後世のスライム

「フッ!」




 アリシアはグラットンスライムの群れを“エッキ”で両断していた。

 アリシアの接近に反応して物量押しで殺到するスライム達をアリシアは間合いを詰めて刹那の間に肉迫し1匹1匹を確実に切断し生命維持の中枢たる触媒石を両断していく。

 並みの剣士ならグラットンスライムの体に傷一つつける事はできないがダイラタンシー流体が凝固するかしないかのギリギリの速度の剣劇を放てば両断する事は十分に可能だ。

 尤もその見極めは至難の業であり多くの研鑽を積まないと無理だ。

 触媒を失ったスライムの液体がボトリと地面に落ち、沈んでいき、辺りはずぶ濡れになっていた。




「後10匹かな……」




 魔剣“エッキ”はウイルスを造る魔剣だが、何もいきなりウイルスを造れる訳ではない。

 確実にピンポイントに誤差なく効果を発揮させるには対象となる生物を何度か斬らないとならないのだ。

 そして、斬った回数に応じてウイルスの精度が増し、強固なウイルスに進化していくのだ。

 この精度を高めておかないと万が一、変異した場合、対象外の生物にまで感染が広がる可能性があるからだ。

 それでは本末転倒なのでこうして、敵を殺し回っていると言う訳だ。

 感覚的には後、10匹ほど殺せばウイルスは完成する予定だ。

 既に3日3晩戦い、約30万匹は殺した。

 大体、0.5秒から1秒のペースで1匹殺している計算だ。

 魔剣から伝わる感覚からしてもうじきウイルスが完成すると伝わっているのでゴールは近い。




「1」



 カウントを始めた。

 それと共に黒い塊を両断しそれは絶命する。




「2」




 更に猛進して来た敵を上段から両断した。



「3,4、5」



 一気に3匹迫って来たので横薙ぎで纏めて切断する。




「6、7,8、9」




 更に正面から迫って来た4匹を素早く、緻密に制御した速度で突きを入れて触媒石を破壊する。

 そして、次がラスト……と思われた時だった。

 突如、地面が大きく揺れた。




「な、なに!」





 それと共にこちらに猛スピードで迫るような地響きが鳴る。

 すると、森の奥から黒い物体が急速に迫っていた。

 それが何であるかすぐに察しがついた。




「じょ、女王陛下……」




 そう、それはクイーンと呼ばれるグラットンスライムの女王だった。

 だが、クイーンは主に巣から出る事はない。

 だが、この大きさは情報にあったクイーンの大きさと合致していた。

 そうなると考えられる可能性は1つしかない。




「巣分けしたか……」




 巣分け……蟻の生態で偶に起きる事だ。

 巣の中に女王が2匹いる場合、巣を分割する事がある。

 つまり、目の前の女王陛下は巣を追われ、その進路上にいたアリシアと偶々出くわしたと言う事だ。




「まぁ、やる事変わらないか」




 アリシアは気を取り直して剣を構えた。

 予想外であったが10匹目が女王になっただけの話だ。

 それに今の猛進で女王の周辺にいたグラットンスライムは女王に取り込まれ、1つの巨体を造った。

 つまり、このラスト1匹を倒せば、1万匹倒すのと同等と考えれば一石二鳥だ。

 女王はアリシアに反応して体液を触手のように伸ばした。

 他のスライムとは違い知性があるようで不用意に近づかず触手を鞭のように振り大地を薙ぎ払うように振った。

 森の木々が薙ぎ払われる中でアリシアは空中でバク転し彼女の頭上ギリギリで触手が過ぎ去っていく。

 それに間髪入れずにアリシアの着地と合わせて、触手が高速で振るわれ、頭上からも迫る。

 アリシアはそれを“縮地”と言う移動法で高速に動き、目にも止まらぬ速さで間を擦り抜けるように斜め上に跳躍し避ける。

 だが、スライムは空中に身を乗り出し身動きが出来ないと判断したのか空中で跳躍するアリシアに斜めから触手を振るう。

 だが、アリシアはそれを剣で縦に引き裂き、その間を掻き分けながら落下する。

 それと共に着地し、素早く振るわれる触手を瞬間移動するかの如くかき分けて、女王の正面まで跳躍した。




「女王陛下、その首貰い受けます」




 女王はその言葉に反応したのか「断る」と言わんばかりに空中にいるアリシアに一斉に触手を発射した。

 針のように迫るそれをアリシアは剣を高速で振って両断しながら肉迫し間合いに入ったと共に自分の神力を刀身に込めた。

 込めた神力が刀身の延長線上に刃を形成する。




「頂きます」




 それと共に放たれた横薙ぎの一閃で女王の触媒石は両断され、女王は絶命した。



 ◇◇◇




 悪夢は突然、終わりを告げた。

「黒い悪魔」と呼ばれたスライムの軍勢は突如、その姿を消した。

 辺りにはぶちまけたような水の跡が残るだけでアレだけいたスライムの軍勢はいつの間にか消えた。

 それ以来、世界から全てのスライムが淘汰された。

 まるで誰かの意志でいなくなったようにスライムは忽然と姿を消した。

 誰もその理由は分からない。

 だが、分かるのはスライムとは「恐ろしい存在」と言う周知だけであった。

 後世において「スライム」は鬼や悪魔と同じように後世にも語られる恐怖の代名詞として子供達の間で語れる事になった。

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NEXCL 鬼畜スライム討伐記 daidroid @daidroid

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