Program 10

第46話 道を切り開け

 赤竜との一騎討ちを続けるケイス。聖剣で切り裂いても赤竜のHPはそうそう減少しない。空中ジャンプを駆使しつつ対空戦を挑むが、回数とのタイミングがズレて空中で留まってしまう。


「しまった!」


 ゆっくりと落下していくケイス目掛けて赤竜が尾をぶつけてくる。ふっ飛ばされて、地面にぶつかりそうになる一歩手前で、ケイスは速度を落とした。岩に激突したがなんとか意識はあるし、骨や筋肉に異常はない。


 尾にぶつかった時、ケイスはその尾を蹴っていた。その一瞬の判断がなければ、即死だっただろう。


 だが、身体中が内側から切り裂かれるように痛んだ。足は常に熱を抱えていて、赤く火照り蒸気を発しているようだった。

 限界は近いがまだ赤竜は健在だ。ダメージを与えているからあっちも鈍っているが、やはり空中戦はこちらが圧倒的に不利だった。






 空中ジャンプを組み上げた直人だったが、すぐにその欠点に気付いた。空中歩行が持続できていないのだった。


『やはり、三回以上は空中を跳んでいられないな……』


『そうだな。跳躍力が保たれていない。これは地面を蹴った力をリピートさせるものなんだが……失速してしまっているな……』


『どういうことなのだ?』


 直人はある仮説を立てていた。ここは現実であってゲーム通りにはいかないという事だ。手に持っていたボールを地面に当てて跳ねさせる。


『力を与えたボールは1度目は高く跳ねるけど、2回目、3回目は力を失ってしまい、最後は地に転がってしまう。それと同じで重力や引力に引っ張られて、跳躍力が落ちてしまっているんだ……』


 ここはゲームとは逆だ。

 ゲームはあらゆるベクトルや運動方程式、重力や撃力げきりょくを与えて世界を構築する。

 けど、こちらは重力や引力を減算しなくてはならないらしい。それさえ調整できれば、問題がクリアされるかも知れないが……。


『俺に……、俺にもっと物理の知識があれば……』


 こんな不完全なものでケイスを赤竜と戦わせる事は出来ない。下手すれば高所から落ちて死んでしまう。けど、何をどう弄ればいい?魔術の中にも『浮遊』や『飛行』ができるものはなかった。飛竜の秘石が見れれば何かしらのヒントが得られるかもしれないが……。


『俺じゃ、無理なんだ……。今の俺には……』


『ナオト!』


 ケイスの強い声に直人は昏い顔を上げる。


『お前は良くやってくれているさ!俺はこれでも戦えるっ!だから、己を恥じるな!』


 直人の卑屈さは恐らく己を守るためだろう。高い理想に自分の未熟さを嘆いているのではなく、常に自分を低く見て傷つかないようにしている。

 それが直人が小心者だからか。いや、違うっ!周囲の環境が彼を追い詰めたんだっ!


『そう……だな。また、悪い癖が出てるな……』


 少しずつだが、直人は自分を肯定するようになった。直人自身が変わろうとしているのだ。


「俺は死なないぞぉっ!」


 ケイスは立ち上がり聖剣を拾って駆け出した。火炎を避けて赤竜の元へ跳んでいく。今度は赤竜の背に飛び乗り、蹴って回数をリセットさせる。

 ケイスは赤竜の周りを高速移動し、視認する隙を与えなかった。


「俺の勝利条件はぁっ!お前を倒しっ!俺自身も生き残ることだぁ!」


 死ぬわけにはいかないっ!

 俺が死ねば、あの男はきっと自分のせいだと嘆くだろうっ!

 これ以上直人の自信を無くしたくないっ!


『俺さ、皆みたいに自分の仕事に誇りもやりがいもないんだ。ただ、自分が生きていくお金を稼げればいいだけ』


 何故、あれほどひたむきで懸命な男を誰も評価してやらなかった!称えてやらなかった!あいつの周りにいた者達に憎悪さえ湧いてくる!


 ケイスは赤竜の片翼を斬り落とし、バランスを崩した所で、もう片方も斬ってやった。空を蹂躙していた赤竜が、血を撒き散らしながら堕ちていく。


「ようやく地に堕としたぞっ!これなら遠慮なく撃てるだろうっ!


デュランダルっっ!!!!」


 ケイスが聖剣の名を叫ぶと目映い光が刀身から放たれる。


『何かに向かってがむしゃらになる事もないし、楽しいと思えたこともない……』


 お前は以前そう言ってたな。

 でも、ナオト。気付いていなかったか?

 俺と一緒に秘石の調整をしていた時、お前は楽しそうに笑っていたぞ?


 ケイスは微笑む。直人の無邪気な笑顔を思い出して……。


 俺も、お前と一緒だと楽しいぞ……。



 聖剣を高々と上げ、光の奔流が刀身に集う。デュランダルが出せる最大最高の聖なる威力。




「カウーバウトッッ!!!ロォォードッッ!!!!!」




 聖剣を振り下ろすと光の束が一直線に赤竜に向かう。迎撃に放たれた火炎をあっさり打ち消し、その光は赤竜を真っ二つに切り裂いた。

 その光は肉を切り裂き、地を抉りながら駆け抜けていった。跡には一筋に切り開かれた『道』が残る。

 ケイスは聖剣を突き立てなんとか体勢を保つ。霞む視線の先に半分にされた赤竜が動かず、肉塊になったのを確認し、勝利を謳う。


「赤竜…………

…………討ち取ったぞっ!」





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