第19話 風とガンナーと彼と
本日の
2次予選の相手は騎士テオにとっても強敵だったと言える。鎧をしていてもやはり傷が所々に見られる。そんなには深い傷ではなさそうだが。
そんな中呼ばれたのは彼女だった。
「アネット・サザーランド選手!闘技場入り口までお越しください」
「今度はアネットさんですね」
「じゃあ、行ってくるわね」
「アネット、ちょっと待った」
「何?レム?」
「新型の魔法銃だ。せっかくだがら試運転させてこい」
レンドールが改良型の魔法銃をアネットに差し出す。それを受け取るアネット。この魔法銃はどこか違う。リボルバーのような魔法銃だった。
「弾丸を替える時、安全装置を外して引き金をひけば、君でも攻撃呪文を使える。とりあえず相手は氷に弱いから、弾丸に氷系魔法を詰め込んでおいた」
「しかし、弾丸にも制限がある。10発しか撃てないから必要な時の切り札として使えよ」
「わかったわ。ありがとう」
そうして
こんな土壇場で新型魔法銃を渡すレンドール。それだけガンナーにとって危険な相手ということか。テオとミオンはそう思った。
闘技場入り口ではアネットが深呼吸をして精神を集中させていた。光の先の闘技場へその瞳を向けると、静かに歩いて戦いの場へ向かう。
歓声が聞こえた。遠雷のような歓声と澄み渡る青い空が見える。そして、対戦相手の一番手、
レフェリーの鬨の声と共に試合が始まった。
「試合開始!」
アネットが試合開始の声と共に二つの銃を構えて、まずは左側の魔法銃を試運転を開始した。
乱発は出来ないが、アネットはその威力を見るため、安全装置を解除して、魔法の弾丸を装填する。
舞踏竜ベルキュロスが左側の翼でとびかかってきた。それを紙一重で回避するとその弾丸を発射した。
「喰らいなさい!」
弾丸が発射されると共に猛吹雪が舞踏竜ベルキュロスに襲い掛かる。これはレンドールの魔法の一つ、最強の氷系魔法、コキュートスではないか。
確かにこれは乱発は出来ない。威力は相当なものだが、それだけに切り札としてとっておくべき弾丸だ。
そこで右側の拳銃に素早い装填をすると、通常の弾丸で一気に攻め立てた。それでも通常の弾丸ではなく、徹甲弾と呼ばれる硬い鱗を持つ敵専用の弾丸で攻撃している。
舞踏竜が猛吹雪から抜け出すとガンナーの懐に飛び込む。そして瞬速のタックルをかました。
「ぐっ!」
「危ない!姉さん!」
「ガンナーは懐に飛び込まれると一気に不利になるからな」
今度は鋭利な尻尾が飛んでくる。鞭のように撓ってアネットの腹を攻撃してきた。
「くっ!」
「姉さん!離れろ!ガンナーに接近戦は不利だ!」
(離れたいけどしつこいのよね!こいつは!)
舞踏竜ベルキュロスが文字通り、殺しの舞踏でアネットを翻弄する。舞い踊るように身体を軽やかに動かす。
尻尾が、翼が、爪が、アネットを追い詰める。だんだん下がると闘技場の壁が背中にある。逃げ場を失う。
「やばい!後ろは壁だ!」
「やられる!」
そこでアネットが舞踏竜の頭を踏み台にして、高く飛び跳ねると空中から一気に徹甲弾を速射した。
舞踏竜の鱗を貫通して徹甲弾が内臓に突き刺さる。すると調子よさそうに身体を踊らせていた舞踏竜の身体が突如爆発した。
まるで体内に爆弾を埋め込まれていたように爆発して舞踏竜ベルキュロスがいきなりバッタリと倒れた。
「どうなっているんだ!?いきなり舞踏竜ベルキュロスが爆死したぞ!」
「よし!」
(あれは徹甲弾に似た弾丸。爆破弾と呼ばれる特別製なのよね)
爆破弾を撃ちこまれると数秒を経て、撃ちこまれた標的の身体の中で爆発を起こす。それは敵を内臓から仕留める弾丸だ。心臓に近い場所を狙撃して撃ちこめば、爆発の余波で心臓を爆破出来る。
地味だが効果的な弾丸だった。
すぐさま2回戦に突入する。現れたのは
刃竜カーマレギオンは威嚇行動をする。飛刃をいつでも飛ばせるぞとばかりに鱗を逆立たせる。
アネットは爆破弾を装填すると一気に撃ちこんだ。
「先手必勝よ!グズグズしているとさっきのレムみたいにボコボコにされるわ!」
「手数で勝負か。飛刃を飛ばされる前に殺すつもりだ!」
「さあ、いくわよ」
「左側も構えて撃った!」
「ものすごい弾丸の嵐だ!」
「そうだ!やれ!一気にやっちまえー!」
「押し切れー!姉ちゃん!」
