少女奇譚

@mohoumono

第1章 別れ、旅立ち

第一話 お人好しドラゴンの子育て

小鳥の囀りが響くほど静かな森で、

とあるドラゴンは、木々の隙間から溢れる

日光に照らされ気持ちよく、スヤスヤと寝ていた。

この後起きる波乱のことなんて知らないと言った顔で。


突然、赤ん坊の声が閑静な森に響き渡った。

気持ちよさそうに寝ていたドラゴンは、

飛び起き間抜けな顔であたりを見渡す。

その間にも、

赤ん坊の声は、響き渡る。

鳥は驚き飛び、リスはどんぐりを頬から落としながら逃げ出していた。


ドラゴンは、それを見て、

彼らが逃げ出した逆の方向へと向かった。

足音だけ聞けば豪快だが、

木々や、動物を避けるため慎重に歩いていた。


そして、ドラゴンは赤ん坊を見つけ、

その赤ん坊を潰さないように、

優しく拾い上げようとしたが、

触ろうとした腕を止め、

左手の人差し指を立て、

その指の爪を光らせた。


そうすると、

赤ん坊の周りに風が起こり、

赤ん坊がふわっと浮き上がる。

そのおかげか赤ん坊は泣き止んだ。

だが、ドラゴンを見るや否や

また泣き出してしまった。


ドラゴンは、少し困った顔をし、

何か案はないかと、思考を巡らせる。

そして、何かを思い出したかのように

手のひらを叩いた。

その後、爪を光らせ、

指を指揮者のように振った。

そうすると、周りがピカピカと輝き、

ドラゴンは、煌びやかな音を奏で始めた。


赤ん坊は、その音を聞くと

楽しそうに笑い、泣き止んだ。

笑い疲れたのか、泣き疲れたのか、

どちらかはわからないが、

赤ん坊は、

スースーと寝息を立てながら寝ていた。


ドラゴンは、その様子を見て、

ほっと息を吐き、肩の力を抜いた。

そして、人差し指の爪を光らせ、

赤ん坊を膜のようもので覆った。

ドラゴンは、

出来るだけ音を鳴らさないように、

丸まって目を閉じた。


月が、暗闇を照らす頃

また、赤ん坊は泣き始める。

ドラゴンは、目を覚ます。

ドラゴンは、

爪を光らせてコロンコロンと

音を奏でながら、

赤ん坊を風でゆっくりと揺らした。

赤ん坊は、そのおかげで、

スースーと寝息を立てながら寝始める。

ドラゴンは、月を見て昔のことを思い出す。

あの日は、今朝と同じように

赤ん坊が泣いていた。

けれど、その周りには、

人は疎か親も見当たらなかった。

ドラゴンは、それを見て困惑した。

ここに来て、しばらく経つが、

赤ん坊が捨てられたことなど

なかったからだ。


ドラゴンは、色々な方法を試し、

赤ん坊を泣き止まそうとしたが、

その全てがうまくいかず、時間が過ぎた。

赤ん坊は、

その時泣き疲れのか寝息をたて寝ていた。

ドラゴンは、心身ともに疲れ果て、

その場に、丸まり寝始めた。

そして、また夜に赤ん坊が泣き始めた。

そんな日々が続き、

ドラゴンは疲弊していった。


それでも、

ドラゴンが赤ん坊を見捨てなかったのは、

そのドラゴンがお人好しであったからだ。


ある少年から、

母の病気を治すための

薬が欲しいと言われたら

煎じて飲めとと自分の爪を剥がして渡し、

ある少女から、

父を救うためお金がいると言われたら、

鱗を剥がし渡す。


それがたとえ自己犠牲だと

言われるものであっても

ドラゴンは、

出来るだけ力になろうと奮闘した。

それは、種族分け隔てなくだ。

そのせいでドラゴンは、仲間のドラゴンから

お人好しドラゴンと呼ばれ、

弱者に媚びる愚かな者と馬鹿にされていた。


ところが、ある日、ある男に裏切られた。

その人物はとても小狡い思考を持ち、

ドラゴンの善意を利用し、金を稼いでいた。

その男に、感謝の心など微塵もなかった。

挙句の果てにその男は、人を集め、

ドラゴンを討伐し、

金儲けをしようと企んだ。

結果としてドラゴンは、身を守るため

人を殺してしまった。


ドラゴンは、酷く後悔した。

人を殺したことを、

自分と関わったせいで

身の程に余る欲を持たせてしまった事を。

そして、ドラゴンは、

これ以上男のような者を生み出さないよう

森に結界を張り、社会との関わりを絶った。

それは、

動物だけが行き来出来るものだった。

けれど、例外があった。

それは、赤ん坊だった。


ドラゴンは、悩んだ。

もし、あのようなことが起こったらと。

それでも、ドラゴンは、

赤ん坊を見捨てることができなかった。

そして、赤ん坊を育てた。

その赤ん坊は、

15年後に森を出ていった。

ドラゴンは、そんな昔を思い出し

穏やかな顔をした。

赤ん坊が、眠っているのを確認すると

ドラゴンも丸まり寝始めた。


時間が過ぎるのは、あっという間で

それから5年が過ぎた。


「ねー、ねー」とある少女は、

木にぶら下がりドラゴンに話しかける。

「アイリス、危ないからやめんか。

 怪我でもしたらどうするんじゃ。」

「だいじょうぶだもん、

 ホーリーがたすけてくれるんだから。」

アイリスは、木にぶら下がりながら

ふふっと笑う。

が、手を滑らし、木から落ちてしまう。

ホーリーは、

慣れた手つきで爪を光らせて、指を振る。

「だから、いったであろう。」

ドラゴンは、ため息をついた。

そのため息は、木々を揺らし、

爽やかな風を吹かす。

アイリスは、へへへと笑った。

ホーリーはそれを見て、穏やかなに笑った。

けれど、笑っていられる場合ではなかった。

心の中が不安で渦巻いていた。

なぜなら、

自分の死期が近づいていたからだ。





















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