後日の兄妹――

第一話

 1:

「ここやで」

「…………」


 私が入学した私立翔台高等学校の入学式が終わった週末。

 遅ればせながら入学祝いに、ちょっと二人で遊びに出ようという話しなって、


「今日はココで、ぱーっと羽を伸ばそうや」


 遊園地に来ていた。


「……うん」


 ひゅうー


 という、春にそぐわない乾いた風が吹く。


「どうした?」

「なんでもないよ……うん」


 私が何でこんなに、テンションが低いのかというと――


 目の前に広がる夢の国が、寂れているからだ。


 ど……どーしたらいいんだろう?


「ほら、いくでー」

「うん……」


 安っぽいBGMの出所を探してみると、柱にくくりつけられたメガホン型のスピーカーからだった。遠目からでも分かるくらいに古ぼけている。


 入り口から少し歩いただけで、石道路がでこぼこしていることが分かった。


 幼児が乗って楽しむ、動物の乗り物を発見。


 ……全体的に色が白く曇ったように薄くなっていて、塗装が剥げている箇所もあった。アニメ調な動物の笑顔が、眺める時間に比例して怖くなってくる。


 視線を移す。


 あれはジェットコースターらしい。


 一応は人が乗っているようで、楽しんでいる悲鳴も聞こえるが……走行音がなんだか、今にも壊れるんじゃないかって不安に駆られる、ガラガラ音が混じっていた。


 観覧車も小さい。

 全体的に殺風景。

 なにより人が少ない。

 っていうか――


 年頃のかわいー女の子(自称)の私が来るには、対象年齢が大幅に外れているとしか思えなく。明らかに『子供』が遊ぶような、そんな場所だった。


 そんな中を、


 高校生になった私と、龍の羽織を着た兄とで歩いている。


「自分たちが来るには、少々場違いな所ですね」


 兄の声ではなかった。


「うん。……ん?」


 背後から聞きなれた声が聞こえてきて、

 私と兄の龍之介は、ぴたりと足を止めた。

 兄が振り向いて、口元をひくつかせながら言う。


「なんでお前らもここにおんねや」

「ディズニーでも春なら温泉でもよかっただろうが」

「な、ん、で、い、る、ん、だ、よ」


 秦太郎さん、源之助さん番太さんにとっては、自分達がいないことのほうが不思議らしく。


「あん?」


 と、聞き返してきた。


「兄妹水入らずで来たんだけどなぁ~」


 秦太郎さんはやや黙考し。


「……お前が何をしでかすか、わからんしな」


「今の間は何だ!」


 自分達がここ居るに場違いだと、秦太郎さん達は気が付いたらしい。


 が――


「俺達がいちゃあ、いけねぇのかよ?」


 むしろ秦太郎さんは、兄にお邪魔扱いされた事を理不尽に思った様子。

 源之助さんも番太さんも、同意する表情。


「やっと落ち着いたんやから、今日ぐらいは二人っきりにさせろや」


 ……?


 なんだろう?


 いつものメンバーでいてもいいのだが、

 なんで兄は、私と二人っきりにこだわるのだろう?


「別に一緒でも良いでしょ? おにい」

「いーやだめじゃ。お前たちは帰れ」


 さらに、しっしと手を振って追い返す、兄の龍之介。

 ……何がしたいんだか。


「あー、わかったわかった」


 根負けしたというより、子供の遊び場で言い合っている事に耐えられなくなったような、秦太郎さんの表情。

 小さな子供達からの視線が気になる。


「それでは燕さん、お気をつけて」


 秦太郎さんが背を向け去って行った。源之助さんと番太さんが、秦太郎さんの後に続いて帰っていく。


 なんだか可哀想だった。この兄はまったく。


「んじゃ燕。いこーかー」


 こういう事をしておいて、なんでへらへら顔しているのか。


「そうだね」

「なんや? 機嫌悪そうやな」


 わかってない『おにい』だ。

 まったくもう。


「そんなんじゃ、友達なくすよ?」

「う……」


 ふん、とそっぽを向いてやる。

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