アネットが残弾数を気にする前に、一気に一斉射撃を始める。通称、エンドレスワルツ。相手が死ぬまで、その場から動かないで撃ち殺す射撃方法だった。
刃竜カーマレギオンは飛刃を飛ばす暇も与えられないまま、弾丸の嵐に呑み込まれていく。
その内、刃竜の鱗を貫通した爆破弾が爆発を開始した。体内から内臓を次々と爆破される刃竜カーマレギオン。その間にも外傷となる魔法銃の弾が刃竜の体力をじわじわと奪っていく。
「とどめを刺してあげるわ!スーパーノヴァ!」
右側の拳銃から膨大なエネルギーの弾が発射された。それは刃竜カーマレギオンに直撃するとまるで核爆発のように大規模な爆発を起こし、刃竜カーマレギオンの身体を木っ端微塵にしてしまった。
「スゲエ!カーマレギオンの身体がバラバラになった!」
「3回戦か!勝てるぞ!姉ちゃん!」
「ハチの巣にしたれー!」
3回戦が開始された。立ちはだかるのは
アネットはレンドールから渡された魔法の弾丸の残りを確認する。後9発。風牙竜サーベリオスを倒し切る弾はある。なら一気に叩き込んでやるわ。
素早く魔法銃のリボルバーを回転させる。魔法弾が装填される。そして、風牙竜サーベリオスに撃ちこんだ。
またも銃から猛吹雪の刃が発射された。風牙竜に猛吹雪が襲い掛かる。四方八方から氷の刃が襲う。アネットが連発した。
闘技場の気温がまるで雪原のように急激に寒くなった。まるで荒ぶる吹雪、いやダイヤモンドダストのように、猛然と攻撃する。
「何てガンナーだ。あの銃は世には出回っていないもんだろ」
「魔法を撃てる拳銃。しかも、あの魔法は氷系最強のコキュートスだ。彼女が自ら込めたのか?」
「ガンナーってでも、攻撃魔法は使えないんじゃなかったっけ?」
「ただのガンナーじゃないぞ。姉ちゃんは」
風牙竜サーベリオスは猛吹雪の中、逆転を狙うように竜巻ブレスを吐いた。真空の刃がアネットに来る。
「くうっ!竜巻ブレスね!」
アネットが竜巻ブレスに巻き込まれ身体を宙に浮かせた。風牙竜サーベリオスはその竜巻ブレスに乗り、風と戯れ始めた。
アネットに襲い掛かるカマイタチの刃。上に着た革のジャンバーが引き裂かれる。
「何て鋭い刃なの?!それにこの風じゃあ、装填はできないわね…!」
「やるしかないわね」
アネットが空中に舞いながら、装填させておいた魔法弾をサーベリオスに撃ちこむ。
猛吹雪の魔法が空中で炸裂した。観客席まで猛吹雪の余波がきた。
「うおっ!?」
「なんちゅう戦い方だ」
「姉ちゃん!キックだ!蹴りでそいつを叩き落とせ!」
「蹴り?!喰らえ!」
アネットが思い切り風牙竜サーベリオスの頭に蹴りを入れた。風に乗りいい気になっていた風牙竜の出鼻をくじいた。ひるんで風から落ちる。
「そこだーっ!」
観客の掛け声と共にアネットは先ほどの大技、スーパーノヴァを右側の拳銃から放つ。
地面に向けて核爆発のような大爆発が起きた。風牙竜サーベリオスはその大爆発で身体を四散させて粉々に破壊された。
竜巻ブレスが名残を残して、収まっていく。アネットは優雅に舞い降りた。
レフェリーは高らかに宣言した。
「アネット・サザーランド選手!2次予選突破とする!」
その宣言と共に歓声が沸き起こる。そして労いの言葉が贈られた。
「やったー!姉ちゃんに賭けて正解だったぜー!」
「今のオッズは……8倍か!これもまた美味しい!」
「今度の試合も姉ちゃんに賭けされてもらうからなー!」
アネットは大きな笑みを浮かべて、観客たちに手を振り、闘技場から選手控室へと戻っていった。
試合が終わり、選手控室へと戻っている間、アネットは思わず膝をついた。荒い呼吸をしている。
「はあっ…はあっ…傷が…凄いわね…」
「アネット」
「レ、レム…」
レンドールが途中の通路まで迎えに来ている。そして、彼女に近づく。彼も片膝をついて、そして優しく言った。
「無理をしたな…アネット。しばらく、気を失った方がいい…医務室には俺が連れて行ってやるから…」
「ごめんね…」
アネットはレンドールに身体を預けて、その場で気絶してしまった……。
レンドールは彼女の身体を抱きあげ、そのまま医務室へと連れて行った。
「よくやったな…アネット」
一言呟き、医務室へと運んだレンドールであった。
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