動揺
僕は今、ミルクティーを淹れている。
ここの喫茶店のこだわりは珈琲だけではない。ドリンクもお食事も、どれもこだわり抜いた自信作だ。
今淹れているミルクティーも、何度も試作を重ねた。紅茶の香りが強すぎても、ミルクの香りが強すぎてもダメだ。何よりも、このお店でしか出せない味を追求した。茶葉もミルクも、時期によって変えている。この時期はどこのお店よりも濃厚なミルクティーをお出しする自信がある。
「お待たせいたしました。ミルクティーです」
「ありがとうございます、高野さん」
そしてその自信作は、茗花さんの座る席へ置かれた。
僕がミルクティーを淹れながらも脳内でずっと話し続けないといけなかったのは、今目の前にいる彼女が原因だ。動揺を隠すため。
茗花さんは、ふらっと、本当にふらっと現れた。
そしていつも通りカウンター席に座り、いつもとは違うミルクティーを頼んだ。「今日は珈琲じゃなくて、ちょっと甘いのが飲みたくて」と言うと、いつも通り通販番組しかやっていないテレビを眺めていた。
その姿を見て、何事もなかったようにすることを決めた。僕が勝手に申し訳なさを感じていただけかもしれないし、本当に忙しかったのかもしれない。そもそも暇だったとしてもここに来る義務なんてない。
ただの喫茶店の店長である僕が、いちいち前のことを掘り返して謝ってきたら、それこそ距離感がおかしいだろう。重大な過失があるならまだしも、今こうして来てくれている以上、きっとそうではない。もう一度同じ過ちを起こさないようにすることが、僕にできる最低限のマナーであり、おもてなしだ。
僕は、なるべく自然な彼女との距離感を探した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます