4-13
酒屋さんの所を右に曲がって、しばらくすると田んぼや畑ばっかりになり……
なかなか民家は見えてこない。
少なからず上り坂になっているからだ。
体感で20分くらい歩いただろうか――ようやく地図に描かれていた二股に分かれる道が見えてきた。
そこを左に進んで、しばらくすると、右側に大きな松の木が見えた。
「もしかして、あそこか?」
半信半疑のまま家に近づいて行くと玄関には吉永という表札が確かにあった。
でも、別の意味で問題が発生していた!
チャイムがないのだ!
少し悩んだが、藤山の婆さんを見習って、引き戸に手をかける。
思った通り鍵は、かかっておらず簡単に開いてしまった。
「こんにちわー! 市川屋の者ですー!」
「はいよー! いま、いくで、まっててくれー」
声は聞こえど姿は見えず……
けっこう待たされた。
そのあげく出てきた婆さんは、どこか痛めてるらしく動きがかなり遅かったが――
俺を見るなり、固まった。
「だ、大国寺でねぇか! 今度は、なに盗りにきただ!」
どうやら、俺は、この家に空き巣に入った事があるみたいだ。
「いえ、注文の品を届けに来ただけです」
「は?」
そりゃ、驚くわな。
泥棒が商品盗むどころか届けに来ましたって言ったところで普通なら信じられん話だし。
きっと正夫さんは、知らなかったんだろう。
でも、やっちまったことは、やっちまったこと。
「以前は、ご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ありませんでした。それと商品の方は、こちらに置いてもよろしいでしょうか?」
なるべく刺激しない方が良いと思い、玄関入ってすぐの所に商品を置こうとすると、
「ど、どど、どうしちまっただ、おめぇさん」
吉永の婆さんは、うろたえはじめた。
仕方ない、ここは社様とやらを演じてみるか。
「実は今、この身体にとりついている社って者でして。正直、大国寺さんのことは良く分からないんですよね」
「なっ! おめさ、社様だっただか!」
「はい。まだ一部ですが、そう呼ばれています」
「はー、こりゃぁ、おでれーただ。あの悪人に社様が、とりついただかー」
「はい、ですから俺がとりついている以上、悪いことはしませんので安心してください」
疑うことを知らないのか、純真な心の持ち主なのか、招き入れてくれたので、台所の近くに商品を置いた。
「代金の方は、つけてあるそうなので、またのご利用お待ちしております」
と言って、立ち去ろうとしたのだが呼び止められた。
「まっとくれ、社様!」
「なんでしょうか?」
振り返ると、なんかすっごくもうしわけなさそうな顔をしてる婆さんがいた。
「実は、便所の電気が切れてしまってのぅ」
「あー、取り換えですね」
実際のところは、分からないが、こんだけ腰が曲がってちゃ取り替えるのはかなり大変だろう。
「それが、買ってきてもらわんと、かえがないんじゃよ」
「でしたら、買ってきましょうか?」
「いいんかえ!」
「こんなので、お詫びになるとは思っていませんが、以前この身体の持ち主が迷惑をかけたみたいですし。ぜひ買いに行かせてください」
幸いなことに、電球なら今日お使いに行ってきた場所に行けばいいだけだし。
店は、正夫さんが居るから問題はない。
トイレに入って電球を外し、同じものを下さいと言えば問題なかろう。
ゆいいつ気になった、お金もあっさりと手渡してくれた。
俺は本日二回目となる電気屋さんに向かい、お使いを終え――電球の交換も完了。
もちろん、お釣りだってネコババしたりせずに、きっちりわたしてある。
「では、また何かあったら電話してください。ご迷惑おかけした分には足りないと思いますが、俺に出来る事だったらやりますんで」
「いやー、ありがたやありがたや」
さすが社様ってところだろう。拝まれてしまった。
店に戻ると、俺がお使いしてたことは、電話で話してくれてたみたいで、よくやったと褒められてしまった。
なんでも吉永さんのところは、旦那さんを亡くしていて一人暮らしの上に腰を痛めていて上手く動けないそうで。
正夫さんも、なにかと気を使ってあげているそうなのだ。
結果論でしかないが、ほんのちょっとだけマイナスが減ったような気がした。
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