突然

「高野さん、先日はすみませんでした」


「…はっ、え?」


ミルクティーを1口飲んだ彼女は、カップを優しく置いてからそう言った。距離感を探っていた僕にとっては突然のことすぎて、思わず「は?」なんて返しをしてしまいそうになった。


「私、突然大きな声を出してしまって。周りにもお客さまがいらっしゃるのに。それに、慌てて帰って困らせました。本当に失礼なことをしてしまったと思っていて、ずっと謝りたかったんです」


「いや、そんな、謝らないでください。気にしていませんから」


…正直、とても気にしていた。だけどそれは、自分が悪いことをしたと思っていたからであって、こんな風に茗花さんが謝ることなんてひとつも無いのだ。


「僕の方こそ、すみませんでした。気に障ることを言ってしまったと思って、ずっと謝りたかったんです」


「…ほら、高野さん、やっぱり気にしていたじゃないですか」


「いや、本当に気にしていませんよ。他のお客さまも大丈夫でしたし」


「でも、謝りたいってずっと思っていたんですよね。それって気にしてるじゃないですか。私の失礼な態度のせいで」


「失礼だなんて思っていませんよ!僕が勝手に申し訳なさを感じていただけで。現に、失礼なことをしたのは僕の方ですし」


「そういう風に思わせてしまったことがそもそも、私の責任なんです。私があんな態度を取らなければ…」


「いや、違いますよ、絶対にそれだけは。そこに関しては本当に僕が勝手に思っていただけなので」


なんだかよく分からないソフトな言い合い。

謝っているんだか、喧嘩しているんだか、もうよく分からなくなってきた。


「…なんか、もうよく分からないですね」


彼女もそう思ったのか「ふふっ」と笑いを零した。


「ふぅ…」と一呼吸すると、微笑みは真剣な表情に変わり、彼女は意を決したように口を開いた。


「…きっと、あの雑誌、見ましたよね?」


ゆっくりとそう言いながら指さしたのは、あの"ウマジョ"特集が載っている雑誌だった。

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