第15話 旅

 西へ向かい馬車を進ませる。旧魔王城は山を一つ越えるらしい。常歩なみあしで一日50kmを進み、ミングランドという街に着いた。日が傾いて来たので、宿に入り食堂で夕食を取る。4人で食卓を囲むなんて学校の給食みたいだな。こういう時って何を話していいんだか分からないけど、それぞれの生い立ちについて話していたら、案外盛り上がった。


「ええっ!リナさんってまだ15歳なんですか?」


「そうですわよ、何かおかしくて?」


 いやいや、おかしいでしょ!どうやったら15歳でそんなに発育がいいわけ!なんて事いったら、セクハラおやじだから止めておこう。


「いや、落ち着いてるし見た目も大人びてるから、俺と同い年くらいかと……」


「ナオトはいくつですの?」


「え?……ああっと、25です」


「えええぇぇぇぇ!」


 一番大きな声で驚いているのはケイスだった。モニカもリナも口をあんぐりと開けている。そうだよな、こんな頼りない25歳はいないよな。


「なんとぉ!俺よりも10も年上ではないか!驚きだ!」


「私も18くらいだと思ってました」


「そうですね。私たちよりも長く生きているのですから、もうちょっとしっかりして欲しいですわね」


 15歳の子供達に散々な言われようである。確かに彼らは若いのに成熟度が高い。恐らく、幼い頃に『神託』を受けて将来を決め、それに向けて邁進するので、一人前になるのが早いのだろう。自分の未来で悩む時間が短縮されるのだ。


「俺の国では『神託』がなくてさ。自分のなりたいものは自分で決めなきゃいけないから、どうしても一人前になるのが遅くなるんだよ」


「そんな国もあるのか!世界は広いな!」


「『神託』がないなんて、ちょっと信じられませんわ」


「そういえば、皆はどんな神託を受けたんだ?3つ与えられるんだよな」


 自分は『無職ノー・ジョブ』だったので、他の例を知りたくなった直人。リナが最初に答えた。


「わたくしは『官吏』『王立司書官』『宮廷魔術師』でしたわ」


「うわぁ!詳しくないけど絶対エリートコースじゃん!」


「エリートコースとは何だぁ!」


「えっと、出世街道?頭がいいってことかな?」


「まぁ、確かにどれも幅広い知識が必要になってきますわね」


「じゃあ、なんで『宮廷魔術師』を選んだんだ?」


「一番難解だと思ったからですわ」


「あっはは!上昇思考が強いんだ!すごいね」


 直人の真っ直ぐな言葉にリナは少し顔を赤らめてワインを飲んだ。話してみて彼女が高飛車な女じゃないことはすぐにわかったし、高い理想像に向けて努力している人だと感じた。


「モニカは?」


「『花屋』『縫製師』『市井魔術師』です」


「ははっ!なんか全部似合ってる」


「最後まで花屋と迷いました」


「決め手は何だったんだ?」


「一番人の役に立てる仕事だと思って……」


 彼女らしかった。秘石の件もモニカが率先して動いていたし、人のために奔走している姿は眩しく思える。


「ケイスは?」


「俺は『勇者』1択だぁ!」


「おお!勇者になるために生まれてきたってか!かっけー!」


「おお!そのために日々研磨しておる!」


 そう真っ直ぐな言えるケイスが羨ましかった。自分の職業とやる気のベクトルが同じな事ほど幸福なことはない。


「ナオトはどうでしたの?」


「えっ、俺は無職ノー・ジョブだけど?」


「この国では無職ノー・ジョブでも、前の国ではプログラマーというのをしていたのでしょう」


 そうか。前職っていうか元の世界にいた時の話をしているのか。う~ん、差し障りない程度に話すか。


「ああっと、元々はゲームっていうものが好きで、将来はそれを作る仕事がしたくてさ。いろいろ役割はあるんだけど、プログラマーが一番安定してるかなって……」


 ゲーム制作に置いて、プランナーやキャラデザ、イラストなどは険しき道であるし、途中で挫折する人が多い。でも、3Dやプログラマーは技術さえ修得してしまえば、引く手数多の職業だった。


「他の仕事は潰しが効かなかったり不安定だけど、プログラマーは必要不可欠な仕事だからさ、食いっぱぐれる事がないだろうと思って……」


「それでプログラマーになったんですか!」


「どんな仕事なのか想像つかんが、己の理想通りならさぞ誇り高いだろうな」


「そうでも……ないさ。結構激務だし、要望は難しいし、他のチームに比べれば自分の作業がどう生かされているのかわらないから……働いている内に疲れてきちゃって……」


 パワハラや過重労働が直接的原因で辞職したが、新人で末端の直人にはデバッグ作業だけの毎日に、辟易していたのも原因であった。


「だから……仕事を辞めた。誰とも関わりたくなくて、ここに逃げてるのかも」


 直人の沈んだ表情に3人はかける言葉を失う。自分がネガティブ発言をしている事に気付いた直人は必死で取り繕う。


「ああ、ごめん、変な話して。俺もう休むよ」


 直人は空の食器の乗ったトレイを持って席を立つ。自分が嫌になる。異世界に来て、今までの自分なんか誰も知らないのに、わざわざ暗い自分の話をするなんて……。本当に陰キャだな、俺。







 次の日の朝、眠い目を擦りながら食堂に下りる直人。モニカとリナに挨拶して、欠伸をしながらパンをかじる。


「ナオト、眠れなかったんですか?」


「ああ、ケイスのイビキがうるさくてな……」


「そうでしたわね」


「イビキなんて私は聞こえませんでしたが?」


「それはわたくしが『静寂サイレント』の魔術をかけたからですわ」


「はぁっ!そんな便利な魔術があるなら俺にもかけてくれよ!」


「失礼、『宮廷魔術師』の力は必要ないかと思いまして……」


「……もしかして根に持ってます?」


「そんなことは。まぁ、あの時はわたくしの態度も悪かったと思いますし……。モニカや『市井魔術師』を貶している訳ではありませんわ……」


 リナはちょっと棘のある性格ではあるが、根はいい子だ。ツンデレってやつなのかな?

 野菜のスープを口に運んでいると、朝から何処かに出掛けていたケイスが豪快にドアを開けて入ってきた。


「おはよう!皆の者!日課がてらガンダルを狩ってきたから、朝食に皆で食べぬか!」


 ケイスは肩にでかい紫色の蜥蜴を抱えていた。魔獣なのだろうけど、その肉は食べれるの?モニカとリナが断ったので直人も断った。


「俺も遠慮するよ。朝から肉とか食べれないって」


「何を言っているのだぁ!そんな細い体をしているのにぃ!ちゃんと食べないとダメだぞ!」


「いや、俺の体型は標準だよ。まぁ、ちょっと痩せ型だけど……」


「そうか?だが、食べた方が良いぞ!今、調理してくるからな!」


 そう言ってケイスが調理場に消えたので、早く食べて部屋に戻ろうと思った。




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