第22話 誇り

 旧魔王城から帰ってきた直人達。魔王のコードから聖剣のコードを埋めていき、1度秘石に書き込みにいった。いつも通り一回では上手くいかない。問題点を見つけて組み立てを考え直し、何度も試した。

 だが、聖剣の秘石室を開く度に王と大司教がその様子を見ているのが、嫌だった。自分が本当に秘石を直せるのか値踏みしているのだろうが、ものすごく居心地が悪いのだ。3回目の修正でもダメだった時、大司教が声を上げた。


「また!ダメなのかぁ!本当に秘石を直せるのか!」


「……すみません、最後のコードがかなり破損していて、読み取れる部分が少ないんです。何度も試さないと、……合ってるかどうか、分からなくて……」


 叱責の声に直人は怯えてしまう。会社で何度もクソ上司に怒られていた時の光景がフラッシュバックして、胃が痛くなった。縮こまっている直人を見て、国王ジュリアスが大司教を叱責する。


「声を荒げるな、大司教。それが尽力している者にかける言葉か?」


 直人は顔を上げた。髪と同じ色をした黄金色の瞳が強い視線を送る。


「ナオト、何度試してくれても構わない。これはそなたにしか分からないのだ。聖剣を取り戻してくれるなら、時間と労力は惜しまないぞ」


「……はい」


 王の言葉に直人の気持ちは少し楽になった。『失敗してもいい』と言ってくれる人物に感動していた。

 そうして、修正は6回目に入った。魔族への特殊効果を書き込んで、『カーバーめ』を唱えると全てのコードが光った。秘石が直ったサインだ。


「よし!」


 直人は思わず拳を握った。長く辛い作業を終えた事への喜びと達成感が湧き上がる。

 秘石室にいる全員が台に置かれた聖剣に注目した。修復された聖剣は石の殻を破るように皹が入っていき、最後に弾けて本来の姿をさらけ出した。黄金の柄に装飾。その場にいたケイスが鞘を握って剣を抜いた。

 目映いほどの光が放たれる。

 輝く剣身は聖なる力を示し、あらゆる悪鬼羅刹を退ける威光を見せつけてくれた。直人は伝説の剣の美しさに見惚れている。


「すげぇ、これが聖剣……」


 輝く聖剣にケイスの熱くなった目頭からは涙が一筋流れた。感激は一旦押し込めケイスは王の元で跪いて、聖剣を胸元へ翳す。


「聖剣デュランダルの輝きは蘇り!今、ここに『勇者』の復職を進言いたす!」


「受諾しよう」


 王の快諾により『勇者』は復業した。ケイスはデュランダルを背負い、直人の方を向いた。


「ナオト。お前は己を誇っていいぞ……」


 強い言葉に直人の心臓はドクンと脈打った。


「デュランダルが復活したのはお前に知識があったからじゃない!お前の行動がそれを導きだしたのだ!俺はナオトに敬服する!」


 ケイスは右手を強く差し出す。赤い眼が強く見つめてくる。


「勇者『ケイス』と聖剣『デュランダル』の誇りを取り戻した恩人として……、我が朋友として……」


 直人は手を差し出し、ケイスの手を握る。木炭で黒く汚れている手だが、今はそれが誇らしい。








 聖剣デュランダルの復活は国を賑わせた。翌日に聖剣復活の式典が行われ、光輝くデュランダルが民衆の前で公開された。誰もが歓喜し、喝采と拍手を送った。直人とモニカも王都の大広場で勇者が掲げる聖剣を仰いでいた。


 二人は式典が終わって自分達の町に帰ってきた。ずっと騎士団本部と王宮にいたから、この町に戻ってくるのは一ヶ月ぶりくらいだ。町もお祭りムードで広間に人が集まって、音楽を奏で、リズムをとって踊り、屋台のような物も出されていた。


「んん、このパイめちゃくちゃ美味いな!」


「こっちのマヒィンもおいしいですよ」


 モニカが差し出してきたマヒィンを頬張ると、中にジャムが入っていて苺の甘味が口の中に広がった。屋台をぐるりと一周して音楽に合わせて踊っている人達に混ざってみた。ステップとかは全く分からないが、ぐるぐる踊っている内に覚えていった。

 祭りを存分に楽しんだ後で、お酒を一本買って二人で祝杯することにした。事務所でグラスの用意をしていると、聞き慣れたでかい声がドアからやって来る。


「おお!ここであったか!モニカの事務所はぁ!」


 驚いてその方向を見ると、勇者の服装を脱いでいるケイスがそこにいた。


「ええ、ケイス!なんでここにいるんだ?今日の主役だろうに!」


「はっはっは!俺など聖剣のおこぼれに過ぎぬ!デュランダルだけ式場に飾って、俺はお暇して来た!」


 盗まれたりしなのか?まぁ、聖剣は勇者以外には扱えないプログラムになっていたから、盗っても意味ないか。


「今から直人と祝杯をするところなんです!ケイスも席にどうぞ!」


「かたじけない!来る途中で鶏の丸焼きを貰ってきたから!皆で食おう!」


 紐で巻かれた紙袋から鶏を丸々一羽焼いた肉が出てきた。わぁっ!ローストチキンというやつか!初めて見た!香ばしい匂いと綺麗な焼き色の肉に興奮していると淑やかな声が割って入った。


「あら……祝杯ですのに、わたくしは仲間外れですの?」


 振り向くと私服姿のリナがいた。白いブラウスとワインレッドのスカート。うーん、お嬢様だなぁ。


「すみません!リナさん!連絡する手段がなくて……」


「いいですわよ。後で『番号ダイヤル』を教えますわ」


 『番号ダイヤル』とは、離れた場所にいる人と連絡を取れるスキルである。要は電話だ。


「肉だけで宴をするつもりでしたの?ずいぶんと侘しいですわね。運んできて頂戴!」


 リナの声かけで数人の使用人が料理を運んできた。パエリアにキッシュにポトフ。わざわざ作って持ってきてくれたのか?ローストチキンも皿に乗せて机に並べると、食卓は豪勢になった。


「おお!すげぇ!」


「ワインと麦酒も持ってきましたわ!どうぞ!召し上がれ!」


 この世界では、一人前に働いている人ならお酒を飲めるらしい。直人は割りとお酒が好きなので一層喜び、グラスに入れて皆で乾杯する。


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