第3話 生徒会長


 白と緑色を基調とした廊下を、眞九郎と颯希はゆったりと歩いていた。


 手を引いて駆け込んだ颯希だったが、さすがに校舎内では走らないらしい。


 「なあ、颯希。僕はなんで生徒会に行かなくちゃいけないんだ?」


 「生徒会長が会いたいらしいわ」


 「確か、南雲家の三女だったか?」


 南雲家。代々、催眠系統の異能を受け継いでいる家系だ。鬼多見家とは正反対の穏健派としても知られている。


 「そうそう。南雲家もあの兄弟には注意を払ってるんだって。それで、監視役として来た九郎と顔合わせしときたいんだってさ」


 「監視役、ねえ」


 (と言うよりはトラブルシューターといった方が合ってるな)


 既にトラブルの種を抱えまくっている兄妹の顔を思い浮かべながら、眞九郎は小さくため息を吐いた。


 「なあ、鬼多見家の縁者は生徒会にいるのか?」


 「まっさかあ。ゴリラに書類仕事ができるわけないじゃん」


 「おおう、言い切ったなあ」


 「それはいいとして、」


 「ん?」


 「九郎の武装ってどこまで使っていいとか言われてる?」


 「ああ、そのことか。とりあえずは使っていいってさ。持ってきてはないけど」


 「鎧まで、か。まあ、高校レベルならそれぐらいで大丈夫かな?」


 「だろうな。それこそ四大正家の直系と戦わない限り」


 そんなふうに話していると、とある部屋の前で颯希が足を止めた。


 「ここか?」


 「うん」


 颯希は襟元を正し、ドアを静かにノックした。


 コンコンコンコン


 キッチリ4回。正式なノックに対して、女性の柔らかい声が返ってきた。


 「どうぞ」


 「失礼します」


 颯希に続いて中に入ると、愛想笑いをうかべた女性が1人でパソコンの前に腰掛けていた。


 腰まで伸びている黒髪は少しだけ青みがかっていて、アーモンド色の瞳は好奇心を隠しきれずに輝いていた。


 「会長、彼を連れてきました」


 「ご苦労さま」


 先ほどとは別人のような颯希の態度に驚きながらも、眞九郎は会長に向かって頭を下げた。


 「初めまして。藤守眞九郎と申します。以後お見知り置きを」


 「こちらこそよろしくね。南雲奏音です。東京校で生徒会長をしております」


 とりあえず座ってと言う彼女の言葉に従い、眞九郎は椅子の後ろに回ると、軽く颯希に視線を送ってから引いた。


 何のためらいも遅滞もない、執事然とした所作はいっそ見事だった。


 「あ、ありがと」


 少しだけ面食らったように目を見開いた颯希はおずおずと眞九郎が引いた椅子に腰かけた。


 眞九郎はというと、颯希が座るのに合わせて椅子を押し、自分はその横に腰掛けた。


 その様子を奏音は興味深そうに眺めていた。


 「・・・・・なにか?」


 「ううん。ふふふ、随分紳士的なんですね。眞九郎さんは」


 「そうでしょうか?」


 「はい」


 周りから見れば眞九郎の行動は珍しいものだったが、当人からしてみれば当たり前のことでしかない。


 何しろ、眞九郎は藤堂家現当主のお気に入りだ。護衛まがいのことをやらされたことも一度や二度ではない。


 その際、三宅に叩き込まれたマナーが体に染みついていた。


 「さて、早速だけど本題に入りましょうか」


 「そうですね」


 奏音は生徒会室のプロジェクターを起動させ、兄妹の顔写真を映し出した。


 「兄の方が兵部幹也。妹の方が兵部綾子。ちなみに今年の首席入学者は幹也君です」


 「妹の方の成績はどうだったのでしょうか?」


 「コード強度は妹の方が上でしたが、筆記試験では兄の方が上でしたので次席入学となっています」


 (兄妹でワンツーフィニッシュか。末恐ろしいな)


 「なるほど」


 「2人とも異能の詳しい情報はわかっていませんが、妹さんの方は気圧操作系ということだけがわかっています」


 「少し待ってください。確か入学試験では異能を使用した模擬格闘試験があったはずです。それを分析すればわかるのでは?」


 「分析して、これだけしかわかっていないのです。妹さんは圧縮した空気を試験官に放って、一発で気絶させています。兄の方は異能すら使っていません」


 「・・・はい?」


 「彼の相手をした試験管は火炎放出系の異能者でした」


 そういうと奏音はリモコンを操作し、プロジェクターにある動画を流し始めた。


 動画では、冷たい目をした兵部幹也が試験官の前にたたずんでいた。


 『はじめ!』


 スピーカーから、審判係と思しき声が聞こえてくる。


 試験官は相手が噂になっている兄弟だと知っていたのだろう。いきなり特大の火炎を頭上で練り上げると、思い切りよくぶん投げた。


 それを呆れたように眺めていた幹也は、猛然と走り出していた。限りなく姿勢を低くし、地面を這うようにして火炎球を避けた幹也はそのまま掌底を試験官に打ち込んでいた。


 ドグッ!


 画面越しでさえ、不気味な打撃音が聞こえたかと思うと試験官は後方に吹き飛んでいった。


 白目をむいている試験官に軽く会釈した幹也は、そのままフィールドから退場していった。


 ここで動画が終わり、生徒会室の照明に明るさが戻った。


 「・・・・これは、すごいですね」


 「模擬戦闘試験では、試験官を倒せば無条件で合格します。たとえ、異能を使っていなかったとしても」




 ※次回更新予定 5月22日 土曜日 22:00










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