NEXCL 5000kW問題

daidroid

5000kWではコロニーの外壁は壊せない

 わたしアリシア アイは色んな世界を旅をしている。

 ある世界に行った時の話だ。

 わたしはある機動兵器が宇宙コロニーの隔壁を破壊している現場を見た。

 このままではコロニーの住人が犠牲になると判断してすぐに殲滅した。

 だが、その後コックピットを貫きもぬけの殻となった機体を調べて見ると可笑しな事が分かってしまった。




「機体出力が……低すぎる」




 そう機体出力が低すぎるのだ。

 このモノアイ型のどこかで見た緑色で配管らしきモノが外部に露出した機体……コロニーの隔壁を破るには明らかに出力が足りていないのだ。


 この世界のスペースコロニーの外壁はチタン合金で出来ている。

 これをコロニー内の空気の圧力等を計算した上で必要な厚さは約23cmから25cmだ。

 それをこの機体は正四角形にレーザーブレイドで切断しようとしたのだ。

 この時、レーザーブレイドの出力は約2600万kW必要となる。

 

 だが、この機体の動力ではどう見積もっても5000kW前後でありコロニーの外壁を破壊したら機体の電源が全て落ちてしまう確率100%だった。


 どう考えても辻褄が合わないこの現象をわたしは「5000kW問題」と勝手に命名した。





 ◇◇◇




 さて、どう考えても世界の物理法則に反している問題はわたしにとってはかなり重要な案件だったので調べる事にした。

 まず、この世界の人間は科学技術がかなり発達している。

 コロニーの外壁の厚さもちゃんと計算されているので間違いない。

 なのに、誰も5000kWの機体がコロニーの外壁を破壊できている事に誰も不信にすら思っていない。

 レーザーブレイドが作れる癖にその辺の計算が出来ていない辺り、馬鹿なのか天才なのか分からなくなりそうだ。


 改めの今回の事象条件を整理すると……。




 この機体には特殊なシステム等は搭載されていない量産機である事。


 外部的なエネルギーは受けていない、外部的な要因も関わっていない。


 全て内部機関の核融合炉が動力でありそれ以外の動力はない。


 また、パイロットが異常な超能力者とかではなく主人公補正的な類も無い。




 この条件下でわたしのこの「5000kW問題」を解決しないとならない。


 ここで考えたのはこの物理事象に対して誰も疑問に思っていないと言う点だ。

 まるで始めからそのようなモノであったと物理学者すら認識している。


 何故、そう思うのか?


 計算をすれば、この疑問に気づくはずなのだ。




 わたしのこの世界の光学兵器の基礎理論を見る事にした。

 結論を言えば、この世界の兵器は特殊な粒子を亜光速で発射している事が分かった。

 

