魔法の戦争

夏伐

魔法戦争

 私のクラスにはいくつかのグループがある。

 まず女子と男子で分けられ、そして男子は同類同士で大方固まっているようだ。女子もパッと見た感じは似ている。


 私はどれにも混じっていない。

 所謂ぼっちだ。


 中学の初め頃、女子のグループでの喧嘩があった。間の中立のグループは喧嘩が酷くなるにつれ板挟みから逃れるようにどれかのグループに交じり、最後に私だけが残った。


 もうすぐ卒業する。


 彼女らは喧嘩などまるでなかったように振舞っているが、水面下で嫌がらせを繰り返してる。かなり質が悪い。

 誰か一人がターゲットにならないだけマシなのかもしれない。

 ただグループ同士の水面下での戦争は続いている。


 私はずっとそのグループたちを見ていた。


「○○ちゃん、男子とばっか一緒にいるの!」「××は本当に勉強できないわね。クラスの平均点を下げてる原因よね」「▽▽ちゃんは空気読めないよね」

 毎日そんな話ばかりしていた。

 そして三年間同じように過ごした。


 別に何もしていないけれど「お前の事、呪ったから」そう本人に言うと、本人の中で気にして「本当に呪われたんだ!」と負のスパイラルに陥る話はわりと有名だと思う。


 空気が読めない▽▽は、いつの間にか学校に来なくなった。

 もしかしたら誰よりも空気が読めたのかもしれない。


 ずっと言い続けた人の悪口も巡り巡って呪いになるんだろう。言っているときにその人に対して思う憤り、憎しみ、嫉妬なんかは本当に思っている事だから。

 弱った所で押しつぶされる。


 私と▽▽はそれなりに仲が良かった。

 好きな漫画が同じくらいだったけれど、それはとても大きい。

 だから不登校になった今でも時々メールのやり取りがある。


「願いが一つだけ叶うとしたら何をお願いしたい?」

 朝、そんなメールが来ていた。

 私は未だその答えを出していない。

「▽▽は?」

「前から言ってるでしょ。この世界がなくなればいいのにって」

「確かに。私はお願いっていうお願いはないなー。ちょっと考えてみるね」

 そのまま学校に来た。

 昼休みに隠れて携帯を見た。受信一件。

「教室のベランダから屋上見える?」

「ごめん今気づいた」

 私はそう返信してベランダから屋上を見上げる。

 ▽▽が見下ろしていた。

 屋上の縁から顔を突き出しているようだ。位置的にフェンスの、あれ?

「びっくりした?」

 彼女は笑った。

 フェンスの下の部分をくぐるような位置に頭がある。頭の向こうにフェンスが見えるから、そう思った何となく不自然。

「何日かしたらお葬式あるの。学校の人は来ちゃダメな私のお葬式」

 ▽▽の首が徐々に私に近づきながらそう言った。

 壁にめり込んだ首がサメの背びれのごとくスーッと近づいてくる。にょろりと首が長い。

「ねぇ呪いってあると思う?」

 ▽▽が言う。

「あるよ」

「魔法ってあると思う?」

「ないよ」

「なんでって顔してるね」

 首が、天井からゆっくり体も飛び出して私の正面に立った。

「朝、お願い聞いたでしょ? その時に『世界がなくなりますように』ってお願いしたら、私気づいたら死んでたのよ。あらあらびっくりー!」

 私の脳は疲れて幻覚でも作り出したんだろうか。

 ▽▽はこうしてみると、特に変わりがない。むしろ明るくなった感じがする。

「これから成仏するの。それで、ちょっとお願いがあるのよ」

「お願い?」

「そう□□□の今後が気になって!! あの世で待ってるからあの戦いの決着を教えてね!!」

 □□□は私と彼女が好きな漫画のタイトルだ。今はシリアスな話の展開になっていて、もう一年ほど激闘が続いてる。

「死んでまでそれなの!!?」

「私の事は忘れて気にせず生きてね! でも□□□はリアルタイムで是非追いかけてね!!」

 自分より漫画なんだ。

 それから昼休みのチャイムでハッと気づくと▽▽はいなくなっていた。

 やはり白昼夢だったのだろうか。

「魔法はあるよ、覚えておいてね」

 確か最後にそんなことを言っていた気がする。



 数日後、▽▽の訃報が届いた。

 葬式も身内だけで済ませて、全部が終わった後に知った。


 水面下で戦争をしていたクラスの皆は「なんで?」「相談してくれたらよかったのに」「親友だったのに」と泣いていた。私は泣かなかった。

 

 私は今日も□□□の漫画を読み返してる。

 主人公のライバルが「言葉で人を救うこともできるんだ」そんな感じの事を言っていた。▽▽は最後までライバルが好きだったな、と思った。


 


 

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