第14話 最強の男の妹



 サイド:魔王ルキア





 さて、いよいよ明日が魔術戦闘と神装機神の搭乗戦闘の試験となる。


 それはさておき、失われた力を回復するため今日は遠出をしようとしようと余は思っている。


 そうして、余はトレーニングに向かう前に学生寮の中庭へと出た。


 そして日課である鳩のエサやりをしていると――トテトテと小動物のように女が駆け寄ってきた。


 金髪ブロンドの長髪で、年は15歳。

 まあ……その器量は高いとしか表現できないほどに、顔は整っているな。


「お兄様ー!」


「ふむ、リージュか」


 クラウス少年の記憶を辿るに、この娘は家の末っ子にあたる女だ。


 そして唯一の継母の子ということで、過去に兄弟や使用人たちから迫害されていた経験をしているようだな。


 そうして、そんなリージュに唯一優しく接したのがクラウス少年であり、それ以来二人は特に仲の良い兄妹となった……そんな経緯を持っているようだ。


 ちなみに、今はリージュは家を出てこの近くの修道院でシスターとして生活しているらしい。


「お兄様! 転科ができなくなったって聞きましたが大丈夫でしょうか!? それに……試験! 進級試験はどうでしょうかっ!?」


「案ずるな。余を誰だと思っている。完璧にコトは進んでおるわ」


 と、そこでリージュは「はてな?」と小首を傾げる。


「お兄様? その喋り方……それにちょっと雰囲気が……」


「ふむ? まあ……イメチェンというやつだ」


 流石に400年前の魔王の転生という突飛な話をするわけにもいかんだろう。


 まあ、しても良いのだが。


「イメチェン?」


「うむ。今まで……余は少しばかりナヨナヨしすぎていたキライがあるのでな」


「ふーむ」


 リージュは納得いかないという風に何やら考え込み、そしてポンと掌を叩いた。


「なるほど、これが中2病というやつですか」


「中2病?」


「かつて神話の時代の……チキュウという場所からの転生者が残した書物にそのようなものがあるのです」


「ふむ、まあ中2病については良く分からんが……」


「まあ、奇人変人ということですよ。けど、私はお兄様が中2病でも学園始まって以来の劣等生でも、そんなことは気にしません」


「うーむ……しかし奇人変人が兄では実際に困るのではないか?」


「良いんですよ。昔、それだけのことをお兄様はリージュにしてくれたのです。なので、お兄様は心配しなくても良いのです。リージュはお兄様の味方なのです。いつも言っているとおりに最終的にお兄様が就職もできないような状態になっても私が教会を辞めて養いますので」


 記憶を辿るに――。


 確かにこの娘はクラウス少年にそんなことをいつも言っていたようだな。


 そして、それが故にクラウス少年は逆に妹を守れる立場になろうと努力していたようなフシもある。


「まあ、お兄様は頑張り過ぎない程度に頑張れば良いのです。4歳の時からの強い縁です! それはもう腐れ縁です! なので――リージュはいつでもお兄様を応援していますので!」


 と、そこでリージュは余に向けて向日葵のような笑顔を咲かせた。


「なので、明日の試験は応援に行きますからね!」


「まあ、それは構わぬが」


「ああ、そうそうお兄様」


「何だ?」


 そう余が尋ねると、リージュは持っていた手提げカバンの中から小包を取り出した。


「ふむ……これは?」


「久しぶりに会うので、お弁当を作ってきたんです!」


「弁当……とな? 時にリージュよ、メニューは何だ?」


 するとリージュはこの上無い……としか表現できないような笑顔と共にこう答えた。


「カレーですっ!」


 言葉を受け、余は大きく頷きながらこう尋ねる。


「味付けは?」


「甘口です!」


「でかしたっ! パーフェクトだぞっ!」


 そして、余もまたこの上の無い笑顔と共にリージュの頭を優しく撫でたのだった。


「それにお兄様! デザートも用意しております!」


 すると、やはりリージュは小包からクッキーやらケーキやらを取り出した。


「ふむ……良い。甘いものならいくらでも平らげてやろう」


 そう言いながら、余は満面の笑みを浮かべたのだった。


「しかし、お兄様も本当に頑張ってくださいね。お兄様の通っている騎士学院は由緒正しいエリート学校なのですから」


「エリート……?」


 あまりのレベルの低さに辟易していたのだが、まあそれはソレだ。


「オマケに5年前からは12柱の現人神(あらびとがみ)たる、神話の時代の搭乗者――イザベラ様が学長を務めているのですから」


 イザベラ……?


 今、リージュはイザベラと言ったのか?


 クラウス少年の記憶を辿るに、確かに学長はそのような名前だ。


 その名前は……余を裏切り、神装機神で寄ってたかって袋叩きにしてくれた、あの女と一致する。


 そして、現人神(あらびとがみ)……だと?


 やはりクラウス少年の記憶を辿るに、それは神話の時代――つまりは、余の率いていた魔王軍の幹部たちのことか。


 しかし、記憶を辿るのも時間がかかりまどろっこしいな。


 例えるならそれは辞典のようなものであり、記憶を引き出すにしても探り当てるのに時間がかかるし、理解を始めるというところから始まるという不便なものだ。


 と、いうことで余はリージュにこう尋ねたのだった。


「リージュ……その話……少し詳しく聞かせてくれないか?」


 けれど……と、余は思う。


 イザベラがここの学長なれば、余は……既に目立ち過ぎているのではないかと。


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