浮いていますよ初照くん!

ヒナタジャンクション

第1話 初照くんという男

「プレゼント、ですか」

彼は、少しとぼけた表情でそう答えた。

「うん。初照ういてるくん、高校生なのにシフトもいっぱい入ってくれてるから、お金も結構溜まってると思うのよ。お母さんとかにね?ちょっとしたプレゼントとかしてあげたら喜ぶんじゃないかなーって…」

店長はほほえみながら、そして、どこか「必死」になりながらそう問いかけたのだ。

「…そうですね。お金はだいぶ溜まりました」

「やっぱり?そうでしょ!?」

初照くん…平場初照ひらばういてるのする肯定は、日食と同じほど滅多にないことなので、店長は語気を強めたようだった。

「はい。重い本を運んで、苦手な接客もして、それでも最低賃金スレスレのこの店で、我ながらよく頑張ったと思います」

——そう、初照くんとはこういう男なのだ。

「…あー、なんかごめんね。無理はしないでね…」今年で四十しじゅうの店長は、年相応の大人らしさで初照くんを優しく受け止める…

「…それにしても、お母さんにプレゼント、ですか」

その場を気まずくさせた張本人が、何事もなかったかのように会話の主導権を握った。

「あ、うん。親孝行みたいな感じでさ」

店長は、案の定テンションが下がっている。

「…お母さんがいない場合、どうしたらいいですか?」

「えっ?」店長と、物陰から様子を伺っていた僕。その二人が同時に声を出した。

「西島くん、いたんですか」初照くんが僕に話しかける。

「あー、うん。そのつもりはなかったんだけどちょっとだけ話が聞こえてね。お母さんがいないって、本当…?」とっさに嘘をついた。だけどやはり気になるではないか。初照くんの家庭事情など…


「え?お母さんいますよ?」


「え?…でもさっき、お母さんがいなかったらプレゼントはどうするのみたいな話してたじゃん!」


「はい。お母さんがいなかったらっていう、もしもの話をしてました」


僕と店長は、五秒ほど言葉が出なかった。

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