日常

数日後、あの日とは違う晴天の今日も、いつも通りの一日が始まった。

変わったことといえば、常連の川本かわもとさんが貼り紙の話をしなくなったことくらいだ。


貼り始めた時は「なんやこれ!」「えらい楽しそうなことしとるやん!」「べっぴんさんやったん?」「まだ来おへんのか~!」なんて、それはそれは物珍しそうに楽しそうに。貼り紙を見ながら、川本さんの地元、関西のお言葉で愉快なトークをしてくれていた。

それが今日はさすがに見飽きたみたいで、貼り紙に目線を送ることすらなく、ひたすらテレビに流れる競馬中継と会話していた。


「ありがとうございました!!」

午後8時。いつも通り入り口の灯りを消して、鍵を閉めた。今日もイヤリングの女性は現れなかった。

帰ってお風呂に入って、軽くお酒を飲んで寝よう。帰ると言っても、この小さなキッチンを抜けるだけだけど。


それから数週間。数ヶ月。

梅雨から夏へ。夏から秋へ。季節は移り変わった。

肌にあたる空気が冷たく鋭くなってきた頃、僕はいつの間にかイヤリングの事なんて忘れていた。

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