第2話 異世界へ
目を覚ますと白い天井ではなく、飴色で木造の天井だった。実家の和室くらいしか木造の屋根を見たことないが、それとも違う家の造りだった。ギシギシと軋むベッドから起き上がって、周囲を見回す。自分が寝ている寝具と机、箪笥が置いてあった。ベッドから足を下ろすと靴を履いている事に気付く。Tシャツとスエットを着て就寝していたはずなのに、なんで上着とズボンを着ているんだ?
「何処なんだ?ここ」
頭を掻きながら状況を整理する。ここは自分の部屋じゃないし、着ている服も見たことないものだ。場所を確認するために窓の外を見たが、さらに困惑した。そこにはビルも電柱も道路もなかった。オレンジ色の屋根に木造の骨格に漆喰の壁。ヨーロッパの世界遺産の街並みのようだった。
上下に開閉する窓を開けて身を乗り出し、外を様子をしばらく眺める。数人が歩いているが、その格好も中世の服装みたいだった。道にも車ではなく馬車が通り過ぎていく。直人は頬をつねって夢じゃないことを確認する。
なんだ?ドッキリとか?知らない間に別の場所にいるっていう。でも、なんで俺に?
そもそも自室で寝ていた自分を連れ出す方法があるとは考えにくいから、ドッキリの線はないだろう。目の前の景色がセットやエキストラじゃないのなら、第2の仮説を立てる。
「タイムスリップとかかな?でも、なんで中世?」
時間が巻き戻ったんだとして、なんで場所も知らない所なんだ?そもそも何の予兆もアクションもなかったよな?階段から落ちるとか、車に轢かれるとか。それによって、時空が歪むとかはよくある設定だよな。
直人が頭を抱えていると、部屋のドアが開いて人が入ってきた。
「ああ、良かった!起きられたんですね!」
「ええっ!魔女っ子!」
「へっ?まじょっこ?」
思わず直人はそう叫んでしまった。だって現れた女の子の頭にはとんがり帽子があるんだぞ!あのベストセラー小説の魔法学校で被ってるやつみたいな。
「ああ、いや!なんでもないです」
「はぁ?元気そうで良かったです」
そう言って微笑みかける少女を直人はまじまじ見つめる。可愛らしい容姿にボブカットの髪。とんがり帽子に黒い上着とスカートを履いた少女。
ちょっとコスプレっぽい格好だったが、特に違和感はない。そう、髪の毛以外は……。
彼女の髪の色はなんとピンク色!こんな髪色、渋谷駅ですれ違ったパリピぐらしいしかしてないだろう。しかも、瞳も綺麗な桃色だ!カラコンじゃこんな色出せないよ!
これは、まさか……あの設定なのか?いや待て!まだ情報不足だ。
直人は逸る気持ちを抑えようと、額に手を当てる。すると、こめかみの所に痛みを感じた。指で触って確かめると瘤ができていた。
「ああ!そんな所を怪我されていたんですね。すみません!玄関先であなたが倒れているのに気づかないで、ドアでぶつけてしまいました」
彼女は腰元を触って何かを直人の前に持ってきた。飴色の木の棒で、恐らく『杖』だろう。
「
彼女がそう唱えると、杖の先が光り効果音が鳴る。もう一度額を触ったが、痛みがなくなっていた。
「怪我が治ってる……もしかして……」
「はい、治癒魔術で傷を治しました!」
「まっ!…………魔法が使えるのかっ!」
「へっ?ええ、魔法ではなく魔術ですが……はいっ」
見たことない風景!際立った格好の住民!魔法!もう、いいかな!決定だよな!
異世界転生キタぁぁぁぁっ!
いや、この場合は異世界転移か!死んでないし!なんにしてもここは異世界!魔法があるのはまごう事なきファンタジーだ。
直人がいきなりガッツポーズをしたので、彼女は驚いて一歩下がってしまう。その後も直人のハイテンションは続く。
「おっ……俺にも魔法が使えるか!杖で何かできたりする?」
「えっ?……えっと、すぐには使えないかと…」
「ああ、やっぱり…修行しないとダメなのか?」
「いえ、『神託』であなたの職業が『魔術師』なら、魔術が使えます」
「しんたく……?」
耳馴染みのない言葉に首を傾げる直人。まるで初耳だという態度に彼女は驚いた。
「『神託』をご存じでない?生まれた時に教会で『神託』を賜らなかったのですか?」
「えっと、俺、ちょっと記憶が曖昧で……しんたく、とか、自分の家とか、思い出せないんだ……」
それっぽい言い訳をする直人。実際に記憶障害設定を真に受ける人っているのだろうか?
「そうだったんですね!なら、思い出せるまでは、どうぞここにいて下さい」
わぁー、めちゃくちゃ素直で親切な子だよ!よくこんな不審者を受け入れるな~。
「なら、早速『神託』を賜りに行きましょう!頂いた
うん!なんて真っ直ぐな人なんだ!RPGゲームで最初に出会う村人みたいなポジションだな!
「あ!名前も思い出せませんか?」
「いいや、名前は覚えてる。渡会直人だ」
「わ、た、らい……?」
「ああ、ナオトでいいよ」
「私は
直人は異世界に飛ばされて、ピンク髪でキュートな魔女っ子・モニカと出会った。不安や戸惑いはなかった。むしろ異世界転移にわくわくしている直人だった。
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