~Side Story~

【帝国復興物語】「私はソイル。こう見えても大工なのよ!」

 向かい合わせになった席に座り、外の景色を眺めながら、機関車の振動にゆらゆらと揺られていた。


 慣れない環境にワクワクと動揺を隠せないながらも、その状況をブリトニーと共感しながら笑い合う。


 先ほど買った駅弁。

 適当に話を終えたあたりでそれを開き、中を覗くと————白米の上にぎっちりと詰め込まれた肉の香ばしい匂いが、ふたを開けた途端に立ち上がる煙とともに鼻についた。


 備え付けの割りばしを割って、一口だけ口に運ぶ。


 ————これは……。



 想像の15倍は美味かった。


 固くて食えたもんじゃないだろうと思っていたイノシシの肉。多少癖はあるものの、歯ごたえがしっかりとしており、そして特有のうまみが口の中に溢れた。


 それを傍から見ていたブリトニーは、若干よだれを垂らしていた。

 俺はそれを「食うか?」とブリトニーに渡すと、ブリトニーは可笑しなくらいに喜んでそれを頬張った。



 そのような感じで、ゆったりとした時間を過ごしていた時のこと——……


 ドッドッドッドッ————…………ドサッ——!!


「————ッ! ……いったぁ」


 客車内通路をものすごいスピードで走ってきた女性が、俺たちのちょうど隣で盛大に顔面からダイブした。

 額に手を当ててゆっくりと立ち上がる女性。俺はそんな彼女に「おい、大丈夫?」と手を差し伸べていた。「ありがとう」とその手を取り、立ち上がった彼女は、ブリトニーの持っていた例の弁当を見るなり目の色を変えた。


「そ、それは……まさかファング弁当!?」


 気が付くと彼女は、ブリトニーの目の前で目をキラキラさせながら何かを訴えかけていた。

 な、なんなんだこの女は————



 彼女がブリトニーに相当な圧力で見つめたため、ブリトニーも怯んだのか、「食べ……ます?」と、若干震え声で聞いていた。


「うそ! 貰っちゃっていいの!? じゃあ遠慮なく!」


 彼女はブリトニーからそれをかっさらい、さっきまで俺が座っていたところに腰を下ろして盛大に食い始めた。


 俺の席はいつの間にか占領されたが、片側二人座りの席だったので、俺はブリトニーの隣に腰を掛けた。


 黙々と頬張る彼女。俺は彼女に何者なのかを尋ねようと「あの……」と声をかけた。しかし、そんな俺たちに対して、彼女は指を二本立ててこちらに向けてきた。


「あほひふんはっへ」

(あと二分待って)


 俺たちは、嬉しそうに頬張る彼女をただ見つめるしかなかった。



★ ☆ ☆



 深い碧色の短めの髪。瞳は黒く、身長は160センチメートル前後くらいか……服装は白と茶色を基調とした作業着のようなもので、背中には巨大なハンマー。

 見るからに、冒険者っぽくはないな。


 こいつは一体何者なんだ?


