第九話 拙い逢瀬。

 れんの事を泣かせてしまった。

普段あんなに性格最悪で悪態ばかりつく妹なのに、あんな姿を見てしまうと可哀想で申し訳ない気持ちになる。

これからはキツく当たられても穏やかに対応して無視もやめよう。






 数日して淡藤あわふじとの約束の日が来た。

今日は天気も良くて出かけるにはいい日だと思う。

蓮とのことはモヤモヤが残ったままだけど、淡藤との約束は楽しみたい。

待ち合わせは最寄り駅の前のベンチになってる。


 「ちょっと早すぎるかな。」


 待たせたら悪いと思ってちょっと早めに来たけど、家が近いんだからちょうど着くくらいでよかったかもしれない。


 「おーいつむぎ君!ごめんね、待たせちゃった。」


 駅に着いて五分くらい経って淡藤が到着した。


 「全然待ってないから大丈夫。淡藤も早いじゃん。」

 「まあちょっとだけだけどね。じゃあ出発しよう!」

 「オッケー。」


 今日の目的は蓮の手術後に渡す物を買うことだ。

蓮とはあんなことがあった後だからこそいいものを用意したい。

だけど今まであまり気にしたことがなかったから、何が好きかなんて分からない。

そこで昔から服選びなんかに付き合わされてる淡藤が頼りだ。


 「ねえ紬君、プレゼント選んだらでいいんだけどさ、私の買い物にも付き合ってよ。」

 「全然大丈夫だよ。」


 それから淡藤と僕は駅と併設している百貨店を見て回る。


 「これなんかどう?可愛くない?」


 淡藤はアクセサリー店で目をつけたイヤリングを自分の耳に当てながら僕に見せてくる。


 「可愛いと思う。」

 「んー?それって私のこと?」

 「え?」

 「もー、照れちゃって。冗談だよ!次行こ。」


 びっくりした。

女の子とこんな事をした経験が無いから咄嗟に言葉が出なかった。

淡藤は贈り物選びを理由にショッピングを楽しんでいる様にみえる。

僕は淡藤に手を引かれて次々に店を見て周り、お昼頃にはほとんど全てを見終わっていた。


 「そろそろお腹空かない?フードコートでお昼食べようよ。ほら、行こ行こ。」

 「淡藤元気すぎ。」

 「当たり前でしょー。お買い物は女の子の生きる糧なんだから。」


 そんな事を話しながらお昼に食べる物を選び、蓮に渡す物を二人で話し合った。


 「じゃあそれに決定ね。食べ終わったら買いに行こう。その後は私の買い物ね。」

 「もう店ほとんど周ったじゃん。何買うの?」

 「お洋服だよ。男の子の意見も聞いて買ってみよっかなって。」

 「え、僕そんなにファッションに詳しくないけど。」

 「いいのいいの。率直な感想を聞かせてくれれば。」


 蓮への贈り物は陸上に復帰した後でも使える様にタオルと蓮の艶のある長い髪を纏めるヘアゴムにすることになった。

綺麗にラッピングされたタオルとヘアゴムを受け取り、淡藤と衣料品店に向かう。


 「こんなのどう?」

 「似合うと思うよ。」


 淡藤はどんな服でも着こなしていて、僕は意見を求められてもほとんどかわいいと似合うくらいしか言えなかった。







 「今日はありがとう。淡藤がいてくれて助かった。」

 「どういたしまして。私も沢山お買い物できて楽しかったよ。また行こうね。」

 「うん。じゃあ帰ろう。」


 今日は良い一日だった。

あの出来事の後、まだ蓮とは話せていないが、これを渡せば喜んでくれると思う。

しかし女の子って体力あるなぁ、一日中歩き回ってヘトヘトだよ。






 その日は心地良い怠さを足に感じながらゆっくりお湯に浸かって、久しぶりに深い眠りについた。

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