第18話 風と知識は使いよう
本日の
彼は今、選手控室にて想像を絶する死闘を終えて、ため息をついた。そして生きていることの確認をするように自分の胸の鼓動を確かめている。
まだ心臓の鼓動は張り裂けんばかりにバクバク脈打っている。だが、それで安心した。確かに自分が生きている何よりの証だから。
「レムさん、今回の2次予選の感想はどうでした?」
レンドールはテオの質問にため息混じりで答える。これからインビジブルナイツの面々も連戦で2次予選突破を目指すから、適当な答えを避けた。
「最初の1次予選は本当にふるいにかけただけだったね。2次予選で本当の実力を試される。生半可な覚悟で挑戦すると死ぬかもな。どの飛竜も危険だけど個人的には
「弱点はわかるの?」
「
「次は誰が呼ばれるのかな?」
ミオンが何気なくその次のことを言うと、係員がインビジブルナイツの場所に来てある人物に連絡をした。
「テオ・ラドクリフ選手!闘技場入り口までお越しください」
「次はテオ君か。そのフラタニティでは少し苦戦するかも知れないな。対策はしてあるか?」
そう、テオが愛用しているフラタニティは雷属性の武器なのだ。舞踏竜ベルキュロスは雷属性の敵。しかし、実は刃竜カーマレギオンは雷に弱く、風牙竜サーベリオスも雷属性を苦手とするもう一つの側面があるのだ。
ということは舞踏竜ベルキュロスを倒せば、活路は見いだせる。
「舞踏竜ベルキュロスには苦戦するかも知れませんけど、他の刃竜や風牙竜は雷に弱いと聞きます。何とかなるのではないかと思います」
「月並みな応援はいらないわね。ギリギリまであきらめないことが肝心ね。もうダメだと思ったとき、冷静に戦況を見極めるのがいいわ。そして何が出来るのかを考えてみるのが勝利への鍵ね」
「アネットさんの口癖ですね」
「でも役には立つでしょう?」
そうやって彼女は大きな微笑みを浮かべた。この微笑こそが彼女の強さだ。
それはどんな理論よりも役に立つ真理だった。
「ですね!ギリギリまであがいてやりますよ。じゃあ、行ってきます」
テオは選手控室から続く闘技場入り口で、深く息を吸いゆっくりと息を吐いた。そして手持ちのアイテムポーチを確認する。
彼のアイテムポーチには色々な補助アイテムが入っている。それは戦闘を有利にしてくれる有用なアイテムだ。それを活用するのが今回の課題だった。
舞踏竜ベルキュロスが檻から解き放たれ、そして
「試合開始!」
レフェリーの鬨の声と共にテオはある薬をフラタニティの刃に塗りこんだ。刃薬と呼ばれるアイテムで配合次第で、スタミナ切れをさせたり、武器の攻撃力をあげたり、硬い鱗からはじかれることを失くしたりすることが出来る。
舞踏竜ベルキュロスは舞い踊るように身体を動かすなら早々にスタミナ切れをさせれば何とかなると考えたテオは、減気の刃薬を塗りこむ。
減気の刃薬は怪物のスタミナ切れを促進させる効果を持つアイテムだ。元気の源を減退させるのでそれに反する力を持つ何かと調合すると出来上がる。人間で表現するなら、それはイライラだったり、やる気が起きないなど、そんな感じの心の作用を刃に塗りこむという説明ができる。
舞踏竜ベルキュロスは様子を窺うようにゆっくりとテオを見据えている。
そして、テオはこのままではらちが明かないので自分からきっかけを作った。
「いくぞ!シールドブレイク!」
テオは舞踏竜ベルキュロスに突っ込むと頭を踏み台にして高く跳躍して、最上段から額にめがけて大ぶりな袈裟斬りを入れる。
ベルキュロスは悶える。そして舞い踊るように身体を動かし始めた。尻尾をまるで鞭のように扱い、踊るように彼の剣を回避する。
テオも負けていない。まるで一対の舞踏家のように舞踏竜ベルキュロスの踊りに合わせて、剣の舞いを披露する。
その闘いはとにかく退屈を感じさせない美しいものだった。本当に一対の舞踏家の戦いだったのだ。
鞭のように襲いかかる尻尾を紙一重で回避した後、ラウンドフォースでベルキュロスに攻撃を加えるテオ。
ベルキュロスが放電しようとするが、ここで先ほどの刃薬の効果がきた。スタミナ切れで放電することができない。
「今だ!ブレイドダンス!」
ここだと言わんばかりにテオが一気に攻勢に出る。6回もの斬撃を加えた後、テオが武闘家ミオンの得意技を叩き込む。
「昇竜撃!」
剣で一撃加えた後、豪快に左手でアッパー攻撃して、舞踏竜ベルキュロスを文字通りノックアウトしたのであった。
とどめの一撃は、騎士テオの代名詞のこれだ。
「雷鳴閃!」
さすがの雷を得意とする舞踏竜ベルキュロスでも高電圧の閃光は痛い。舞踏竜ベルキュロスは倒された。
すぐさま2回戦に突入する。2回戦は刃竜カーマレギオン。
レンドールが苦戦を強いられた飛竜である。
テオはここでフラタニティの雷撃を上昇させる刃薬を刃に塗る。属性強化の刃薬だ。これでフラタニティの雷撃エネルギーをより強める。
カーマレギオンが早速、
カーマレギオンの額の角が簡単に折れた。悶えるカーマレギオン。着地と共にレンドールも使用した技を彼も叩き込む。
「クライムハザード!」
フラタニティをカーマレギオンの身体に深々と刺して、そのまま上空にジャンプしながら身体を引き裂く。カーマレギオンの身体から血が噴き出した。
