第43話 終末の秘石

 先に進むとまたも咆哮が轟く。空の向こうから黒い雲のような群れが、懸河の勢いで攻めてくる。飛竜の軍勢だ。


「ナオト達は先に行ってくれ」


「クロエさん!飛竜は頼みます!」


「任せろ!」


「皆さんも気を付けて……、誰も……死なないでくださいね」


 直人の言葉は重く篤実とくじつなものだ。だが、クロエとしてはケイスに掛けたような力強い言葉の方が良かった。


「案ずる事はない!ナオト。私の部下は誰も死なせないさ」


 銀の髪を揺らして言い放つ様は、凛々しく勇ましい。リアルでこんなシーンを見れるとは思っていなかった。


「ちょーカッコイイです!クロエさん!」


 ナオト・モニカ・リナを送り出し、騎士達は列に並んで弓を構えだした。騎士の一人が望遠の魔術で敵との距離を計る。


「第一陣来ます!距離400!」


 クロエは矢を番えさせ、距離が200メートルになったら、一斉に射らせた。


「放てっ!」


 一斉射撃された魔術の矢は飛竜に当たると爆発し何体かを落とす。間髪入れずに第2射を撃ち、飛竜を牽制して一匹たりとも近づけさせないようにした。








 坂を登った先に石積みの建造物が見えてくる。終末の秘石室には扉などなくすんなり中に入れた。『灯火ランプ』で照らすと赤銅色しゃくどういろの石に刻まれたコードがあった。『赤竜』『飛竜』『天変地異』。その全てのシナリオが記されている。

 リナが最初に攻撃魔術で秘石自体の破壊を試みる。だが、『衝撃インパクト』の破壊力は何かに吸収されたように、飲み込まれて消えてしまう。


「ダメですわ!攻撃魔法で秘石自体の破壊はできません!」


「何かしらのプロテクトがかかってるのかもしれない。けど、『消去デリート』と『カーバーめ』は使える!書き換えはできるはずだ!」


「ならば、ここは二人にお任せします。わたくしは騎士達の加勢に行きますわ」


「気を付けて……リナさん」


 秘石の改変は秘石師二人の役目。リナは戻って魔術による加勢をする役割分担になっている。


「ナオト、今だけ指輪をはめてもらえるかしら」


「え?……はい」


 直人はシャツの中から指輪を取り出して、リナがチェーンを解く。エメラルドグリーンの指輪を薬指に付けると、『防護プロテクション』と唱える。


「魔法石に防衛の魔術を掛けておきました。それと……」


 リナは帽子をとって直人の唇にキスをする。そっと触れる程度だったが、リナの行動に驚く直人。


「か……加護の、魔術ですわ……」


「……あっ、ああ、そーなの?」


 そんなものはない。嘘である。キスをするのにこんな口実をするしかないなんて、自分も案外臆病者だ。

 惚けている直人を置いて出入り口に向かうリナ。モニカと目が合ったが後ろめたさはない。リナからすればモニカが羨ましかった。常に直人の隣にいれて、彼の一番の理解者でいられるからだ。


「抜け駆けなんてさせませんわよ……」


 すれ違いざまにモニカにそう囁く。女の感で二人に何かしらの進展があった事を感付かれていた。


「…………はい、私も譲りません」


 はっきりとリナに気持ちを告げられても、引くつもりはない。それくらいモニカも本気だからだ。


「ナオト!コードを変えましょう!」


「ああ、そうだな!」


 モニカに言われて頭を切り替える直人。秘石の解析を始めた。




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