 だが、光学兵器には手を加えた痕跡はなくわたしが見た限りでは5000kWの機動兵器に合わせたライフル以上の理論ではなかった。


 どうやら、この世界では光学兵器では5000kWでもチタン合金を吹き飛ばしコロニーを簡単に破壊できるらしい。


 わたしがいた世界では5000kW程度のレーザーでは外壁を破る事はできない。

 現実的な戦闘でコロニーを破壊するなら最低でも2.6億kWくらいの動力炉搭載兵器が必要だ。


 ちなみにこの出力なら一国で1秒に消費する電力の2.5倍に相当する。

 本来なら5000kW程度ならコロニーの外壁が欠損する程の出力が出せるはずがないのだ。

 この程度でコロニーが堕ちているなら誰も宇宙に住んだりしない。


 だが、実際問題「5000kW問題」は起きており何か根本から見直さないとならない気がする。




 ◇◇◇




 そして、そんなある日の事だった。

 わたしはこの世界のニュースを見ていると火星に関するニュースが記載されていた。

 そこには「火星テラフォーミング20周年記念」と書かれていた。

 わたしは激しく疑問に思った。


 結論を言えば、この世界に限っては無理だからだ。




 まず、テラフォーミングの概要を詳しく調べて見ると過去に火星の南極と北極で核爆弾を爆発させ、水分と酸素を大気に充満させ、温暖化させる。

 その後、火星の近くを漂流していた氷を含んだ隕石すら利用して水分と酸素を大気に満たしたと記載されていた。


 これは可笑しい。

 確かにパッと見不信はない。

 火星にある物資だけでは足りないから近くに漂流していた氷を使ったと言うのは極めて合理的ではある。

 核を使って大気を温暖化させた。

 酸素を充満させたのも悪くはない。

 ただ、何故それで維持ができるのか疑問だった。


 何が問題かと言えば、このテラフォーミングは重力的な対策を何もしていないのだ。

 火星に大気があるのは分子として比較的に重たい二酸化炭素だからであり分子として軽い酸素や水素を火星の大気圏に充満させても火星の低重力では大気として保持できず、酸素が宇宙に放出されて火星民族全滅のシナリオしかありえないのだ。

 なのに、現実では20年も火星に文明を発展させている。

 これで火星に酸素を満たすなら火星の地下に重力制御装置でも設置しないと不可能だ。

 それを使って地球と同じ1G環境を造らないととてもではないが人間が住めない。

 だが、調べた限り火星にはそのような施設はなくこの世界には重力制御技術等ない。


 ただ、わたしの中で様々な謎と不可解な現象と厳しくなる条件の中で自然と答えが1つに収束されつつあった。

 そんな時にあるニュースが流れた。


 地球の軍隊が反抗的なコロニーをテロリストと認定しコロニー浄化作戦と称してコロニー群に宣戦布告した。

 このままでは多くの流血は避けられない。




 だから、わたしは世界を正常な形に戻した。




 ◇◇◇




 1ヶ月後




 コロニー軍も地球軍も既存兵器の見直しに明け暮れていた。

 それと言うのも地球軍はコロニーに攻撃を仕掛けたが今まで貫通したレーザー兵器がまるで貫通しなくなり更には各陣営のレーザー兵器が各陣営の機動兵器の装甲すら貫けないと言う事態に発展し嫌でも戦争が成立しない状況になり撤退を余儀なくされたのだ。




 結果で言えば、わたしの結論は正しかった。

 どうやら、この世界は物理法則が狂っていたようだ。

 この世界では「粒子が一定以上に加速するとヒッグス場の強度が上がる」と言う現象が起きていた。


 これで全ての現象に説明がつくのだ。

 今までレーザー兵器がコロニーの外壁を切断できたのはレーザーの含まれる亜光速まで加速した粒子が一定まで加速し加速の最大値を迎えた瞬間、ほんの一瞬だが、ヒッグス場が増大し粒子の質量が増大、それにより亜光速に近い速度で質量体が衝突していた事で運動エネルギーが上がりチタン合金を溶接していたのだ。


 これは火星のテラフォーミングにも関係しており火星の大気を形成した酸素が宇宙空間に飛び出る際に一定の加速を得た事でヒッグス場が高まり酸素の質量が上がり火星の重力に引き戻されてそれを繰り返していたのだ。


 それが分かったのでわたしはヒッグス場を正常に戻し、戦争を回避、火星にはひっそりと重力制御装置を置いたので誰にも被害は出していない。




 この現象が起きた原因としてどうも40年前に巨大なコロニーが落下する際にある機体が放った物理事象干渉系の光のせいで物理法則が変成していたと言う事が判明した。




 個人的に言えば、迷惑な話だ。

 この事件の背景を調べると地球の圧政でコロニーが凶行に奔ったのが原因らしい。

 組織が行った怠慢と堕落でそうなったならちゃんとその報いを受けるべきだった。

 それが起きなかったからわたしが来るまでコロニーが機動兵器のレーザー兵器如きで沈没すると言う理不尽が起きたのだ。

 それに粒子の加速度ヒッグス場が変わってしまえば、地球の大気が大きく乱れ、地球が全滅する事もあり得たのだから大人しくコロニー落とされた方が良かったとすら思える。

 実際、この40年謎の異常気象もあり地球人類が激減しそこから発せられる不満のはけ口をコロニーに向けていたのだから本当に悪辣だ。

 わたしとしてはもっと早くに来てコロニーの被害を抑えたかったがもう起きた事は仕方ないと割り切り、わたしはまた別の世界に行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

NEXCL 5000kW問題 daidroid @daidroid

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