仲がよくなった理由

「「「「いただきまーす」」」」


 神楽坂さんのお料理教室は無事終了。

 配膳も終えて、僕達は日が沈み始めるぐらいには食べ始めることができた。

 目の前には生姜焼きと炊き立てのご飯、朝に作り置きしておいた味噌汁とサラダが食卓に並んでいる。


 味噌汁以外は、全部神楽坂さんが作ってくれた。


「そういえば、神楽坂さんって僕の家でご飯食べてもいいの?」


「どういう意味でしょうか?」


「いや、家族の人が夕食を準備してるかもしれないからって思って」


 囲う食卓。いつもなら二人しかいないけど、今日に限っては新鮮な顔ぶれが二人追加。

 それが不思議と違和感じゃなくて、温かく感じるようなものだった。


「ご心配ありがとうございます。お昼のうちに親には連絡はしていますので大丈夫ですよ」


「そ、そっか……」


 そりゃそうだよね、よく考えれば普通は連絡してるよね。

 何を聞いてしまったんだろう、僕は? 緊張のあまりいつものように振舞えなくなってしまったのだろうか?


 それとも――――


「Lass mich essen ~!」


 ……それとも、隣で僕の背中を叩きながら口を開けているミラねぇが恥ずかしいって思っちゃったからだろうか?


「翻訳いるかー?」


「ううん……なんとなく分かるからいらない」


 きっと、この仕草は『食べさせてー』と言っているのだろう。

 毎度のことだから言語理解はできないけど、行動理解はできるようになった。


「あの、ね……ミラねぇ? 流石に神楽坂さんも悠もいるわけだし、はしたない真似はちょっとやめない?」


「それって、二人きりだったらしてもいいっていう意?」


「そうじゃないよの意」


 コメディ展開が多すぎて話が一向に進まない……涙が出てくる。


「そういえば、前から気になっていたんですけど……」


 そんな僕達の様子を見ていた神楽坂さんが不意に尋ねてくる。


「どうかしたの?」


「いえ……お二人はかなり仲がいいように見えるので、どうしてだろうなっと、思ってしまいました」


「まぁ、確かに玲達はそこらの姉弟よりかは仲がいいだろうな」


 仲がいい……かぁー。

 確かに、こうしたスキンシップは控えてほしいけど、こういうところも踏まえて世間一般的には仲はいい方だと思う。


 僕もミラねぇは家族として好きだし、ミラねぇに至っては異性として好き。

 意味合いこそ違えど、好き合っていれば当然仲もよくなる。


 けど――――


「理由……理由ってなんだろうね?」


「さぁ……?」


 ミラねぇと僕は同時に首を傾げてしまう。


「おい、なんかしらの理由とかあるだろ? 初めから仲がよかったってこともあるまいし」


「そうですね……血の繋がった家族であればともかく、お二人は義理の関係ですし……」


「んー……そう言われてもなぁ」


 僕は一生懸命に頭を悩ませて思い出そうとする。

 神楽坂さんの質問だし、答えられるものは答えてあげたいと思っている。

 だけど、思いつかないし思い出せない。


「ミラねぇって出会った時から優しくしてくれたし、僕も初めは緊張したけど打ち解けるまでには時間がかからなかったんだよ」


 気さくで、優しくて、適切な関係値を築こうとしてくれた。

 それを見て、「初対面だから」っていう僕の気遣いも必要なくなったし、そうしてくれるようにミラねぇはしてくれた。


 だから、仲がいいっていう理由は特にはない。

 しいて挙げるとすれば『ミラねぇが素敵な人だった』っていうことぐらいだろう。


「そういうものですか……」


「そういうものだよ。ねぇ、ミラねぇ?」


 賛同を求めるように、ミラねぇに問いかける。

 しかし、ミラねぇは顎に手を当てて少しだけ考え込んでいた。


「お姉ちゃん……やっぱりあったかも」


「えっ……?」


「っていうか、お姉ちゃんがここまで仲良くなったのもだと思う」


 ミラねぇは、一人だけ思いついてしまったようだ。

 ……でも、好きになってからっていうのはどういうことなんだろ?

 ミラねぇの態度が『弟大好き(異性)』に変わってしまった時のことを言っているのだろうか?


 だとしたら、前も言ったけど心当たりなんてないんだよなぁ。

 思い出せないし、心当たりが全くない。


「それって、今お聞きしても問題ない話なんでしょうか? そ、その……好きになったという部分に興味があります」


 頬を染め、おずおずといった様子で神楽坂さんがミラねぇに聞いた。

 女の子だからだろうか? そういう話には興味があるようだ。


 ……僕も、神楽坂さんの恋愛事情には大変興味がございます。


「そうだなぁ~、ちょっと恥かしいけど桜ちゃんなら教えてあげる~」


「あ、ありがとうございますっ!」


「僕も気になってるんだけど……」


「……玲くんには教えなーい」


「どうして!?」


 酷い! 教えてくれたっていいじゃないか!


「あのなぁ……玲」


「ど、どうしたの……そんな呆れたような目を向けてきちゃって?」


 悠の変わった視線が突き刺さり、いたたまれない気持ちになってしまう。

 僕は何かしたのだろうか? 失礼なことをしたならミラねぇに謝らないと!

 親しい中にも礼儀ありだからねっ!


「いや、まぁ……なんでもねぇ」


 歯切れの悪そうな解答。

 ほ、本当に僕が一体何をしたと!?


「Trottel ……(ばかっ)」


 最後、ミラねぇの拗ねた顔と残した言葉が不安を掻き立てる。

 それがなんとも……申し訳なく感じてしまった。

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好きな人がいるにもかかわらず義理なるドイツ人の姉に迫られて困っています。なお、美人で積極的で同じ屋根の下で二人きりだから余計に困っています(※助けて) 楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】 @hiiyo1012

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