上空にジャンプしたテオは最上段から構えて、盾をも壊す必殺技を出した。
「シールドブレイク!」
今度はカーマレギオンの尻尾が斬られた。だが、力尽きない。カーマレギオンが着地の隙を突いて、飛刃を飛ばす。
「うわああっ!」
矢継ぎ早に飛刃が飛んでくる。カーマレギオンが怒りのあまりに暴走しているのだ。
「兄ちゃん!」
「やばいぞ!」
「やっぱり刃竜カーマレギオンは厄介な飛竜だな」
「あれじゃあ、旦那と同じで裂傷状態になるぞ」
テオもこの猛攻をただ受けているだけではない。何か策はないかと思っている。そうだ、目つぶしして時間を稼ぐか。
アイテムポーチから手投げ玉を取り出して、カーマレギオンの目の前の空間で炸裂させた。
「これは閃光か!」
「眩しい!」
「花火みたいだ」
テオが投げたのは閃光玉。手投げ式の閃光弾で、銃弾として使用されている物を手投げ玉として改良されたアイテムである。
カーマレギオンが閃光で気絶している。視力があまりにも良いので直撃すれば目をくらませるのである。
テオは身体を動かすと余りの痛みを感じていた。
「くうっ!裂傷状態ってやつですか。このままじゃ…身体を動かせない。だけどいつまでも気絶しているわけでもないし……」
だが、裂傷状態はその場で5秒間身体を動かさければ自然と治癒するのも特徴だった。飛刃の傷は一時的な深い傷だが、じっとしていれば血液が固まってかさぶたに変わる。
カーマレギオンが気絶から立ち直る頃にはテオも裂傷状態から脱していた。
カーマレギオンは勝負を決めに突っ込んできた。テオは動かない。
「カーマレギオンが突っ込んでくるぞ!」
「やられるつもりか!?」
そこでテオはカーマレギオンの攻撃をいなして、強烈な斬撃をカウンター技として用いた。これは”鏡花の構え”と呼ばれるもので、心を静かにして一瞬その攻撃をいなして反撃に転ずるという技だった。
その時、澄み切った水のような心が必要とのことで、太刀筋に心の様が出てしまうので使いこなすには技術が必要と言われる。
刃竜カーマレギオンはその澄み切った剣で一刀両断され倒された。
「残り1戦。何とかなるかもしれない」
3回戦が開始された。風牙竜サーベリオスが竜巻の風に乗って現れた。体の色は黄色に獲物の返り血を浴びたような赤い体毛、赤い牙。
サーベリオスが竜巻ブレスを吐いた。周囲に竜巻が何個も現れる。するとサーベリオスが竜巻と戯れるように身体をぐるぐる回転させて、明後日の方角から攻撃してきた。
「うわっ!」
強烈な翼の一撃を食らったテオ。サーベリオスは竜巻とまた戯れる。
「楽しそうですね。あれって人間が巻き込まれても平気なのかな?やってみるか」
テオは竜巻ブレスの中に突撃した。応援している観客は彼は気がふれたと勘違いする。
「おいおい。何を考えているんだ?」
「さっきのカーマレギオン戦で頭が狂ってしまったのかな?」
「本人は正気のようだが…?」
テオが考えたのは竜巻の風の力を利用することは出来るのでないかということだ。レンドールも利用して風牙竜サーベリオスに勝った。
竜巻の風に乗ると、勝手に身体が浮き上がる。細かいカマイタチの刃が飛んでくるが、気にならない。そうして風牙竜サーベリオスに奇襲する。
「喰らえ!雷鳴閃!」
サーベリオスに明後日の方角から今度はテオが襲い掛かる。サーベリオスが弱点の雷撃エネルギーを受けてひるんだ。
やはり、雷に弱いのだ。テオはそこでここでは初披露となる必殺技を出した。
「ライトニングスラッシュ!」
フラタニティの雷撃エネルギーを最大限まで高めた後、それを敵にめがけて放つ技だ。
十分に性能を発揮させるには属性強化の刃薬を使っている必要があるので限定的に使用できる技であろう。
だが、サーベリオスが高い身体能力でそれを回避する。そして竜巻ブレスを吐いた。
そしてぐるぐる回転し始める風牙竜だが、その竜巻の風にテオも乗って、疑似的な空中戦をする。
「スパイラルエッジ!」
テオが身体を回転させながら、風牙竜サーベリオスの身体にフラタニティを突きさす。
そのまま地面に叩きつけられた。風牙竜は振り落とそうと暴れる。だが、テオはここで手持ちナイフを取り出し、風牙竜サーベリオスの身体を何回もめった刺しを始めた。
何回も、何回も、小型ナイフで突き刺すテオ。最後に彼はフラタニティを突き刺して、そこに雷撃エネルギーを注ぎ込んだ。
風牙竜サーベリオスは体内に何万ボルトもの電流を直接流しこまれて、絶命した。バッタリと倒れてしまったのである。
レフェリーが確認の為に風牙竜サーベリオスの身体を調べる。絶命しているのを確認したレフェリーは彼が勝利したことを宣言した。
「テオ・ラドクリフ選手!2次予選突破とする!」
その瞬間、観客はまたおおいに盛り上がった。
「やったー!すげえぜ!
「また今度もオッズが美味しいぞ!8倍だ!」
「くっそー。そっち買えば良かったー……」
テオは笑顔になって、観客たちに手を振り、礼を述べると、そのまま選手控室へと戻っていった。
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