第2話 デブリの現実

そんなことを考えながら、授業を受けていたら一瞬で放課後になった。

 部活に所属していない俺は帰宅一択だ。そもそもこの学校の部活は大体が異能前提の部活しかないので俺は入部すらできないのだが。


 そんな風に物思いにふけりながら教室を出て行こうとした時に片足が、突発的な異常現象に驚愕するも無能力者の彼になすすべもなく無様に転がった。

 瞠目してる時夜、そんな彼を見下ろす複数の男子生徒の一人が喚いた

「ぷはは!!どうしたの時夜く〜んそんな何もないところで転んで?無能力者ゼロは歩くことすら満足にできないのかな?」

 まるっきり馬鹿にした口調で挑発してくるのはこのクラス内カーストでも上位に位置する空海 握くうかいにぎる、顔もイケメンで今は我が校の夏服に身を包んでいるがファションセンスも上々らしい、そして能力も進化可能性者シフトプログレスと高い、全学年通して超能力者スキルホルダーの方が圧倒的に多く羨望の眼差しを向けられる彼はこんな風に弱者を甚振るような振る舞いをしても学校内の地位は下がることはない。

 むしろこういったその場のノリで行動する方が刺激的で強い男とみられて女子からモテるのではないだろうか?自分には全く理解できないが。



(厄介のに絡まれたな)

 内心苦笑しつつもそれを表面に出さないよう努める時夜、少しでも絡まれる要因を失くしたいのだ。


 しかしそんな時夜の処世術は意味をなさない、空海は刻夜の事情などお構い無しに絡んでくる。

無能力者デブリのお前があまりにかわいそうだからちょっと俺たちが課外授業してやる、大丈夫優しくして教えてやるからついてこいよ」

 口は笑ってるが目は笑っていない空海。

「ちょっ、優しすぎるっしょ握〜」

「お前がそういうなら手伝うけどさ〜」

「オラ、握の慈愛に感謝しろよ針間くん〜?」

 煽ってくる空海の取り巻き達。

 もし本当に優しく教えてくれるならこんなに良いことはないだろう、俺だっていつまでも無能力者デブリは嫌だし即刻抜け出したい、彼は実力は確かだし何かつかめるかもしれない。

 しかし残念な事に彼らが行う事は課外授業というよりはだろう、それも相手が抵抗できないことをわかっている加害授業リンチだ。

 それとも強者は弱者に喰われるという食物連鎖を教えるということだろうか?どっちにして御免被る、黙って彼らのおもちゃになるほど時夜は酔狂ではない。

「いや、俺なんかに空海の時間を無駄にしてほしくないし…遠慮しとくよ」

 やんわり断ろうとする時夜、獲物の必死の抵抗だが、それを許す狩人は相当間抜けだろう


「ハァッ?!俺が教えてやるって言ってんのに断るとかできると思ってんの!?」

 激昂した彼は自身の異能、念動力サイコキネシスで俺をの首元を締め上げる。

「わっ?!」



「ほら、レッスンワン、頑張って抜け出してみろ!」

 ゲラゲラ面白そうに笑いながら言ってくる空海、さっき時夜の足を固定したように、彼の足が届かない高さに宙ぶらりんにされる


 空中に浮かされた無能力者デブリになす術があるはずもなく、手足をジタバタ動かすだけの人形に成り下がった時夜。

「た、たす、タ…す…ケ……テ」

 刻夜は微かなだが確実に助けを求める声を出したが、周囲の人間は沈黙しており、時夜と違い宙吊りにされているわけでもないので声を発することもできるはずだ。

 だが周囲の人間は黙ったまま、現在進行形で首を絞められ微かに呼吸音を漏らす時夜の方が煩いくらいとはなんと皮肉か。


「ほらほら、早くなんとかしないと息吸えないぞ〜?」

 ネズミをいたぶる猫のように刻夜を弄ぶ空海

「クッ…カハッ…」

(も、もうやばい)

 本当に酸素が足りなくなってきて、意識が飛ぶ寸前にその声は響いた。


「へぇ、面白い講義してるね、ちょっと私も混ざてよ?」

 そう割って入ってくる女子生徒と同時に空海の鼻先を電気がかすめ、彼の集中力が散漫したおかげか刻夜を拘束していた不可視の力は空気に霧散した。


 無様に尻餅をつきゲホゲホと咳き込む時夜、そんな彼に手を差し出す女子生徒

「大丈夫、刻夜?立てる?」

 そういってくる女子生徒を刻夜はまじまじ観察した、女子生徒の名前は神崎 雷華かみさきらいか、潤んだ瞳に長くかつ綺麗なまつ毛、形の整った眉毛、白い肌、金色のロングヘアー、女子高生にしては主張が強すぎる体のラインは夏服の薄い生地では到底隠せていない、控えめにいってスタイル抜群の美少女。

