第9話 鬼多見


眞九郎がホームルームに出ていた頃、敷地内にある部室棟の一室で1人の少年が携帯端末で通話していた。


「それで、なんか分かったか?」


窓から差し込む光に照らされた声の主は、大男と言っても差支えのないような影を作っている。


高校生とは思えないほどに鍛えられた筋肉が窮屈そうに制服を押し上げており、短く刈り込んだ髪型とも相まって厳つい雰囲気を醸し出していた。


街中で会おうものなら、10人中9人が目をそらすであろう荒々しさである。


『すみません、。彼の能力に関することは何も。そもそも妹を除けば、家族構成すら公開されてないんです』


「んなこたあ知ってるよ! 他にはねえのか、他には!!」


少年、鬼田見宗治きたみそうじは苛立ちを隠そうともせずに、怒鳴り声を上げた。彼は四大正家の1つである鬼多見家の長男であり、家の権力等を使用できるのだが、ほとんどの使用人に対して先程のような威圧的な態度を取っていた。


それ故、巷では鬼多見家では珍しく思慮深い性格に生まれた次男が次期当主なのではないかという噂すら上がっていた。


『ひっ、す、すみませんすみません! わからないんです』


獣ですら竦んでしまいそうな程の恫喝に、電話の相手は裏返ってしまった声を必死に絞り出しながら謝っていた。


「ちっ、とっととなんかしら情報を掴んでこい」


それだけぶっきらぼうに言うと、宗治は携帯をポケットにねじ込んだ。


(ああ、早く戦いてえなあ)


「待ってろよお、兵部幹也ぁ!」


威勢のいい言葉と共に、近くに吊るしてあったサンドバッグが鈍い打撃音を鳴らしながら天井近くまで跳ね上がった。


果たして人間の膂力に可能なのかどうか怪しいほどの怪力技を、宗治は片手で繰り出した裏拳のみで実現していた。


現在、彼の頭の中には兵部幹也のことしかない。入学試験時の映像で幹也を知り、標的にしていたのであった。


(親父からも、兵部の兄妹は多少痛めつけてやれって言われてるしな。ちょうどいいぜ)


この男の性格を鑑みると、今すぐにでも1年の教室に乗り込んでいって幹也に襲いかかってもおかしくはない。が、彼には一つだけ父親から厳命されていることがあった。


それは、


「相手の能力がわかるまで、いたずらに戦闘に走るな」というものだった。


鬼多見宗治は強さを絶対視している。自分よりも強い父親には従順であった。それでも、数日待って結果が出ないようであれば、彼は我慢できなくなってしまうだろう。


「ああ、楽しみだなあ、おい。ワクワクするぜ!!」


こうして、兵部幹也に降りかかるトラブルが眞九郎の胃にダメージを与える日は少しずつ近づいているのであった。





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僕の異能は時間を暴く 春風落花 @gennbu

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