第32話 対峙
ケイスは空中で停止する赤竜を睨み、屋根の上を駆け抜けて赤竜に迫る。吐き出された火炎を切り裂きながら、跳躍して至近距離で斬撃を喰らわす。
「傷一つ付いていない……」
斬撃で斬りつけた鱗にはダメージが入っているように見えない。落ちながら苦面するケイス。屋根の上に着地すると衝撃で瓦が全て剥がれていく。
「すまぬっ!後で屋根の修理を手伝うぞぉっ!」
体勢を直して赤竜の気を引き付け続けるケイス。噴水の前に直人の姿があった。彼が
「ナオトっ!」
リナがモニカを抱えて戻ってきた。複写を手に持ち直人に駆け寄る。
「わたくしはケイスの援護に向かいますわ!」
リナは踵を返して跳び上がる。モニカを連れて秘石室に入り『
「
直人がスキルを唱えると、コードの一部分が光った。異常がある所を瞬時に抜き出してくれるプログラムを作っていたのだ。
「モニカは抜けた数式の打ち込みを!俺は
「はい!」
直人が秘石を直している間にケイスは赤竜の真下から斬撃を放つ。死角からの攻撃に怯んだ隙に足に力を溜めて跳躍する。
懐に入り直接斬ろうとしたが、火炎を吐かれてケイスはそれを切り裂いた。炎の塊は空中へ散布されたが、今ので失速し赤竜へ届かなくなった。
「ダメだ!このままじゃ落ちるっ!」
空中で自由が効かなくなったケイスは赤竜を睨んだ。すると、背後から突風が吹きケイスを押し出した。振り向くとリナが風の魔術を発動させ続けているのが見える。
「さすがはリナ!良い判断だ!」
追い風を受けてケイスは赤竜の懐に入り斬りつける。腹の鱗も強固で切り裂けないが、打撃を繰り返して赤竜を押し返す事はできた。
体勢を整えている間に秘石の修復が完了し、
「どうだっ!」
秘石室から出た直人は空を仰ぎ見る。最速で
赤竜は再び
その内、赤竜は諦めたのか、翼を広げて撤退していった。直人はその場に崩れ落ちる。たった数分の出来事なのに生きた心地がなく、未だに心臓が落ち着かない。それほどの恐怖と緊迫感だった。
『光が失われ、秩序が乱れし時、赤き竜が現れ、世界は混沌に包まれる……』
明瞭な声でリナが朗読する。
それは『終末の章』と呼ばれる聖典の最終章の記述。王立図書館でリナが直人に終末や赤竜の説明をしていった。
赤竜が去ってから一時間が経っていた。引き上げた赤竜がまた戻ってくる可能性を考え、勇者や騎士達が臨戦態勢を整えている。幸い被害者は0で、ケイスが火炎を払いながら戦っていたので、それによる火災もなかった。
今起こっている事態を整理する。『終末の章』通りの事が現実に起きているということは、これは誰かが初めから仕組んだ事なのだ。
それはこの世界を創造した者なのか……?
「リナリナ~!招集だよ~!赤竜の事についての会議だって!」
聖典を読みながら話していた直人達の元に、オリビアが駆け寄ってきた。
「わたくしが呼ばれているのですか?」
「うん!魔術師としての意見を聞きたいんだって!司書長さんも呼ばれているよ~!」
「承知しました」
司書長と共に図書館を出ていこうとするリナに、直人はもう一つ質問する。
「リナさん、あの赤竜はどこから来たんですか?」
「……章の中では東の果てにある『竜の巣』だと言われていますわ」
『そうですか』と静かに頷く。リナ達を見送り、部屋には直人とモニカが残された。
「シナリオコード……」
「ナオト……?」
「この世界のどこかに『終末』を記したプログラムがあるはずだ。それさえ何とかできれば……」
やっと……、やっとわかった。俺をここに呼んだ者は、この『プログラム』を止めて欲しかったんだ!
人類滅亡論は元の世界にもいつくもあった。核戦争・異常気象・水不足・パンデミック・小惑星の衝突……。でも、それらは全て人類が築いた先に導かれた滅びなのだろう。その時代を生きる人間達が辿り着いた結末ならば、それは必定だ。何を責めることも出来ない。
けれど、これは何なんだ!
何百年も前にこの世界を創造した者が、その終わりまでも組み込んでいたというのか?
だったら、今を生きている人達の運命はどうなるんだ。
みんなそこで死ねっていうのか!
全ての人々を弄んでいるその創造主が許せない。お前なんかが勝手にエンディングを決めるなよ!
「終わらせるかよ!絶対に!俺が、終末のコードを書き換えてやる!」
直人は拳を強く握り、沸き上がる怒りを決意に変えた。
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