悪魔な存在。

女装、あるいは心が……魂が女性な存在がそこにいたのだぁっ!



            (第28話につづく)






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る