第16話 VS いじめっ子の首領:クソ金髪ロンゲ その2




 搭乗者試験が明日に迫った、その日の午後の授業中――。


 余はイザベラについて、今後の方針について考えていた。


 先日、リージュに確認し、そしてクラウス少年の記憶を辿るに、やはり学長はイザベラで間違いないらしい。


 しかし……昼食の後のことだったので、頭がどうしても船を漕いでしまう。


 いかんいかん、これはいかんぞ。


 余は眠らないように気合を入れる。


 が、しかし……どうしても眠い。


 やはり、今日も続けてリージュの持参したカレーの量が多すぎたのか?


 爆盛りカレーでは、血糖値が上がり過ぎてしまうのかもしれんな。


 いかん……。


 寝てはいかん……。


 そういえば、昔……魔王軍の会議でもいつも……居眠りを……。


 眠気は……強敵だ。


 なにしろ余が前世で唯一勝てなかったのは、眠気だからな。


 白目を剥きながら、余は必死に睡魔という最強の化け物と格闘する。


「ぐ……ぐぬぬ……」


 全力全開での苦闘。


 思わず魔力が溢れ、教室内の花瓶、机、椅子が小刻みに震え始める。


『な、な、何だ!? 地震かっ!?』


『ポルターガイスト現象かっ!?』


『きゃああああっ! 黒板消しと花瓶が教室中を飛びまわっているわっ!』


 何を狼狽えているのだこの痴れ者どもは。


 400年前の午後の魔法学院の教室といえば、人間も含めてありとあらゆる物が空中を飛び交っていたものだぞ。


 飛び交う危険物から身を守りながら、勉学に励む。



 ――常在戦場



 それが故に、かつての武人は戦場でも常に気を張るということが自然にできていたのだ。

 

 が、幸いにも大騒ぎになったことで余は目を覚まし、気を取り直して授業を受けることができたのだ。


 しかし、イザベラ……か。


 これは良くないな……と、余は思う。


 現在の余の実力は魔術師格付けとしては9階梯といったところか。


 この世界で目覚めてから数日、かつての力を少しは取り戻したがイザベラは余の知る限り、そしてクラウス少年の記憶によると――



 ――第11階梯



 400年前の当時でも相当な実力者であったし、この時代では正に常識外れの一騎当千……否、万夫不当の実力者だ。


 そして、奴には神装機神もある。


 ――12柱の現人神(あらびとがみ)


 どうやら、今現在、かつての魔王軍幹部は国王や皇帝を超越した≪神≫としてこの世界に君臨しているようだが、それはさておき。


 と、なると搭乗者の階梯を3も引き上げる神装機神の特性上、イザベラの最大戦力は14階梯となる。


 余との差は5階梯……。


 例え、余が神装機神に搭乗できたとしても、その差は2階梯もあるのだ。


 そして、奴はこの学院の学長となる。


 何故に≪神≫に等しき存在が、学長などをやっているのかは謎だが、まあそれも良い。


 ここで僥倖なのは、奴がまだ余にはコンタクトを取ってこないということ。


 ルシウス少年とかつての魔王がイザベラの頭の中でつながれば、奴は力を取り戻す前に、すぐさまに余を消しにかかるだろう。


 が、現状それは行われてはいない。


 先祖返りの覚醒者というのは珍しくもない。


 そして、余は目立ち過ぎないように力をセーブしてもいる。


「うむっ!」


 と、余は頷きここまでの嗜好に結論をつけた。


 今現在、余はイザベラの中ではノーマークだ。


 そして、余が力を取り戻せば15階梯……つまり、搭乗しているイザベラですらも物の数ではない。


 更に言えば、その状態で神装機神に搭乗すれば、余の力は18階梯……それは恐らく天地創造の神を凌駕する領域に達する。


 と、なると……。


「やはり、早急に力を取り戻さねばならんな」


 しかし……楽しいな。


 前回の転生の際は強敵と呼べる者も、最後のルシファー戦だけであったし、それにしても少し手こずる程度のことであった。



 ――手こずることにすら困難な退屈な日常


 そう考えると、障害だらけの今回の転生は余にとっては悪くはない。






 ――とりあえず、クリートとかいうクソ雑魚は明日の搭乗戦で血祭りに挙げる





 全てはそこからだ……。

 そうして余は、今後に思いを馳せ、教室内で盛大に寝息を立て始めたのだ。

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