第30話30

次の日の放課後。


明人は、数名のクラスメイトと教室の掃除当番に当たっていた。


恒輝には先に帰るよう言ったが、恒輝は…


「暇だから…」と言って掃除を手伝った。


そのお陰か、掃除も早く終わり。


靴に履き替え校舎を出ていつもの校門まで、恒輝と明人は二人で歩く。


「おい、掃除なのに、うれしそうだったよな、彩峰」


恒輝が、明人を横目で見ながら呟いた。


「あっ!そうだった?前の学校にいた時より自由な感じだからかな?」


そう言いながら、明人は微笑んだ。


「はぁ?この学校が自由?」


恒輝は、怪訝そうにした。


「前の学校は、常に監視されてるって言うか…全て管理されてる感じだったから…それに…今は西島君がいるから…」


「はあ?!」


恒輝には、明人は幸せな生活しかしてこなかったように見えていたが、本当は明人の事は何も知らない事が気になったが…


「今は西島君がいるから…」発言に、思わず焦りそうになったのを隠そうとした


その時…


校門の外に、見覚えのある黒塗りの高級車が見えた。


そして、その中から見覚えのある、覚えがあり過ぎて嫌になる男が出てきた。


恒輝の父だった。


「恒輝!」


父の呼びかけに、恒輝は一瞬顔を歪め体を固めたが、明人を残しズカズカと父の近くへ歩み寄った。


「あんだよ?あの話しの返事は、昨日メールしただろ?」


反抗的な声と目付きが父に向けられた。


「もう何年家に帰ってない?たまには帰って親子で話しをしよう。車に乗れ」


父は、貼り付けたような笑顔で言った。


「やだね!話しなら、花菜の家でいいだろうが?」


「皆川のマンションか、あそこは息が詰まる。狭すぎてな」


その父の言葉に、恒輝はカッとなった。


「テメェ…花菜んちをそう言う言い方すんな…家は、広いとか狭いとかじゃねぇんだよ!」


「恒輝!早く車に乗れ!お前は、私の金で生活してる事を忘れるな!」


父はまだ笑顔を崩さず、しかし、回りを通る下校生達を気にしつつ低い声で圧するように言った。


「だから…俺なら、いつでもバイトしてやるって言ってんだろうが!」


「学業もちゃんと出来ないのにバイトなどして、これ以上西島の家名に泥を塗られてはかなわん!早く車に乗れ!恒輝!」


父はニコリとしたが、目が笑っていない事は恒輝がよく知っている。


「絶対やだね!」


恒輝は、一人その場を走り去った。


「に、西島君!」


明人は呼びかけたが、恒輝は応じなかった。


「はぁ……」


父は、その場で深い溜め息を着いた。


そして、次に明人の方を見た。


明人は、父に向かいペコっと一礼した。


だがその後、自分が待たせていた車に近づき、運転手に、ちょっと待っていてくれと頼んだ。


そして、心配の余り恒輝の後を走り追った。


だが、追ったはいいが…


明人には珍しく、後先は考えて無かった


明人はオメガである為に、小さい頃から一人で行動する事はまずなかった。


そして、外出も限られてきた。


そして、移動も殆ど車で土地勘も無い。


すぐに迷ってしまうのは、必然だった。


商店街もある繁華街に迷い込み、それでもキョロキョロと恒輝を探す。


だが、その目立つ美貌は危険といつも隣り合わせだ。


「お兄さーん!何か探してるのかな?」


サラリーマン風のスーツの二人の中年が

、路地裏で明人に声をかけてきた。


まだ明るい時間から、両方酒に酔っているようだった。


「え?!」


「お兄さーん!俺達一緒に探してあげようか?」


中年二人は、見るからにニヤニヤニヤニヤとして下心が見え見えだ。


「あっ…いえ…大丈夫です。一人で探せますから…」


明人は引きながらも、いざとなれば腕っぷしには自信がありつつ丁重に断った。


しかし、中年達は引かない。


「いいじゃんかよ!ちゃんと俺達も探して上げるからさ!なぁ…お兄さーん!」


中年の片割れが、明人の右腕を掴もうとした。


そこに…


「ざけんな!」


その声と共に、何者かが中年二人の体を押し飛ばした。


そして、その何者かが、明人の手を握り引いてその場から二人で走り出す。


「西島君!」


その何者かは、恒輝だった。


男達は、フラフラしながらも追いかけて来る。


「めんどくせークソオヤジは走って巻くぞ!付いて来い!」


恒輝は、明人の手を強く握った。


明人も、それに応えギュッとして返した。







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