本音

耐えきれず…といったように、茗花さんの瞳からは涙が零れた。


「私、わかってたんです。もう限界だって。 "茗花雨里は求められていない" って。でも、社長の優しさに甘えて、気付かないふりしてました。まだ、まだまだ頑張れるんだって、必死に言い聞かせて。…けど、それが、本当は辛くて仕方なかった。逃げたかっ………!」


震える声で必死に話している彼女を前に、身体が勝手に動いてしまった。

勝手に、抱きしめてしまった。


「あ、ごめんなさい。僕、こういう時、なんて声掛けたら良いかとか、そういうのわかんなくて。嫌だったら突き飛ばしてください。でも、これなら顔見えないかなって。気の利いた事出来なくてごめんなさい」


思い付いた言葉を、ただ必死に羅列した。


「…っ高野さん」


彼女は堰を切ったように泣き出した。


「…っ私、お芝居が好きです…誰かの心を支えるようなお芝居がしたいっ。だから、イヤリングなの。…イヤリング、…っ、だったの」


悔しそうに、絞り出された言葉。


「だけどっ、私には出来なかった…いつまでも結果なんて出ないのに…意地になって、しがみついて、苦しくてっ…」


彼女を包む震える手に、少しだけ力を込めた。


「社長は、言わなかった…!けど、クビ、です、それが、足掻き続けた、結果っ…」


彼女が背負ってきたものは、どれほど大きく、どれほど重かったのだろう。

それは、温かな期待もあれば、冷たい視線もある。


「いつの間にかっ、お芝居をすることより…結果を出さなきゃって!そればっかりで…辞めることなんて出来なかったっ…」


繰り返される言葉。紡ぎ出される彼女の本心。

心の底から楽しくてたまらなかったお芝居は、いつの間にか、 "やらなくてはいけないこと" に変わった。周りを納得させるための、手段へと変わった。

お芝居を愛している彼女にとって、それがどれだけ辛いことだったのか。


「もう…、っっっ辞めたいっ…!」


小さく掠れた、叫び声だった。

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