第34話 暴露

 翌日、直人の審議が行われた。彼の罪状は『涜神とくしん』。神を公然と侮辱した事だ。裁判所に連行された直人とモニカは制服は脱がされ、グレーの服をきて、法廷に魔術で固定される。

 判定を執り仕切るのは司法官と原告人の大司教、そして国王の三人だ。国王の役割としては、被告人の弁護と糾弾、どちらの権利も持っており、出来れば直人の冤罪を訴えようと思っていた。


「この男は秘石を歪め、あまつさえ『神』を冒涜した異端者だ。神とその理を穢す改悪者は厳正に処罰すべきである!」


「被告人、ナオトよ。弁明する事はあるか」


 直人は黙っていた。

 弁護人がいないこの場においては、己の潔白は己が示さなくてはならないが、直人は沈黙を続ける。隣にいたモニカが口を開こうとした時、直人の覚悟が決まった。


「モニカ……俺が今から何を言っても、黙っててくれ……」


 直人は大きく息を吸い、声を張り上げた。


「そうですよ。俺は……悪魔です」

「なっ……」

「えっ、……ナオト?」


「この世界を作り上げたものを『神』とするのなら、神の意志に反する俺は『悪魔』なのでしょう」


 自らを『悪』と認めてしまった直人。モニカ含めジュリアスやリナとケイスも唖然としていた。茫然とする皆を置いてけぼりにして、直人は『暴露』を始める。


「俺は……別の世界から来ました。その世界で俺はプログラマーという仕事をしていました。

プログラマーとはこの世界でいう秘石を組み上げ機能させる職業です。スキル、魔術、祈祷、そして、神託も全てプログラムされた機能です」


 傍聴していた誰もが直人の言葉にざわつく。この世界の根幹を揺るがす告発だからだ。大司教や司法官は狼狽えたが、国王ジュリアスだけは冷静に聞いていた。


「それはどういう事なのだ?」


 問うたのはこの判決を担当する司法官だった。


「あなた達は『神託』によりその職業に就いたと思います。けど、それはあなた達の素質を見極めてなどいません。適当に3つ振り分けられた『職業』を天職だと思っていただけです。

そして、それに必要な『能力』は全て秘石に記されたプログラムが与えてくれます。あなた達はプログラムされた機能の上で自分の人生を生きています」


 裁判所は更に騒然となる。傍聴していた者達は、すぐには飲み込めず衝撃を受ける。


「その薄汚い口を閉じろ!異端者がぁ!『神』と『神託』への冒涜だぞ!」


「そうですね。この世界には神に近しい存在がいます。秘石の保持をし、要望に答えて新しい機能をプログラミングしていた第三者がいた事は疑いようがない」


 それが信仰により崇められていた『神の代理人』であり、自分を呼んだ者だ。


「けど、この世界を見守り管理していた者は、何らかの理由でそれを見届けられなくなったんです。だから、俺をこの世界に送り込みました。壊れたコードを直し、安定を保つために……。


でも、『神』は初めから『世界の終わり』までもプログラムしていた。それが『赤竜』であり、聖典に出てくる『終末』だ。


綻びは前からあったはずです。聖剣は封じられ、祈祷は意味を失い、赤竜が襲ってきた。俺を送り込んだ者は、その滅びを止めてほしかったんです。


だから、俺は今!『ここ』にいます!」


「妄想もいい加減にしろ!人心を惑わす悪魔め!」


「俺はぁっ!この世界を終わらせたくないっ!」


 大司教の言葉を直人は遮った。シンとした静寂の後に、直人の叫びが裁判所を包む。


「この世界に生きている人は『今』を生きている!それは『プログラム』された人生じゃないはずだっ!


『職業』も『能力』も全てシステムにより与えられているのだとしても、生き方を選択し、それに誇りを持ち、努力し、苦悩し、生きている!


そんなの、当たり前で、素晴らしい『人生』じゃないかっ!プログラムされた世界だからって、そんな事は関係ないっ!」


 直人の訴えは、この世界への警鐘。今を生きる人達に投げ掛けた分水嶺だ。


「だから、あなた達が選んで下さい!

『神』に迎合し滅びを待つか!『悪魔』に唆されて世界を変えるか!

それはこの世界に生きているあなた達が選ぶ事だ!俺はそれに従います……!」


 そう締め括られた言葉に、誰も意を唱えることなく、裁判は閉廷した。



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