第25話25

「取り引き?」


恒輝は、佐々木に向かい目を眇めて言った。


「ああ…お前にとって、決して悪い話しじゃないぞ。だから、まぁ、聞け…」


佐々木は、ニコリと笑うと続けた。


「お前、このままの成績でいけば間違い無く留年だ。それに先日、公園で高校生同士のケンカがあったらしいが、警察からお前と田北達じゃないかって問い合わせがあったぞ」


「ちゃんと証拠がある訳でもないのに、どうして俺達だと分かるんですか?」


恒輝は、身に覚えがあったが動揺せず、佐々木からも目を逸らさない。


「確かに…証拠がある訳じゃ無い、だから校長も、今回は不問にされた…だがな…成績までは不問には出来んぞ…西島…」


「…」


「昨日、お前の父親から学校に連絡があって丁度俺が対応したんだが、次の中間テストでも成績が悪かったら、お前を翔真学園に転校させるとお前に伝えてくれとおっしゃってた」


そう聞いて、又か…と恒輝の目つきがキツくなり立ちあがり、両手に握った拳で思いっきり机を叩いて叫んだ。


「あんのクソジジイ!」


だが、突然目の前で大きな音を立てられても、佐々木は微動だにしない。


恒輝の父は、恒輝と直接話す事を避けて最初は花菜の父を介して恒輝と遣り取りしていたが、花菜の父が恒輝に甘いので最近では、こうして学校をも間に入れてくる。


しかも、翔真学園と言えば訳あり男子ばかりが入る全寮制の、厳しく地獄だと評判悪い高校だ。


「お前も、翔真がどんな学校か位は知ってるだろ?だから西島、取り引きだ。明人を今すぐ振ってやってくれ。そうしてくれたら、お前がどれだけ赤点を取ろうが誤魔化してやるしこの学校を卒業できる事も約束する。それにおまけだ、お前が進路を希望してた大学も入学を確約してやる」


佐々木の実家程の力があれば、それ位は簡単なのだろう。


教師の言葉とも思えない提案に、恒輝は立ったまま眉根を寄せた。


そして、思わず佐々木を殴りそうになって、なんとか思い止まった。


「いいのかよ?先公がそんな事言って…」


佐々木は、机の上で手を組み頬杖を付き平然としている。


「明人の為でなければこんな事するか!明人は、お前には不釣り合いなオメガだし、お前も明人が好きじゃないんだろう?するのか、しないのかどっだちだ!西島…お前にとってはいい取り引きのはずだが…人生楽が出来て、好きでも無い明人にこれ以上煩わされる事もないぞ…」


確かに…


この条件を受けいれれば、恒輝は、楽に卒業出来ていくいくは東京も出ていける上に、明人ともおさらば出来る。


確かに…


恒輝が望んでいた事が叶うのだ。


恒輝は、脳裏に明人を思い浮かべた。


(最初会った時から、ニコニコしてるくせにマジ自信家の女王様で変な色気出しまくって俺にグイグイ来やがって。それに人タラシで、変な所お坊ちゃんで常識無くて…)


でも…


次に明人が恒輝に、柔道の時言った言葉も思い出した。


「カッコ良かった…凄く…カッコ良かったよ…」


あんな事を恒輝に面と向かって言った人間は、明人以外いなかった。


明人、だけだった…


恒輝は、キッと佐々木を睨み低い声で告げた。


「俺は、自分でなんとかする!テメーも、こんな真似しねぇで、アルファだって偉そうにすんなら、自分で自分に彩峰を振り向かせてみろや!」


この言葉に、一瞬佐々木はぐっと表情を歪めたが、すぐに鼻で笑って見せた。


「ほー…何とか出来るのか?明人に勉強を教わるか?」


ダンッ!!!と、音を立て、恒輝が両手で又机を叩いた。


そして、上半身を屈め佐々木に顔を近付けて、目を眇め呟いた。


「彩峰以外なら…いいんだろうが?彩峰以外なら…」


「ふぅん…それなら、精々頑張るんだな…西島…」


佐々木がニっと笑ったので、恒輝は舌打ちして、扉を一度蹴ると乱暴に開けたまま教室を出て行った。























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