第10話10
「彩峰…」
恒輝は、起き上がる事無く体が一瞬固まった。
明人は、恒輝が心配で眉間に皺を寄せ近づく。
そして…
てっきり恒輝は鬼の様に機嫌が悪いと思っていた。
だが…
明人のかなりの予想外に、恒輝はクスっと少し笑みを浮かべて言った。
「なんか、お前が田北と掴み合いしたみてぇな顔だな…俺と田北は大丈夫なんだよ。あんなケンカしょっちゅうで、教室帰ったら、田北もどうせケロってんだよ
…」
恒輝の微笑みに、そのすぐ横に立った明人はぼ~っとする。
「どうした?」
怪訝そうに目を細め、恒輝が上半身だけ起こし明人の顔を覗き込んだ。
その恒輝の涼し気な目元を見て、明人は更におかしくなった。
「おい!大丈夫か?彩峰!」
更に心配した恒輝の顔が、明人のそれに近づく。
「あっ、いや…その…何でも無い…」
明人は、我を取り戻し、急に顔を赤らめ下を向いた。
「あっ…ワリィ…」
ようやく近づき過ぎた事を意識した恒輝が、少し距離を開けた。
しかし、通常に戻った明人は、並べられた机の端に、恒輝と肩が触れ合うスレスレ近くに座った。
そして、恒輝の横顔に向かい呟いた。
「岡本君が、2人にはいつものケンカだから、放っといても大丈夫だって言ってたよ。それに、田北君が、君に悪かったって言っといてくれって…」
「だろ?田北、あいつ、俺や岡本にはすぐ謝ってくんだよ…それ以外には狂犬のくせによ…でもきっと、田北が花菜と付き合ったら、ケツに敷かれまくんぜ…ありゃ」
そう言いにこやかに笑う恒輝の横顔が、今までの粗野なイメージと違い過ぎて、明人は又ぼーっとなる。
「花菜は、理由があって、俺が居候させてもらってる家の一人娘で、初めて会ったあいつが小1の時はよ、お兄ちゃん、
お兄ちゃんって、よく後ろ付いて回って来て…」
打って変わって恒輝が、真顔でとても静かに呟いた。
その恒輝の横顔を、明人は瞬きも忘れたように見詰める。
「花菜は、俺の本当の妹みたいなもんで
、俺とは本当に何も、付き合ってるとかねぇんだよ…」
この恒輝言葉を聞くまでも無く、すでに明人は、恒輝の性格や家庭環境をかなり調査し知っていた。
花菜との関係も、好きな食べ物がハンバーグで、花菜のハンバーグが特に大のお気に入りという事さえも…
悪いと思いながらも、そうしなければ、両親に転校させて貰えなかったから。
「そうなんだ…」
しかし、恒輝本人から直にそれを聞くのとは又違う。
明人はとてもにこやかに微笑んだ。
その後一瞬、シーンと、会話が途切れた
。
こんなにこんなに世界は広いのに、恒輝と明人2人しかいないような…
まだ昼休みだと思え無い程、教室が静寂に支配された。
(俺、何こんなベラベラ、天敵のオメガに言ってんだ?)
恒輝の心が、何か酷くザワザワとした。
「もう、大丈夫だから、お前は教室帰れ
」
心の乱れを誤魔化す為に恒輝は、わざと呑気な感じで大きな背伸びをして見せて言った。
すると、明人は、一緒に持って来て近くの机の上に置いていた包を座ったまま取って恒輝に見せた。
「俺の弁当、一緒に食べよう!」
明人が、にっこりとした。
「はぁぁ?!」
「転校を期に自分で弁当を作る事にしたんだ。ほら、ハンバーグも俺が初めて作ったんだ!」
明人は、三段ある弁当の一番上の蓋を開け恒輝に見せた。
大きなスペースに、沢山おかずが詰まってる。
明人の大きな手で作ったとは思えない程繊細。
そして、色とりどりで豪華。
今の時代、男も料理するのが当たり前だと思っている恒輝もたまに作るが、とてもそれとは比べられない。
「いらねぇ!彩峰は、それ全部食わねぇと、そのでけぇ図体持たねぇだろうが」
「大丈夫。少し多めに作ってるし、箸も予備のがあるから。西島君、ハンバーグ
…嫌い?」
その明人の問いに、恒輝がゴクッと喉を鳴らした。
恒輝は、本当に本当~にどんな食べ物より何より、ハンバーグが大好きだった。
「ほら、アーンして!」
「あぁぁ〜?!」
恒輝は、明人が箸でハンバーグを恒輝の口元に持ってきたので眉根を寄せて焦りまくった。
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