 丁度食い終わったくらいで、彼女はとても満足そうな表情を見せながらリラックスしていた。俺はそんな彼女にようやく、


「ところで、キミはだれ?」


 話しかけるタイミングを得た。


 彼女は「ハッ」とした表情を見せ、


「ごめんなさい……! ずっと食べたかった猪弁当が目の前にあったからつい……あ、ありがとうねお嬢ちゃん!」


 いや、アルグリッドの駅で売っているどこにでもあるような弁当じゃないか。


「さっきアルグリッドに止まった時に買わなかったの?」


「あ、寝過ごしちゃって」


 ふーん、変な人。

 普通ならこの状況、とっとと別の場所へはけてもおかしくないってのに、なんだかんだで居座っているし——

 まあいいや、俺はそろそろ相手について聞き返すことにした。


「冒険者……ではなさそうだよね?」


「あ、そうだ自己紹介……私はソイル。冒険者じゃないけど、こう見えても大工なのよ!」


 得意げに語る彼女。名前はソイル。

 そうか、大工——通りで背中のハンマーってことか。


 「あなたたちは?」と聞き返してきたので、


「俺はクロム————そしてこっちがパーティメンバーのブリトニー」


「ブリトニーです」


 ペコリと頭を下げるブリトニー。その仕草を愛おしく思ったのか、ソイルが目を輝かせて「可愛い」と言いながらブリトニーの頭を撫で始めた。

 それにはブリトニーも驚いたのか、一瞬びくっとしたが案外嬉しそうだ。


 と、そんな最中に、機関車は次の駅へと到着し、ソイルは唐突に何も言わず、その席を立った。


 降りる駅だったのか、何かしら言葉を残して行っても良かっただろうに、と心で思ったが、彼女は数分経って戻ってきた。

 その手には何やら大袈裟に大きな袋が————


「やっぱここに来たらビリビリ弁当だよね! あ、皆の分も買ってきたから————」


 わざわざ駅弁を買いに降りたみたいだ。だが、その後ここに戻らず別席に行けばよいものを——まあ、彼女が弁当を差し出してきたので、俺たちはそれをご馳走になった。

 そう、ここまではまだ良かったのだ。


 まさかこれが、この先の全駅で続くとは到底思わなかったから————



★ ★ ☆



 これで四回連続だ。

 流石にこちらの胃が持たない——だが、断っても買ってくるし、何なら厚意でいただいたもの、そして弁当に罪はないので、しぶしぶ食うことにした。


 はあ、吐きそうだ。

 昼飯を食ったから——ではないな、なんも食ってない状態でもこれはキツイ。ブリトニーもしんどそう——え? なんか余裕そうだな。

 それにソイルもまだまだ食えそうな雰囲気だ。女の子ってすごいんだな。


 そんなこんなで「トホホ」としていたら、ソイルが食っていた飯を置いて急にしゃべり始める。


「アルガリア大陸にはね、かつてアルガリア帝国と言う大きな国家があったの。今のアルグリッドとは比べ物にならないくらいの人口と、中には星の民の姿もあったとか——でも、その国は内戦によって「アルグリッド」と「星の民の里」に分裂した————」


 突然と思ったが、これは「自分語り」か? ——いや、過去に聞いたことのある話のように思える。たしかあれは、「アルガリア創世記」————

 ブリトニーは、おとぎ話を聞いているかの如く、その話に聞き入っていた。


「旧アルガリア帝国跡地には、かつて星の民たちが英知を集結させて築いた文明が存在したと言われているわ。だから私は、それを再建したい。——と言うより、お告げを授かったのよ」


 そして、ちょうどその時機関車が次の駅に到着して、それと同時に彼女が立ち上がると、


「それじゃ、またどこかで出会えたら——あ、そうだ。もしお家でも欲しくなったら相談してよ。家の一軒や二件くらい簡単に建ててあげるから!」


 簡単に建てるとは、少し信頼しがたい家になりそうだが——まあいいさ。


 俺は二つ返事で了承した。


 そして、俺たちの前から彼女は旅立つのであった——



★ ★ ★



 かつて栄えたと言われるこの土地を今、私は歩いている。

 少し前までダンジョン指定されていたらしいが、現在では強力な魔物の気配も消え、辺りにはかつての遺物らしき痕跡が数多く残されていた。


 手入れが一切されていなく、自然が栄えたこの土地。冒険者ギルドの人たちもきっとこの土地を研究しようと考えただろうが、この膨大な遺物と謎によって、最終的には諦めたのだと思う。

 ここは今、誰の所有物でもないのだ。



 取り敢えずは現地調査と行こうか。

 地形から、おそらくこの辺りに王城があったのだろうとは思うが————


 私は、土地の中心に当たる位置にある高台に足を踏み入れていた。そこは石の階段のような造りになっているみたいだが、時の流れによる影響だろうか、大半が朽ち果てて原形を保っていなかった。

 それを一段一段慎重に登りながら————


 ガキッ————————バコンッ————!!!!


「————ッ!」


 突然、足元が崩壊し、私はそのまま真後ろに落っこちて————



「…………っと! ——大丈夫っすか?」



 そして私は、誰かの腕の中にいた。

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★★☆☆☆のユウ者 ToM@ @dorakue-0723

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