第21話21

6時間目もホームルームも終わり、恒輝はやっと少しホッとした。


そして、今日はいつもより本当に疲れたからさっさと家に帰るつもりだった。

 

しかし、田北が、ファミレスに寄りたいと言った瞬間、事態は急変した。


「なぁ…あや様!あや様もいかねぇ?転校祝いにさ。俺があや様の分全部奢るからさ!」


田北が、明人が横に立つ机に近づいて言った。


それを聞き、離れた自分の席に腰掛けていた恒輝の方が速攻激しく反応した。


田北がこんなまるで下心があるかのような声色を出すのは、今まで花菜の時しか聞いた事なかった。


「誰があや様だ?」


「彩峰だから、あや様。いくらなんでも

、彩峰って呼び捨てにはできねぇし、あやちゃんってのも恐れ多いわ…こんな美人に…」


田北が、明人の顔を間近でジーと見ながら言った。


「テメーは…花菜じゃねぇのかよ?」


恒輝は、田北を睨む。


だが、田北はそんな恒輝をニヤニヤして眺める。


「心配すんなって!俺は、花菜ちゃん一筋だからよ!でさぁ…あや様一緒に行かねぇ?」


「あっ…俺…」


明人が恒輝をチラリと見てそう言いかけると、又恒輝が邪魔をして言った。


「俺は行かねー。今日は帰って寝る!」


田北は、クスっと笑った。


「恒輝、オメェは行かないんだったら別にいいんだよ!俺は、あや様を誘ってんの…」


「なんだと…」


恒輝は、ムスっとした。


「今日はちょっと俺も用があって無理だけど、西島君が都合いい日に西島君と一緒に行くよ」


それを見ていた明人が、場を収めるように言った。


「はぁ!?彩峰、お前、登下校は車だろ?」


恒輝は、オメガが身の安全の為、登下校や出社に車を使うのを国が推進していて補助金が出ている事位は知っていた。


「あ…うん…行きはみんなと店まで行って、帰りに車で迎えに来てもらうよ」 


明人は、ニコっとした。


「いいなぁー!ねぇ、彩峰君の歓迎会なら、私達も行きたいんだけど!」


突然、そう声を掛けてきた長野とクラスの女子達男子達数人が急に横から出て来て、明人の回りを囲む。


「ねぇ~!彩峰君。いいかな?」


長野は、午前のように明人に腕を絡ませたりはしなかったが、やはり甘えた声で、制服のシャツの胸元がかなり開いていて、豊満な胸の谷間が見えそうだ。

 

(彩峰…お前…回りに女や男侍らせて…どっかのアルファのハーレムの王かマフィアのドンかよ!)


一瞬恒輝には、明人がそのどちらにもオーバーラップして見えた。


長野の谷間が見えそうなのにドギマギ慌てている恒輝に対して、明人は相変わらず普通そのもので気にしている感じがない。


恒輝には明人のその落ち着きが、自分と違い酷く恋愛慣れしている感じにも見えた。


(彩峰程のオメガなら、すでに何人か深い関係を結んだアルファ達がいるだろう…なんなら、アルファだけじゃ無くて…ベータや、同じオメガとだって…)


(どうだっていいだろう!彩峰が、前に誰と…どうだったかなんて…ただのダチなんだから…)


そう思って明人と長野を見ていると…


恒輝と長野の目が合って、あの長野の方が、えらく可愛く控え目にフイっと逸した。


するとそれを見た明人の方から、まるで恒輝が長野をこれ以上見ないよう、明人自身で隠すようにしながら恒輝のすぐ目の前に来た。


「いいかな?西島君。みんなも一緒で…」


明人は、恒輝にお伺いを立てるように聞いてきた。


「俺は…別に構わねぇけど…誘ったの田北だろ。田北に聞けよ」


恒輝は、ツンツンと誰もいない方を向いた。


「いいかな?」


明人が田北に聞くと、田北はニコリとした。


「いいんじゃね。あや様を祝いたい奴ならみんな来て」


そう言うと、クラス中が騒がしく賑やかになった。


それを見て、明人が穏やかに笑った。


こんなに、クラス全体が明るくなるとか今まで無かったから、


恒輝は明人の力に少し面食らいながら、明人の顔を見た。


「ん?どうかした?」


明人は、今度は更に優しい気に恒輝に微笑む。


「いや…以外と積極的だと思って…」


恒輝は、さっと明人から顔を逸しそう言ったが、続けてオメガなのに…と言いかけて、慌てて口をつぐんだ。


オメガは、やはり身の安全を常に考えて

、余りそう言う多人数の付き合いや場所は控える者が多い。


実際、恒輝も明人の安全を考えれば、あまり乗り気では無い。


でも、オメガだから…そう言われれ何もかも決めつけられ否定される事のしんどさは、恒輝はよく分かっていた…


すると、明人は、クスッと笑った。


「西島君が、どんな所で何を食べて、何を飲むのか…もっと知りたいんだよ」


「はぁ?何って、俺、普通のモンしか食わねぇし、ファミレスとか、お前も行くだろ?」


恒輝が明人を見てそう問うと、明人は、コテンと頭を右に倒して悪意無く言った


「ファミレスは…行った事ないかな…」


なんとなく、明人の雰囲気から察してはいたが…


思わず、「お坊ちゃんかよ」…


と言いかけて、恒輝は、又言葉を飲み込んだ。


自分もかつて実家に居た時はファミレスなどは行かず、高級ホテルのレストランか焼き肉か、銀座の一流寿司店ばかりに連れて行かれてた、浮き世離れしたお坊ちゃんだったから…


と、明人が、恒輝の目を強く見詰めて言った。


「俺…西島君の事もっと知りたいんだ…西島君の何もかも全部を知りたい…」


「……」


恒輝は、又、明人を見たまま言葉を失った。


そして、明人の回りにいた女子達男子達は思わず…


なんだかめちゃくちゃキワドいセリフを聞かされてしまった気がして…


ただ、恒輝と明人の仲を見せつけられた気がして…


思わず顔を赤くして、男子生徒の一人が持っていたカバンを床に落とした。


「はぁ?!」


恒輝は少し遅れ明人に呆れたようにそう言うと、ふと、テレを隠すように窓の方へ行き2階から外を見た。


すると、ゾロゾロと校内から出て帰宅して行くベータの生徒達が、校門に佇む一人の、恒輝の全く知らない男をジロジロと見て行くのが見えた。


恒輝は、視力がとても良かった。


(なんでこんなベータばかりの所に、彩峰以外のオメガが?)


だから、その男の強烈な美しさと首のガードがよく視えて、すぐに又自分の天敵のオメガだと分かり嫌悪感を心と顔に浮かべた。


その内…


「あの…なんかうちの学校に用?」


ニヤニヤした男子生徒の3人組の1人が、校門でその私服の美貌のオメガに尋ねた。


すると…


オメガの美少年は、意味あり気に頬を赤らめ尋ね返した。


「あっ…えっと…ここに、彩峰明人ってオメガが転校してこなかった?」














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