28話 今までサンドバッグみたいな人生だったけど、転生したらサンドバッグになってた件について

莉奈達と合流した後、僕達は渋谷のチェーン店の居酒屋に入った。


ある程度飲んで、祐希は「化粧直してくる」と言って席を外した。

僕は次になにを頼もうか、メニューを見ていた。

莉奈もなにか頼むのかなと思い、莉奈を見ていると、熱心にスマホを見ていた。


「莉奈なに見てんの? F1のニュース?」


大体莉奈がスマホを見るときは高確率でF1のニュースなのだ。

だが、その予想は外れ返ってきた返答は意外な答えだった。


「web小説。なんか通知入ってたから」


その単語に僕は少し驚いた。

そしてその単語は少しタイムリーな感じにも感じた。


「莉奈、小説見るんだ」


「見るよ。web小説だけだけど」


僕は1週間に2冊の文庫本を読む。それくらい小説は好きだ。

よく読むのはキャラクターノベルなどがメインだ。そして、いつも新刊を漁って読み尽くしている。


ただ、web小説は見たことはなかった。

存在は知っていたが、サイトに行ったことない。


「どんな小説なの、それ?」


「恋愛物だよ」


莉奈のその言葉に僕は口元が緩む。

少し意外だったのだ。恋愛小説なんて読むこと自体が。

それがなんだが可愛く見えたのだ。


「なにニヤついてんの」


少し頬を膨らませムッとしている莉奈。


「いや、少し意外だなと思ってさ」


「そんな事ないから。普通に見るから」


少し恥ずかしそうに莉奈は言った。

なんか可愛かった。だから素直に述べた。


「莉奈可愛いね」


「うん。可愛いよ、私」


莉奈も素直に述べた。

というか、自分で可愛いという辺り莉奈らしい。だが他の人に比べて憎たらしくないのは不思議だ。

まぁ、事実だからツッコミも出来ないのだけど。


「莉奈は小説とか書かないの?」


「私は書かないかな。楽しそうではあるけど」


少し悩みながらそう答えた。

まぁ、気持ちはわかる。誰でも書ける様なものでもないし、小説を書くと言う行為は気恥ずかしく、そして難しい事なのだから。

それはやった事がない僕でさえ、なんとなくだがわかる。


「もし莉奈が書くならどんな小説書くの?」


「うーん。どんなのかなー」


僕は先程朝倉がした質問を、今度は莉奈にしてみた。

莉奈は手を顎にやり深く考えていた。

そして、閃いた様な顔で僕に目を向ける。


「今までサンドバッグみたいな人生だったけど、転生したらサンドバッグになってた件について、とかどうかな?」


なんだその絶望的な題名は。

あと、題名がクソ長いぞ。

転生物はよく知らないが、今までの人生が微妙な主人公が転生して無双したり、ハーレムしたりして、幸せになるから楽しいのではないのか?

今までの人生がサンドバッグという絶望的な人生の奴が、転生してサンドバッグになったら、もう最悪じゃないか。

バッドエンドの後に更にバッドエンドを叩き込まれるやつだ。

もう絶望しかない。


「いや、そのタイトルはダメだろ。もう、読みたくないもん。絶望しか感じないもん」


「そんな事ないよ。みんなのサンドバッグになって、みんなを楽しませるんだよ」


みんなはいいかもしれないが、サンドバッグの奴はそれでいいのだろうか。

全然楽しそうな人生じゃないんだが。


「なんか、人気出そうな気がしてきた」


「いや、気のせいだよ」


的確にツッコミを入れた。

莉奈はこれのどこに可能性を感じたのだろうか。というかどんな感性をしているのだろうか。

もしこのタイトルで面白く書ける作家がいるのなら、ぜひ書いて頂きたい。

きっと莉奈は喜んで見るであろう。


「信ならどんな小説書くの?」


そう聞かれ少し悩んだ。

そして、間違いなくさっき思いついた『無口なアイドルと美術の僕』は言ってはいけない。

浮気なんてしていなが、中学生の女子と一緒にカフェなんて行った事を知られたら、少々めんどくさいことにもなる。

だからここは大人しく誤魔化そう。


僕は西尾維新や赤川次郎が大好きなのだ。だからミステリーでもいい。

たが、それよりももっと莉奈が喜びそうな返しにした。


「恋愛小説かな。莉奈と僕の小説とか」


そう話すと、案の定嬉しそうだった。


「じゃあ、私が格ゲーで信をサンドバッグにした話とか書いてね」


「誰が書くかよ、そんな事」


そんなくだらない話をしていると祐希が帰ってきた。


「どしたの? なに話してんの?」


「おかえり。web小説とかの話だよ。莉奈好きなんだって、web小説」


僕がそう説明すると、祐希は少し跳ねた様にリアクションした。


「あっ! 莉奈も読むんだ! 私も好きなの!」


これまた意外である。

祐希が小説を読むなんて想像出来やしない。

僕は知らなかったが、最近流行っているのだろうか。

その後2人はweb小説について盛り上がっていたが、祐希は衝撃的な事を言った。


「私も小説書いてるの!」


僕と莉奈は大きく目を見開いた。

まさか、この語彙力の欠片もなさそうな祐希が書いているなんて驚きだ。


祐希は自分のスマホを操作して「これこれ、見てみてー!」


と僕と莉奈にスマホ画面を見せてきた。

そこに書かれていたタイトルは『病んでる地雷女は抱かれたい』だった。

僕は化粧を直したばかりのご自慢の地雷メイクして、満面の笑顔の祐希を見てこう思った。

というか、莉奈も同じ事を思ったはずだ。


(それお前じゃねーかよ)

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