 時夜は咄嗟に返事ができず、狼狽えていたら彼の代わりに空海が神崎に向けて声をかけた

「なんでそんなヘタレオタク助けんだよ雷華…そんなやつより俺と仲良くした方が絶対気持ちいいぜ?」

 神崎の体をいやらしく観察し生唾を飲み込みながら雷華を口説き始める空海、無遠慮に視線を這わせてくる彼を神崎は冷徹な目で射抜いた。


 露骨すぎる空海に時夜も嫌悪を抱くも、もしかしたらさっき俺もあんな風に神崎を見てたと言われても否定しきれない自分に対して、男とはなんと悲しい生き物かと涙を流しそうになったの秘密だ。

(この思考がバレたら俺もこんな目で見られるのか、嫌だな〜神崎にこんな目で見られたら心の臓止まっちゃいそう)

 まだ脳みそに酸素が足りないのか、時夜が呑気な事を考えていたら、神崎の視線から承諾しないと判断した空海


「チッ、まぁいい、お前を口説くのは後にしてやるからそこの無能力者デブリをこっちに渡せ」

「は?渡すわけないでしょ?すっとこどっこい」

「な、なんだと?」

 口では強がっているが、明らかにビビってる様子の空海。

 当たり前だ、彼女は進化可能性者シフトプログレスの空海より上の我が校では一人しかいない限界突破者オーバーリミット、クラス内カーストどころか校内カースト最上位に位置するのが神崎 雷華、スクールカースト的にも実力でもまともにぶつかったら彼に勝ち目などない。

「てかさ、あんな胸糞悪いことやっといて、出てくる言葉がそれ?なら次は私が指導してあげよっか?ただし私はあんたらみたいにないから覚悟しなさい」

 神崎の怒気と呼応するように彼女の周囲にパリパリとと電気がスパークし、まるで今にも落雷を落としそうな積乱雲、表情は自身の怒りを隠そうともせずに憤怒に染まっている。

「それと私を口説く?鏡って知ってる?便利だから貸してあげよかしら、あと馴れ馴れしく下の名前で呼ぶな何度忠告すれば気がすむの?」

 淡々と不愉快そうに言う神崎、冴え渡る彼女の毒舌にキレる空海

「な、なんだとこの…」

 空海が言い切る前にいつのまにか距離を詰め彼の額に指を突きつける佇む神崎、まさしく電光の如き速さだった。

 無能の時夜が見えるはずもなく、空海すらも全く知覚できなかったのか、神崎への暴言を言い切れずその場で固まる。

「今すぐ消えろ、それとも後学の為にジェイムズ・オーティスについて勉強する?」

 最後通告と言わんばかりにドスを効かせた声で脅す神崎


 何をしようと彼女の一手の方が早いだろう、実質チェックメイトをかけられた空海

「ひっ、く、クソ覚えてやがれ」

 口汚く吐き捨てて慌てて教室の外に逃げる彼とその取り巻き達、去る者は追わずというようにすぐに彼らへの興味を捨てた神崎

「全く、しょうもないんだから、それと助けなかったあんた達も反省しなさい!せめて先生呼んでくるくらいはできたでしょーに」

 周りを叱りつける神崎、バツの悪そうな周囲の生徒達。

「怪我はない時夜?」

 心配そうに眉根を寄せ、振り向いてくる彼女

 さっきの電気纏って毒舌吐いてた人間と同一人物には見えない。

(というかジェイムズ・オーティスって落雷で死んだ人じゃ………)

 時夜は少々ビビりながら返事した。

「あ…あぁ、大丈夫だよ、助けてくれてありがとう神崎」

 当たり障りのない定型文でお礼をする時夜、だが何か不満があったのか少し不機嫌そうになる神崎

(やっべ、テキトーすぎたか?!)

 戦慄した時夜だが、神崎の不機嫌な雰囲気は一瞬だけですぐに花が咲いたような笑顔に変わった

「どういたました♪ねぇ助けたお礼に何か奢ってよ?」


 神崎は飯でもどうかと誘ってくるが、しかし時夜にはこの後予定が入っているのだ。


「悪い神崎、この後用事があるからまた今度埋め合わせする」


 罪悪感を覚えながら断る時夜、神崎は少し残念そうだがすぐに小悪魔的な笑みを浮かべ

「じゃあツケといてあげる、利子はトイチだから気をつけなさいな」

 茶目っ気たっぷりに言ってくる神崎、時夜は後の取り立てに少々不安を覚えるが、今はどうしようもない。「じゃあ、また明日!」

「うんさよなら」

 神崎と帰りの挨拶を交わした時夜は教室を出て昇降口で靴に履き替え、下校した。

 女の子に守ってもらうという事実に感じる、恥ずかしさと情けなさを噛み締めながら。

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