第26話26

恒輝は、どうしようも無い怒りを抱えながら、カバンを取りに教室に戻った。


やはり、明人は恒輝を待っていた。


明人の回りには田北達だけで無く、長野や沢山のクラスメイトがいてキャイキャイ盛り上がっていた。


明人は、恒輝を見ると真っ先に嬉しそうに微笑んだ。


それを見て、恒輝の強張っていた肩の力が一気に抜けた。


だが恒輝は、そんな自分を悟られたくなくて一瞥しただけで、離れている自分の席に行きカバンを取った。


「じゃぁ、帰るよ」


明人は、長野達に愛想よく微笑んだ。


長野達は、残念そうな声をあげた。


「どうだった?」


田北はそう言い、岡本と共に恒輝の所へ来た。


「別に何でもねぇ…いつものお小言だよ…」


恒輝は、ボソっと呟いた。


田北と岡本が裏門から帰るので、恒輝と明人は、二人で正門へ並んで向かった。


てっきり…


明人からも、すぐ面談の事を聞かれると思っていた恒輝は、黙って横を歩く明人が不思議だった。


明人の方は、面談も気掛かりだったが…


数日前からこの学校の回りをうろつき、さっき長野達からも聞いた、美貌のオメガの事で気が重かった。


明人と付き合っていたと誤解している古谷の事だ。


古谷には、ハッキリと交際は断ったはずだった。


そして勿論、明人と古谷は、キスはおろか、手すら握ってはいない。


一方…


聞かれないなら、それはそれで気になるなんて自分勝手だとは思ったが…


沈黙に耐えられなかったのは恒輝が先だった。


すでに人影も少ない校舎。


下駄箱の前に着き、履き替える前に…


「先に帰れって…言ったはずだけど…」


ボソっと、前を向いたまま言った。


「俺…この学校に来て、一番楽しい時間が、この時間なんだ…西島君と二人で歩ける時間…」


明人が恒輝を見ながら、又嬉しそうに笑う。


「はぁ?!」


恒輝は、明人を見て思わず高い声を上げた。


だって、教室から正門までの、たった5分程の時間が一番楽しいなんておかしいから。


「本当。この時間が、一番楽しいから待ってた。でも…面談の事も心配だった…で…西島君…俺と一緒に二人きりで勉強する事、考えてくれた?」


明人はそう言い、心配そうな不安そうな顔をした。


だが、恒輝は、明人が本当に心配している風に見えながら、やはり自称元彼古谷を頭に浮かべた。


それが、明人に感じた印象を揺るがす。


それに、佐々木についさっきタンカを切った事も思い出す。


「えっ…ああ…それな…」


そう言いながら、恒輝は明人から目を逸らし続けた。


「俺、花菜の知り合いに家庭教師頼むから…いいわ…」


勿論、嘘だった。


すると…


「俺と…勉強するの、イヤ?」


誘惑するように、明人が見詰めて聞いてきた。






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