第44話44

 「彩峰!修学旅行の件で話がある。ちょっと面談室に来い!」


 恒輝は、佐々木と睨み合いながら、佐々木が明人に言ったこの言葉が酷く引っ掛かった。

 普通、明人のようなオメガは、

例え抑制剤を飲んでいても、念の為に大勢で寝泊まりする修学旅行は参加しないのが普通だ。そして例え参加しても、男子とも相部屋になれないし、別途で高い一人部屋料金を追加される。

 だが、引っ掛かりながらも恒輝は、明人が佐々木に返すターンなのに佐々木を睨みながら答えた。


 「彩峰は、今少し調子が悪いんで、今度にしてください。先生…」


 恒輝の声は冷静だったが、視線は自分の師に向けるようなモノでは無かった。


 「西島。俺はお前に言ってるんじゃない。彩峰に……言ってる」


 佐々木も声は冷静だったが、恒輝に向けた視線は教え子に向けるモノでは無かった。しかし佐々木は、急に口調や態度を軟化させ明人に向けて言った。


 「彩峰。具合が悪いのか?無理をするから。俺の車で家まで送ろうか?」


 明人はそれを聞き答えようとすると、やはり恒輝が割って入り先に言った。


 「先生。大丈夫です。彩峰は俺がちゃんと車まで送りますし、なんなら彩峰の家まで一緒に付いて行って送りますから」


 恒輝と佐々木の間はバチバチと火花が散っていたが、ここはあくまで学校の廊下。周りがこの時間使ってない実験室と外が見える窓と言っても、応酬し合う2人の横を、何人も生徒が通りただならぬ雰囲気に足早やに去る。


 (このままじゃ、西島君が又悪者にされるかも知れない。この場をなんとかしないと)


 明人は回りの状況を見て、まだ自分が御崎の不安から恒輝に抗議したい気持ちを一旦引き上げた。

 明人はやはり、恒輝が何より大事だった。そして明人は、佐々木の方に振り返り言った。


「先生、俺なら大丈夫です。今から面談室に行きます」


 「はぁ?何言ってる!お前、調子ワリぃだろ?今日は帰れ」


 恒輝が、急に明人との間を一歩詰めて真剣に見詰めて言ってきた。明人は不意打ちを喰らい恒輝にドキっとした。そして思う「西島君のせいで調子悪いのに……」と。「俺の事受け入れてくれないのに、優しいのはズルい」と。でも、それでも明人は恒輝が好きで、この場を早くなんとかしようとして返答した。


 「大丈夫だよ」


 けれど、恒輝は明人に食い下がる。


 「なら、俺も、俺も一緒に面談室に行く!」


 明人と佐々木が意外そうな顔をした。


 「どうして?…」


 明人は、やけにムキになる恒輝に聞かずにいられなかった。


 「どうして?…って」


 恒輝は戸惑う。そしてほんの一瞬間が開くとフイっと横を向いてバツが悪そうにボソボソと言った。


 「どうしてって……ダチだから…」


 (やっぱり……友達か…)


 明人はそれでも、恒輝に全く相手にされてなかった最初よりはかなりいいと自分を納得させた。

 だがそこに佐々木がクスクスと馬鹿にするように笑い出した。

 珍しく明人はムッとした顔になり、恒輝も佐々木を睨み言った。


 「何がおかしい?」

 

 しかし、佐々木は悪びれる様子は一切なく恒輝を見て返す。


 「西島……残念だが、ただの友達なら同伴は許可出来ない。ただの友達なんだろ?彩峰とお前は?…」


 佐々木は、ニヤっと笑った。

恒輝と明人の間は、隙間だらけだから。

 佐々木が逆転できる、明人を佐々木の番に出来るチャンスがまだまだあると感じたから。

 そして…

 実は、それは佐々木の恒輝への警戒感が薄れたからもあった。

 佐々木は、さっきから恒輝と明人を挟んで応酬し始めた時から「フェロモン不完全症」でも恒輝がやはりアルファだと感じていた。

 大抵ベータやオメガは、佐々木が何か言ったら、佐々木のアルファの圧に逆らう者はほぼいないのだ。

 そして…

 同じアルファでさえ優秀な佐々木を前にしたら大抵引き下がるのに、恒輝は、佐々木を前にしてもグイグイ言い返してくる。アルファにとって何よりの敵は、どんなに自分より格下に見えようが恒輝のように歯向かってくるアルファだ。そしてその結果、アルファ同士で「ざまぁ」的な逆転があれば、逆転されたアルファには耐えられない屈辱だ。

 

 (でも、俺の杞憂だったな。ダチ。友達だと。笑わせる。やはり西島はただのクソガキだよ。俺の相手じゃ無い)


 佐々木は、そう思いながら再度余裕の笑みを浮かべ恒輝を見ながら「ただの友達なんだろ?彩峰とお前は?…」の問いへの答えを待った。




 

 




 




 






 


 

 

 

 


 


 

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