第9話 今のはただのデコピンではない(決め台詞)
時は遡り2日前。
アドルフとの対峙を終えたルキアに視点は移る。
サイド:魔王ルキア
「あ……あ……アドルフが一蹴されただと?」
「おいおいアレ大丈夫かよ……担架で医務室に運び込まれたようだけど……」
「何が起こっているんだ?」
「ひょっとして……ルシウスは覚醒者なの?」
「あの先祖返り……って奴か?」
ギャラリーのそんな声が聞こえてくる。
ふむ、先祖返りとはどういうことだ?
クラウス少年の記憶を辿り、余は先祖帰りの情報を検索していく。
ふむ……これか。
・覚醒者
10万人に一人の確率で現れる突然変異の一種。
神装機神以前、神話の時代の人類の力を現世に引継ぎし者である。
ただし、神装機神との魔力的相性は最悪であり、搭乗したとしても通常人のような莫大な戦力恩恵を授かることはできない。
しかしながら、神装機神には及ばないものの、規格外の戦力であることは事実である。
故に、複数名であれば神装機神に生身で対抗しうる存在として各国の一線級の部隊戦力に組み入れられる。
尚、覚醒者は通常は身体能力強化等の近接戦闘のみの先祖返り現象が起きるが、稀に魔術的な素養もそのままである真・覚醒者と呼ばれる者も存在する。
なるほど……。
どうやら、余の想像どおりにこの時代の人間は何故か著しく個体としての戦力を落としているらしいな。
で、覚醒者……か。
どうにも、珍しいのは珍しいが無茶な力を持つ戦力として、この時代ではそれなりの数がいる存在らしい。
そして、余としては目立ちすぎるのは避けたいわけだ。
結局のところ、余はイザベラに目を付けられなければそれで良いわけだし……ふーむ。
しばし思案し、余は大きく頷いた。
「ならば現時点ではそれほど目立っているということはないな」
なら、この調子でどんどん行こう。
しかし……余としては気にかかることがある。
この時代の人間が弱体化したのは理解した。
が、何故に、そのようなことが起きたか……ということだ。
心当たりや推論はいくつかあるが、現時点では何とも言えん。
まあ、そのことはおいおい考えようか。
☆★☆★☆★
「次は魔力測定試験です」
ふむ、いわゆる的に魔法を当てる試験だな。
運動場に一列に並べられた巨大な台座の上には、直系1メートルほどの巨大な水晶玉が置かれている。
そして、前回の近接試験と同様に、搭乗者クラスの全員が集められていると言うことだ。
「近距離でも遠距離でも何でも良いので魔法を放ってください。それを受け、水晶玉に内蔵された魔術機械がどれほどの破壊力を秘めた魔法であったかを計測して数値化されます」
なるほど、便利な世の中になったものだ。
余の時代では、的の強度を変えてどこまでの強度を破壊できるかで術者の力量を測っていたものだが……。
まあ、避けも反撃もせぬ的を破壊しても何の自慢にもならんのだがな。
そこでアドルフの腰巾着のリチャードが余に語り掛けてきた。
「先祖返りか何か知りませんが、筋力や身体能力強化だけではこの試験は突破できませんよ? あまり調子に乗らないことです」
眼鏡の腹をクイっと人差し指で押し込み、勝ち誇ったような笑みでリチャードは言葉を続けた。
「何しろ――魔法行使以外では水晶玉は反応しませんのでね。殴っても蹴っても採点すらされませんよ?」
と、そうこうしている内に他の学生たちの試験が進んでいき、次々に水晶玉に第2階梯相当の魔法が放たれていく。
そして、水晶玉が採点した点数を試験監督が読み上げていったのだ。
「68点!」
「81点!」
「42点!」
「おお! 優秀だな! 100点越えだ――カナリア学生105点! 次はリチャード学生だ!」
その言葉でリチャードは大きく頷き、余の肩をポンと叩いてきた。
「クラウス? 私が――本当の魔法を見せてあげますよ」
そうして悠然とリチャードは水晶玉へと歩を進め、10メートルほどの距離から炎魔法を放った。
「第三階梯――火炎玉(ファイアーボール)!」
炎に包まれる水晶玉、そしてプスプスと煙が立ち上がるソレに試験監督が駆け寄り、感嘆の声を挙げる。
「さすがリチャード学生だ! 182点!」
「おお、すげえ!」
「200点近いなんて、完全に2年次のレベルだろ!?」
「やっぱリチャードの魔法はピカイチだな!」
一同が湧き上がり、リチャードは余裕の表情で大きく頷いた。
「次! クラウス学生!」
試験監督の声を受け、挑戦的な表情でこちらに視線を送ってくる。
「さあ、次は貴方のようですよクラウス。脳筋風情が……恥を晒しなさい」
そうして余は水晶玉に向け、ゆっくりと考え事をしながら歩いていった。
やはり、大体が第二階梯で、良いところが第三階梯……というところか。
――そして、それが今の世の学生のレベルだ。
あまりの情けなさに、余が深く溜息をついているとヒソヒソとギャラリーから声が聞こえてきた。
「魔抜けのクラウスだからな」
「先祖返りかどうかもそもそも分かんねーし」
「先祖返りだったとしても、ほとんどはただの脳筋って話だろ?」
「前代未聞の0点が出るんじゃねーか? 魔抜けだし」
まあ、ともあれ――。
目立ち過ぎるのは良くないな。
今の余の戦力である第7階梯の魔法を放つのは、流石に不味いだろう。
とはいえ、余は優秀な成績でこの試験を突破する必要がある。
と、なると――こんなところか。
方針を決め、水晶玉の眼前に辿り着いた余は試験監督にこう尋ねかけた。
「おい、試験監督」
「何だクラウス学生?」
「この水晶玉で数値を測るわけだよな?」
「ああ、そのとおりだが?」
「別に――壊してしまっても構わんのだろう?」
余の問いかけに「何言ってんだコイツ?」という風に試験監督は小首を傾げる。
そうして、余は水晶玉に向けて掌を掲げる。
次に中指を親指にあてがい、微弱な魔力を込める。
「それでは……始めようか」
そして、水晶玉に放たれるは――魔力を帯びたデコピンだ。
――ドゴシューーーーーーーン
破壊音と共に一面に風が舞い、一面が土煙に覆われる。
「うわああ! 何だこの風は!?」
「見えねえ! 何が起きてやがる!」
「さっきの爆発みたいな音は一体何なのよっ!?」
一同が悲鳴に似たような声をあげ、そしてやがて土煙が晴れ、リチャードはその場でペタンと地面に尻もちをついた。
「そ、そ、そんな……デコピンで……破壊ですって? いや……水晶玉が……跡形もなく……消し飛んでいる」
その言葉を聞いて、余は思わず笑ってしまった。
「リチャードよ。貴様は勘違いしている」
「か、か、勘違いですって?」
「今のはただのデコピンではない。今のは――」
余はしばしの間押し黙った。
そして大きく大きく息を吸い込んで余はリチャードにこう言ったのだ。
「――第5階梯のデコピンだ」
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