5.出発

 ……見渡す限りの草原。


 ……見渡す限りの青空。


 ……見渡す限りのよく分からない生き物たち。それらをまとめて、この世界では『魔物』と呼んでいるらしいが……。



 旅の準備を整えた翌日。異世界へとやってきてから三日目にしてようやく最初の街、ドルニア王国の外へと出た。


(この道をまっすぐ進めば村があるはず。今日はそこへたどり着くことを目標にしよう)


 周りを見渡すと、何やらウサギに鋭い牙をつけたような魔物だったり、ドロドロとしたピンク色の……俗に言う『スライム』とかいうやつだろうか。


 俺は一番近くを歩いていた鋭い牙を持ったウサギの魔物へと近づいて、右手に持った剣を軽く振ってみる。


 ――スパンッ!


 切り裂く音と共に、ウサギの魔物は切られてそのまま倒れる。


(……やったか。魔物を倒したらレベルが上がる……らしいけど)


 しばらくすると、魔物の死体は――シュウッ……と消え、丸いオーブのようなものに変わって俺の体の中へヒュウ、と飛んでくる。

 

 これが経験値……みたいなもの、なのだろうか?


 俺はバッグから小さな石板を取り出して、軽く指を触れる。


 モワアアッ、と石板の表面に文字が浮かび上がってきてステータスが現れるが、前に確認したときから特にこれといった変化はない。


 一匹倒しただけじゃ上がらないのは当然か……と納得しながら、俺は再び村へと向けて歩きはじめる。



 ――スパンッ、スパンッ、グサリッ!!


 村への道の途中で何度か魔物と遭遇したが、どれも弱く、剣で一撃だった。


 あまりにも弱すぎるので拍子抜けしてしまう。ここまでガチガチに装備を固めたのが馬鹿らしくなってしまうようだ。……なんて言っていたらフラグになりかねないので、無駄なことは喋らず、黙っておこう。



(でも……こんなに弱いならいっそのこと狩りまくって、今のうちにレベルを上げておいたほうがいいんじゃないか?)


 そう思いたった時には既に行動を始めていて、俺は道を外れ、見渡す限りの広い草原へと走り出していた。



 ***



 ――スパンッ、スパンッ! 剣が魔物を切り裂く音が、草原へと響く。


「よし。やっとレベルが上がったな……」


《体力》100/100%

《レベル》2

《スキル》味方弱化

《力》27

《守》21

《器用》29

《敏捷》22


 ふと確かめた石版に浮かび上がる文字には、『レベル2』と書かれていた。力とか守とか、他のステータスも軒並み上がっている。


 ……そう言われると、心なしか力が強くなったような気がする。多分気のせいだけど。


 向こうのほうにはまだ小さな魔物の群れがあるので、この調子でどんどんと軽く薙ぎ払ってこよう。



 ――スパンッ、ドサドサドサッ!!


 剣を大きく横に一振り。振った先にはスライムの魔物が三匹、倒れてそのまま消えていく。


 剣の扱いにも慣れてきたのと、レベルが上がって力が上がったのもあるのだろうか。密集しているなら、一振りで三匹くらいならまとめて倒せるようになった。


 単純にレベル上げの効率は3倍だ。この調子でどんどんレベルを上げていこう。もし強い敵が来ても、この『味方弱化』のスキルのせいで、一人で戦わなきゃならないんだからな。



 ――グサリ。


 一匹だけで歩いていた狼のような魔物の背中へと剣を突き刺す。


 狼の魔物はこちらに気づくと噛みつこうと襲ってくるが、気配を消して少しずつ近づいて先手を打てば問題ない。


 ここまで出会った魔物の中なら一番凶暴そうではあるが、それでもこの防具が役に立った場面は一度もなかった。不意を突いて一撃で倒せばいいだけだからだ。


 レベルは5まで上がって、ステータスも順調に上がってきている。これが高いのか低いのかは比較できるような相手がいないので分からないが、とにかく上げれるだけ上げておいて損はないはずだ。



 ***



 昔から、一度火がつくと、時間も忘れて熱中してしまう悪い癖がある。今もそうだ。レベル上げに夢中になっていたら空はすっかり暗くなってしまい、やがて夜になってしまった。


 ――マズイ、何も見えん。


 こんな草原のど真ん中に街灯なんてあるわけもなく、視界は奪われ、完全にゼロになってしまう。この状態で魔物なんかに襲われたら何もできずにそのままやられてしまうのがオチか。


 そんな中で唯一見えるのは、少し離れた所に煌々と光る、正体不明の赤い光だけ。……なんか怪しいような気もするのだが。


 しかし、周りが何も見えない今の状況よりは絶対にマシなので、俺は離れた所にある謎の赤い光源の方に向かって走り出した。

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