第八話 紅色の月。

 コンビニからの帰り道、何気ない話を淡藤あわふじとしながら歩いている。

可愛い幼馴染のお姉さんと帰っている今の状況は内向的な少年にはかなり刺激的だ。


 「つむぎ君さ今度れんちゃんの手術成功のお祝い買いに行こうよ。すぐ渡せるように早めに買っておけばいいと思うんだよね。」

 「わかった。あ、二人でいくの?」


 淡藤と2人でお買い物なんて行けたら最高だ。


 「そうだね。二人で行こっか。いつ行く?予定教えて。」

 「ちょっと待って、今見てみる。」


 やった!淡藤とデートだ。

向こうはただの買い物だと思ってるかもしれないけど。

嬉しい誘いに急いでどうせガラガラの予定を確認しようとすると、おびただしい数の不在着信の通知が入っていた。

蓮からだ。


 「どうかした?」

 「いや、大丈夫。予定大体空いてるから淡藤に合わせるよ。」


 蓮のことだから、どうせくだらない用なんだろう。

気がつかなかったフリして無視しよう。


 「本当?じゃあねー、この日は?」

 「大丈夫。」

 「オッケーじゃあこの日にしようか。」


 僕のスマートフォンを覗き込む淡藤の髪が鼻先に触れる。

淡藤の髪は花のような優しい香りがした。


 「じゃあ紬君。明日はお家に行くね。蓮ちゃんには言ってあるから。バイバイ。」

 「うん。じゃあ明日。」


 淡藤の家の前で別れて我が家に向かう。

帰ったら蓮の我儘が飛んでくるんだと思うと気が重い。


 ーーガチャ。


 「ただいまー。」

 「……。」


 蓮の声がしない。

家にいるはずなんだけどな。

挨拶だけはちゃんとしてたのに、部屋にいるから聞こえなかったのか。

仕方ない、さっきの電話の件もあるし、部屋まで行くか。


 「蓮ただいま。ごめん。スマホ見てなくて電話気がつかなかっ……。」







 なんだ?赤……、だ。

だ。

なんだこれ。

部屋には蓮が着ていたらしいパジャマのズボンと女性用の下着が落ちていて、蓮はタオルの上に座っていた。

蓮の目元はさっきまで泣いていたのか赤くなっている。

問題はそこじゃない。そのどれもが血だらけなのだ。

知らない間に襲われたのか!?怪我をしていて抵抗もできずに。

上手く頭が回らない。


 「何処行ってたの?」

 「え?」

 「何処に行ってたんだよ!?」

 「いや、ちょっと散歩行ってて。」

 「へぇー。怪我した妹ほったらかしてお散歩してたんだ。」

 「いや……。」


 何がなんだかわからない。

どうしてこんな事になったんだ。


 「下手な嘘とかいいから。あわちゃんと会ってたんでしょ。」

 「え?なんで。」


 なんで蓮が知ってるんだ。


 「本人が言ってんだからバレるに決まってんじゃん。」


 蓮の見せてきたスマートフォンの画面には、淡藤とのチャットツールでのやりとりが映されていた。


 『蓮ちゃん、明日は行けるから楽しみにしててねー。』

 『やったー!あわちゃんに会えるの嬉しい笑笑!!!』

 『紬君と会っちゃった。やっぱり幼馴染と話すと楽しいね。明日がより楽しみになりました!』


 「いや、散歩してたのは本当のことで。」


 嘘じゃない。

本当に散歩して、確かに淡藤とは会ったけど、それも偶然で。


 「うるさい。もういいから。そこの1番上の棚からナプキン取って。」


 ナプキンという単語を聞いて、初めて頭がまともに働きだす。

蓮はで血が出て、ナプキンを自分で取ろうとしたが怪我をしていて椅子に登れず手が届かなかったんだ。

それで、僕を呼んで。

僕なら取れるから。

けど僕は家に居なくて電話も出ない。

苦肉の策でなんとかタオルで周りに血がつかないようにしたんだろう。


 「ごめん。」



 ごめん蓮。

僕が電話に出ていれば、家から出なければ、帰り道に余計な事を言わなければ。

蓮が泣いたのを見たのなんて、小学生以来で、なんか、どうしよう。


 「早くして。」


 いつも冷たい蓮の声が、今日は全身を刺すように鋭く、一段と冷たく聞こえた。

指差された棚からナプキンを取って蓮に手渡す。


 「ごめん。ほんとに。」

 「出てって。」

 「あの……。」


 何を言うんだ?

僕に今言えることなんて無いのに。


 「早く、出ていって。」

 「ごめん。」


 蓮の部屋を出て、部屋に戻ってベッドに倒れ込んだ。

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