止まった時間

七葉

止まった時間

「この校舎とも、もうお別れだね…」

「閉校だなんて寂しいな…」

「ねえ、10年経ったらこの場所で集まらない?もしこの校舎がなくなってたとしても、またここで集まろうよ」

「賛成!」

「その頃にはうちら、どんな大人になってるのかな?」

「いい女になってたらいいな〜」


 10年という年月は、中学生の少女にとっては、とてつもなく長いものに感じる。

通い慣れたこの校舎とはお別れでも、青春はまだもう少し続いていくし、大人になった自分たちの姿なんて想像もつかない。

それでもなんとなくは、大人としての自分の姿に思いを馳せ、未来への期待を感じていた。


けれど、そんな未来はやって来ず、時間に取り残されてしまう人間も存在する。


—— 10年経っても、校舎は取り壊されてはおらず、かと言って何かに転用されているわけでもなく、ただ静かにそこにたたずんでいた。

あの頃のまま、時が止まったかのようなその姿に、彼女は自分を重ねる。


10年という年月が過ぎたなんて、信じられなかった。

きのうのことのように思い出せるリアルな青春の日々に、胸が詰まる。


懐かしい友人たちと会えば、きっと楽しいだろう。

けれど、彼女はそれをせず、ひとりきりでこの校舎を訪れていた。


友人たちとの約束は果たせない。

会いたいけど、会わない。


さよなら、私の青春時代 ——


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止まった時間 七葉 @7na_

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