第四話

 4:

 同じ施設で育ったみんなとは、離れ離れになってしまったが、いつかは離れて暮らすことになる。


 会えないわけではない、むしろ会いに行けるようになった。そう思い直した。

 施設で自分よりも年上の兄や弟、姉妹代わりになってくれた人たち。


 私の所に生き別れの兄が迎えに来てくれたことをとても喜んでくれて、励まされて、「こっちがやっぱり気になるならいつでも来い」と言ってくれた。


 正直に言うと、今まで育っていた場所と皆から、一人で離れてしまうのは寂しくも不安だったのが本当の事。


 今でもそうだ

 でも戻れはしない。戻ることなんてできない。


 ――ホームシック、かな?


 わざわざ迎えにきてくれた唯一の肉親なのに、それを断って、施設に残るなんて事は、ただの我侭だ。


 みんなの前で、ここにずっと居たいなんて言葉は、口が裂けてもいえない。

 私には迎えが来てくれた……来てしまったんだ。


 施設には家庭内暴力などの虐待、両親と死別してしまった――事情が、たくさんの事情がある。


 私のように捨てられた子もいる。

 なのにそんな皆の前で、肉親がやってきて迎えに来てくれたのに、行きたくないなんて言えるはずも無い。


 本当は皆ちゃんとした中に居るはずだったんだ。



 だけど、自分達の現実にはそのあたりまえが無かった。

 親になるはずだった人にたとえ、どんな事情があっても、

 理由があっても、

 あるいは無かったとしても。

 私達にとっては『無い』という、現実しかない。

 有るところには有っても、無いところには無い。 

 私達には無かった。


 でも……

 私達はそれでもここに居る。

 生まれて、確かにここにいるんだ。

 それでも生きていて、生きていくのだ。


 むずがゆく感じてしまいそうな、月並みな言葉かもしれないけど――

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