第2話 闘いの前に

 天空の楽園都市アストリア。一年中、心地よい気温が保たれた空中に浮かぶ浮島の大陸である。歴史は古く、古代に繁栄した古代人の末裔たちがこの天空都市の礎を築いたという。

 まだ、魔神が暴れていた頃の時代。人々は悪意の化身たる知恵ある黒龍の力に怯える日々を送っていた。

 すると、どこからともなく、ある旅人が訪れ、死闘の末に黒龍を打ち負かしたという。そしてその旅人が携えていた剣こそ、『ベルセリオス』である。

 旅人は長旅と黒龍との闘いに疲れ、そして地上に残る人間を見限り、天空にいる古代人の末裔に尽力してアストリアが出来上がったという。

 何故旅人が地上の人間を見限ったかは諸説ある。一つは長旅の間、様々な戦乱を見つめて嫌気がさしたこと。また一つは、その黒龍が地上だけでなく天空をも滅ぼそうとしているのを、どうしても見逃す気にはなれなかったこと。或いはその両方の説。

 どちらにせよ、地上の人間はその黒龍に滅ぼされてしまったのは確かな話である。

 アストリアは、空中に浮かぶ浮島の楽園だ。主に芸術や音楽、その他の異文化にも歓迎する場所だった。

 街中では当然とばかりに路上ミュージシャンのバイオリンやアコースティックギターや踊りが披露され、眠らない街”不夜城”の呼び名で通ることも多い。

 そこには、公営カジノや、ナイトクラブ、酒場、劇場など、人々を退屈させない街として有名だ。

 それゆえに、常に観光客が絶えない国柄だった。

 空中に浮かぶ浮島の国なので、一般の人々は定期飛空艇で往来しており、プライベートの飛空艇で来るのはごく限られた人物たちだった。

 彼らは技術屋にして、それなりの戦士、または魔法使いをしている二人の男性が趣味で建造した飛空艇『ラグナロク』で、この国に入国をしようと審査を受けている。

 入国審査を終えた一行は、空中都市の大地に足を踏み入れた。


 パーティーのメンバーは、四人だ。

 魔法騎士マジックナイトのレンドール・ボーフォード。愛称はレム。

 武闘家のミオン・アーヴィング。

 騎士ナイトのテオ・ラドグリフ。

 そして、女性ガンナーのアネット・サザーランド。

 前述のように、レムとテオは技術屋としての面がある。彼らは今、艦橋にて飛空艇駐機所に『ラグナロク』を停めている。

 この小型飛空艇ラグナロクは、乗員は八名が限界。ちなみに武装もきちんとしている。

 その姿はまるで、燃える真紅のドラゴンのように見える。翼のような物もあり、内装は最新鋭技術を投入しており、非常に機械的な飛空艇だ。

 コクピットに値する場所にはレムが操縦桿を握り、助手席にはテオが対空監視と周辺地図の確認をしている。後部座席にはミオンとアネットが空の遊覧飛行を楽しんでいた。

 レムことレンドール・ボーフォードは銀髪にまるでサファイアのように輝く青い瞳に、口元には端正な髭を生やした紳士。

 テオ・ラドクリフは鮮やかな金色に輝く短髪にエメラルドグリーンの瞳の美青年。爽やかな雰囲気の騎士だ。

 ミオン・アーヴィングは黒髪に褐色の瞳。勝ち気な雰囲気と持ち前の怪力で突き進む武闘家である。

 アネット・サザーランドは茶色のショートカットに茶色の瞳。ガンナーらしく獣の革をなめして作られたズボンとジャケットを羽織るシャープな美女だ。


「ここが、空中に浮かぶ浮島の首都アストリアか」


 彼らは入国審査を通り今は、アストリアの街にいる。そこは凱旋門広場である。

 アストリアは今は一番活気に満ちる時間帯だった。彼らが参加する闘技大会は既に受け付けは始まっている。

 空中に浮かぶ浮島の大陸だが、水源の確保は出来ている。この首都の側にはけして枯れることのない無限の湖が湧いており、そこを皆は水源として下水道整備をして使用している。


「あのコロシアムで戦うのかな?」


 騎士テオがコロシアムの方へ目線を送り、すこし心配そうな顔をする。どこか不安と期待感が入り混じった複雑な表情だ。


「でも、何だか、ワクワクしない?こういうのさ!」

「心配事は誰にでもあるわよ。それよりも先の闘いに想いを馳せましょう!」

「大丈夫だよ。あそこにはきちんと初心者用のバトルがあるからさ」


 すると、コロシアムの方角から歓声が聞こえた。随分と盛り上がっているらしい。


「随分と盛り上がっているわね。レム?」

「楽しみで結構じゃないか」


 レム達パーティーが訪れたコロシアム、竜の首コロシアムは人間対モンスターのバトルが主軸である。

 観客たちは人間か、モンスター、どちらが勝つかをコインを使って賭けるのだ。

 一方で、選手たちは、賞金と自らの生命を賭けて怪物たちと戦わなければならない。一瞬の油断が命取りになりかねない。だが得られる賞品も賞金もそれに見合うものでもあった。


 実は、彼らのように選手として闘技大会に参加する者達にはあることが許されている。

 それは、食事だ。そんなの誰だって同じだろう?と思ってはならない。

 彼らの食事は、身体的に何らかの形で”影響”を与える豪華な食事だ。食材というものを調達して、腕の立つコックに開発を頼めば、それを食べられるがまだそのつても獲得していない。

 彼らはまず、その食事を取れる酒場探しから始めることになった。

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