伝説の聖剣

「それでは【勇者】ミウのステータスの全貌も明らかになったと言うわけでじゃ……」


 国王は少し離れたところで待機している騎士の一人に目配せをすると、その騎士はこくりと頷き広間から出ていった。


 その間、ミウはカイトの腕から下ろされ、この無駄に広い広間を縦横無尽にはいはいしている。それを数人のメイド達が慌てて追いかけているが、ミウはメイド達が遊んでくれていると勘違いしているようであり、なんとも楽しそうな様子が伺える。


「国王陛下、最近の魔王の様子はいかがでしょうか?」


「うむ……魔族や魔物達の動向は相変わらずであるが、魔王が拠点から移動したとの報告はまだないようじゃ……」


 国王はそう言うと、メイド達に捕まりながらもけらけらと笑い喜んでいるミウを見て、少し微笑んでいる。そして、直ぐに真顔に戻ると話しを続けた。


「魔王の動きはないがの……魔王四天王達が魔王の拠点に集まっているとの事じゃ」


 魔王四天王……魔王を守護する四つの壁。その四天王を倒さなければ、魔王の拠点に張られた結界を破る事が出来ない。そして、魔王四天王はその拠点を守るべく東西南北の四方に配置されている。


 その魔王四天王が自分たちの持ち場を離れ、魔王の拠点に集まっている。


 魔王側にも只事でない事が起こっているのだろうか?


 しかし、何故、国王達が魔王の事にこんなにも詳しいのか?それについては語るまい。て言うか、語れない。作者の都合である。別に小難しい設定とか考えていなかった訳では無い。


 話しはそれたが、知育玩具で遊ぶミウは眠たくなってきたのか、こっくりこっくりと船を漕いでいる。だが、メイド達から玩具を片付けられようとすると、下唇がぷるんとなり、あのスキルが発動しそうになる。サナがそんなミウのところにいき抱っこすると、ママに抱かれた安心と襲いくる眠気に負け、すぅすぅと寝息をたてている。


 そんな時である。


 先程の騎士が何かを持って、広間へと戻ってきた。煌びやかな宝石の散りばめられた鞘に納められた剣。サナとカイト、キラはその剣に見覚えがあった。アカデミーの授業で使っている教科書に載っていたのだ。


「あれは……聖剣?!」


「そうじゃ……かつて勇者が魔王を打ち倒した時に使用した伝説の聖剣。それをミウに与えようと思うての」


 伝説の聖剣。両手持ちの大剣である。どう見ても赤ちゃんであるミウに扱う事が出来ない。代わりに【剣聖】であるカイトが使うのか?否、それも無理である。聖剣は【勇者】の資格を与えられた者しか使えない。【勇者】以外には宝の持ち腐れ、役立たずな武器なのである。


「まぁ……それでもな。儀式の様なものじゃ……ミウは眠っておるがその手に握らせよう」


 サナは寝ているミウの手を優しくとると、ゆっくりとその手を聖剣へと近づけていく。


「……そっと……そっとじゃぞ?!起きぬようにな……起きると【泣き落とし】のスキルが発動しかねんからの……」


【勇者】のスキルの一つである【泣き落とし】。それを発動されると周りの大人達はあたふたとなり、無条件に【勇者】のご機嫌を取ろうと必死になってしまうのだ。魅了のスキルの一種であろうか。


 皆が固唾を飲んで見守る中、サナがミウの手に聖剣の柄を握らせた。


 その瞬間、聖剣が神々しい白金の光りを放ちだし、その光りにサナとミウが包まれていく。


 そして、光りが収まった後、聖剣の姿が消えていた。


「聖剣が……消えた?!」


 国王も騎士も、広間にいた者達、全てが辺りを見回したが、やはりどこにも見当たらない。


 そんな皆をよそに、サナが冷静に一言言い放った。


「聖剣ならここよ?」


 サナが示したのは、眠るミウの手に握られた玩具のガラガラであった。

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