第45話45

「そうだよ……ダチだよ…」


 恒輝は、佐々木の問いに、目線を斜め上に向けてツンとした態度で答えた。

 明人はそれでもやはり、恒輝が明人を友達と認めた事はかなりの進歩だと思ったが、佐々木は又、恒輝を上から見くだすようにクスっと笑った。


 「佐々木……てめー……さっきから…」


 恒輝が地を這うような低い声を出したかと思うと、佐々木のスーツの襟を掴みにかかろうとした。


 「西島君!」


 明人は咄嗟に、恒輝と佐々木の間に入り恒輝を止めた。


 「彩峰……お前、佐々木を庇う気か?」


 恒輝は不満一杯の顔で、向い合う明人を見上げた。

 明人は、咄嗟に取ってしまった行動に内心しまったと後悔した。

 明人は佐々木の前に立ったが、勿論これは佐々木を庇う為では無い。恒輝が佐々木に何かしたら、恒輝の立場が更に悪くなるからだ。逆に、恒輝を庇う為に佐々木の前に立った。



 「違う!それは違う!」


 明人は、恒輝と会ったばかりの余裕と自信たっぷりの態度が嘘のように焦りながら弁解した。

 だが恒輝は、明人が佐々木を庇ったように見えたし、佐々木が明人の背中の後ろで勝ち誇ったように恒輝に向かって笑っている事へのイラ立ちから、よく考えず今の感情のままキツく言葉を発してしまった。


 「まぁ……俺は、お前が佐々木を庇おうが庇うまいがどっちでもいいけどよ…」


 途端に、明人の表情が悲し気に酷く曇った。

 恒輝は、それを見て心がズキっとしたが、佐々木が目の前にもいて後に引けなくなっていたし「明人の修学旅行」の件と言うのが酷く気になっていたし、今すぐ話題を変えたい意図もあり明人に聞いた。


 「彩峰……修学旅行の件って何だよ?お前、修学旅行は欠席だろ?」


 すると明人は、恒輝の目を真っ直ぐ見て即答した。


 「俺……修学旅行、行きたいんだ。だから、貰った修学旅行の案内用紙に参加にマルして提出した」


 「はぁ?!何言ってんだ?!んな事無理に決まってんだろ?お前はオメガだぞ!泊まりの旅行なんて…」


 今度は、恒輝が表情を曇らせて言った。

 だが、そこに佐々木が割って入ってきた。


 「西島、彩峰のお友達のお前はもういいから帰れ!これから先は俺がちゃんと説得する。何せ彩峰の母親から直々に、俺から彩峰を説得して欲しいと依頼があったからな」


 その佐々木の言葉に、恒輝の心は又一瞬ズキときた。

 そして何より大慌てしたのは明人だった。明人は先日、母親に修学旅行の事は口出ししないで欲しいと頼みこみ了解を得ていたからだった。

 しかし、明人の母親は、一度了解はしたがやはり心配から、昔から良く知る佐々木に説得を依頼してしまっていた。


 「彩峰の母さんがそう言うなら仕方ねぇよな……俺、先に帰るわ…」


 恒輝は、右口角だけ上げて小さく笑うと、明人と佐々木に背を向けた。


 「ちょっ!待って!待って!西島君!誤解、誤解なんだ!」


 明人は、恒輝を追いかけようとしたが、佐々木に右手を掴まれた。


 「離せ!大河!」


 佐々木を振り返った明人は、佐々木が今まで見た事ないような冷ややかな表情をしていて、ここが学校内である事をすっかり忘れて教師の佐々木を冷たく呼び捨てた。


 佐々木は、正直戸惑った。

 いや……これが普通のオメガ相手なら、絶対にそんな感情は浮かばないし、絶対にどんな手を使かってもオメガを服従させる自信が佐々木にはあった。

 しかし、やはり佐々木にとって、明人だけ、明人だけは特別なのだ。

 しかしそこに誰かの気配がして、佐々木は明人の手を離した。

 その主は教頭で、後ろから声をかけてきた。


 「佐々木先生、大丈夫ですか?何か又西島がやらかしましたか?さっき他の生徒達が、西島が佐々木先生にわざと因縁つけて絡んで困らせてると言って来たもので…」


 明人は、それを聞き絶句した。

 やはり思った通り、真実はどうであれ、いつも恒輝側が絶対悪になるからだ。


 「教頭先生!西島君は何も悪くありません!」


 明人は、声を荒げた。

 すると教頭は、眉間に皺を寄せながら言った。


 「彩峰君……私は、君のお父上も君も君が小さな頃から知っていたから融通してこの学園に入ってもらった。でも、西島と一緒にいるのは感心しないな。君が、西島の影響を受けるのは良く無い。それに、修学旅行も行きたいと言ってるそうだね。小さな頃から物分りのとても良い君がどうしたんだね?何か理由があるのかね?でもそれは余りに危険だ。君にもし何かあれば、私は君の父上に申し訳が立たないよ」


 そこにすかさず佐々木が入る。


 「教頭先生。それは私にお任せ下さい。今から彩峰と修学旅行の件は話し合いますから」


 「おー、そうかそうか!頼みましたよ、佐々木先生。いやー。やはり生徒達が佐々木先生を慕うのも分かりますなー」


 教頭は、一瞬にして笑顔になった。

 そして佐々木も、教頭への上手い愛想笑いを忘れない。

 明人は、そんな佐々木を冷めた目で見詰めた。

 そして最後、教頭はさっきの笑顔を真顔に変えて明人に念を押した。

 

 「申し訳ないが、これ以上彩峰君、君に危険があるようなら、彩峰君には元いたオメガだけが通う学園の方に戻ってもらうからね…」


 「えっ?!…」


 明人は、言葉を失った。


 その頃、恒輝はムカムカした気持ちを抱えながら、他の生徒に混ざり校舎を出て校門も出ようとしていた。

 しかし…

 

 (あーっ!もう彩峰!しゃあねぇなぁ!)

 

 恒輝は、内心一人ごちると突然立ち止まり大きく深呼吸して気持ちを落ち着けると、校舎に戻る為に踵を返した。



 


 


 


 


 


 


 

 

 


 


 



 







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