第23話 交通手段

「あ、出発する前に悲しいお知らせがあるの……」


 そろそろみんなが荷物をまとめ終わったころ。

 シャロールが少し暗い顔になった。


「え? なんだい?」


「ファイウル、あなたは連れていけないの」


「えーーー!!!」


「猫の国に猫以外の種族は入れないから、仕方ないの……」


 うーん、それはまあ道理だな。

 猫の国は場所さえ明かされない秘密の国だ。

 同族以外に国の様子を見られたくないのだろう。


「で、でも! 佐藤とかは……」


 そうだね。

 彼は人間だ。


「佐藤は……はいこれ」


「あ、ありがとう」


 シャロールが手渡したのは、白い猫耳カチューシャとしっぽベルトだった。

 なるほど、これで猫だと思わせるわけか。


「ど、どうかな?」


 佐藤の頭にはピョコンとかわいい耳が生えていた。

 そして、腰からは長いしっぽが。

 これなら大丈夫そう。


「うん、ぴったり! 誰が見ても立派な猫だよ!」


「なんだか照れるな……」


 顔を赤くする佐藤。

 そんな佐藤を見て微笑んだ後、シャロールは魔王ちゃんに向き直る。


「それでね、魔王ちゃん?」


「なんじゃ?」


「ファイウルが寂しがると思うから、一緒に残ってくれないかしら?」


 シャロールはここまで考えてたのか。

 本当に気遣いができるいいお母さんだ。


「もちろん、いいのじゃよ」

「こっちのことは気にせずに、おじいちゃんを労わってやるのじゃ!」


「ありがとう」


 快く残ることを承諾してくれた魔王。

 そんな彼女の頭を優しくなでる。

 魔王は嬉しそうだ。


「お母さんにお世話してくれるようにお願いしてきたから、いい子にしてるのよ」


「「はーい!」」


 二人が元気よく返事をしたところで、今度は佐藤とブレサルに向き直って元気よく告げた。


「それじゃあ、出発しましょうか!」


「わーい! いってきまーす!」


「気をつけるのじゃよー! いってらっしゃーい!」


――――――――――


「うーんと、ここらへんでいいかしら」


 ここは町の外に広がっている草原。

 今日も元気にスライムが飛び跳ねている。

 どうしてこんなところに来たのか。


「ね。なんでここなんだろう」


「パパも猫の国への行き方なんて知らないからなー。ママはどうする気なんだろう?」


 ふむ。

 シャロールしか知らなさそうだ。

 となると、彼女が手に持っている紙……さきほどの手紙が鍵になってきそうだ。

 あそこに場所や行き方が書かれているのかも。


「あー、なるほどー」


「お、また声が聞こえるのか? なんて言ってる?」


「お母さんの持ってる手紙になにか書いてあるんじゃないかって」


「たしかに、それは……」


「しっ! 静かにして!!」


 おっと、おしゃべりはこのへんにしておこうか。

 本当になにか始まるみたいだ。


「今から召喚魔法を使うから、二人は絶対に話さないでね」


「「はい……」」


 ふふふ、二人ともシャロールの迫力に圧されてすっかり静かになってしまった。

 こういう素直なところがかわいいよね。


「えーと……『我は猫なり。猫の子なり。ゆえに、我に猫の楽園への扉を開き給へ。お願い申す』」


 おお、それっぽい。

 詠唱かー、いいね。

 思えばこの世界の魔法は詠唱なしで出せてたもんなー。


「あれ?」


 ブレサルが天を見上げて、首を傾げた。

 なにかあるのかい?


「うん、あそこ。光ってる」


 たしかに。

 こんな昼間に流れ星が見えるなんて珍しい。


 ……って、あの星こっちに落ちてきてない?


「ブレサル。こ、怖がることは、ないよ」


 とか言っといて、お父さんの膝は震えている。

 いやでも、それも納得だ。

 だって、本当に近づいてきてるんだもの。


「お母さん! 大丈夫なのっ!?」


「うん! ……たぶん」


 たぶん!?!?

 少し不安だ。


「ぶ、ぶつかる! ブレサル!!!」


 空から降ってきたものが地面に激突する寸前、佐藤はブレサルをかばうように前に出た。


「うおっ!」


 目と鼻の先の落下地点で激しく土煙が舞う。


 はたして、佐藤一家の前に現れたものとは!?

 待て次回!!!

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