第4話(最終話)

「そろそろかな」

 私は希美が来るのを今か今かと待つ。

 時計を見ると時刻は18時半を回っていた。

 インターホンがなり、到着したことをモニターから確認する。

 私はゆっくりと玄関口を開ける。

「遅かったかな」

「大丈夫。私は家の中で待ってただけだし、上がって」

「お邪魔します」

 希美は恐縮しながら上がっていった。しっかりと靴を揃えるところを見ていると育ちの良さを感じる。

 希美をリビングに案内し、洗面所を指差しながら言った。

「ここがリビング。あとそっちは洗面所だから、手洗っておいてね」

「ありがとう。わかった」

 そう言うと希美は洗面所の方へ歩いていき、手洗いを済ませてきた。

「とりあえずご飯にしない?私、料理は得意だし何かつくるよ」

「希美がつくってくれるの?やった!」

 私は浮かれて笑顔になってしまう。それを見て希美も笑っているようだった。

「そうだ、キッチンはあっちで冷蔵庫の中身は好きに使って」

 とキッチンの方を指差しながら私は言った。

「ありがとう。美味しいものつくるね」

 希美は任せてと言わんばかりに親指を立てるとキッチンの方へと歩いて行き、冷蔵庫の中を覗いた。

 私は料理が出来るまでの間ソファーに座り、スマホでも見て待ってることにした。


「有彩ちゃん出来たよ~お待たせ」

「ありがとう!待ってました!」

 ソファーの前にあるテーブルに横に二つ並べてくれる希美。ソファーだと食べづらいので床に座って食べる。

 とても美味しそうなカレーで味が楽しみになる。

「いただきます」

 二人揃って食べる。なんだか昼休みを思い出す。

「うん。とっても美味しい。お店で出せるよこれ」

 お世辞などではなく正直な感想だった。程よく甘いルーに肉が絡んで相性が抜群で美味しい。そしてハート型のニンジンが最高にキュートだ。

「ちょっと言い過ぎだよ~でもありがとう。褒めてくれて」

「言い過ぎかな?思ったことそのまま言っただけだけど」

 希美は少し顔を赤くして照れていた。

「ありがとう♪じゃ、はい、あーん」

 希美はスプーンにカレーをすくうと私の口に運んでくる。それを私は口を開けて食べる。

「美味しい?」

「とっても美味しい」

「よかった。ありがとう」

 希美は嬉しそうに微笑んだ。それを見て私も幸せな気持ちになった。

「今度は希美の番。ほら、あーん」

 今度は私が希美の口にカレーを運ぶ。

「あーん」

 パクッ

 そんな音が聞こえてきそうなくらい可愛らしい一口だった。

「んーやっぱりおいひい」

「希美可愛い」

「有彩ちゃんも可愛いよ」

 私たちは一緒に笑った。

 最愛の人と一緒にご飯を食べる。それはこの上ない幸せだ。


「ごちそうさまでした」

 私たちはカレーを食べ終え、私がお皿を洗い終える。

「そろそろお風呂入ろうか」

「私、有彩ちゃんと一緒に入りたい」

「いいよ」

 でも、いくら希美とはいえ一緒に入るのは少し恥ずかしかった。

「リュックから着替え、取ってくるね」

 私は頷き、部屋に着替えを取りに向かおうとしたその時。

「あ!着替え、忘れてきちゃった…ごめん。着替え、貸してくれないかな」

 と希美が申し訳なさそうに頼んできた。

「私のやつで良ければ取ってくるよ待ってて」

 と言い、私は二階の自分の部屋に着替えを取りに行く。

 自分の部屋の扉をあけ、クローゼットの扉を開け、着替えを選ぶ。

 希美の着替えは…私のお気に入りだった白い花柄のパジャマ。凄く好きで小さくなって着られない今でも残してある。これしかない。

 私は階段を下り、希美の元へ向かう。

「これでいいかな?私のお気に入りなんだけど」

 希美にさっきのパジャマを見せる。

「とっても可愛い。ありがとう」

 パジャマを手渡すと嬉しそうに笑って、パジャマを抱き締めた。

「風呂場、さっきの洗面所のところだから、いこう」

 私たちは服を脱いでシャワーを浴びる。

「私、背中流すよ」

「ありがと」

 少し気まずくなり、会話もぎこちない。

「有彩ちゃんスタイルいいね。憧れちゃう」

 そう言って希美は私の背中に顔をつける。

「ひゃっ」

 思わず変な声が出てしまい恥ずかしくなる。

 希美は構わず腕を私の胸のところに持ってきてこう言った。

「でも胸はないね。平べったい」

「余計なお世話じゃい!」

 私の顔は赤くなり、鼓動が早くなっているのを実感した。

 急な大胆な行動にビックリしたが、希美なら許せるし、むしろ嬉しいのが不思議だった。

「次、私が流すよ」

 私が希美の背中を流す。

 小さいながらも魅力的な体を私は慎重に流していく。

 一通り洗い終わったので浴槽に浸かることしにた。

 少し窮屈だったが肌が触れあう感触にむず痒く、悪くない感触だった。

「もう、出ようか」

「うん」


 お風呂から上がった私たちは私の部屋で寝ることにした。

 私は普段ベッドで寝ているが、二人で寝たいと希美の要望で布団を敷いて寝ることになった。

「これでよしっと、希美、敷けたよ」

「ありがとう。さあ早く寝よう~」

 二人で布団に入り、電気を消す。

「お休みなさい」

 そう言って目をつむる。折角希美が来ているのにもう寝ていいのか。もっと遊んだ方が良かったのでないか。そんな考えが浮かんできて全く眠れない。

 目を開けて、暗くてよく見えないが時計を見る。気づけば時刻は23時を回っていた。

 もっと遊べたな。その後悔が私のなかであったが、ふと私の腕に目を落とす。

 なんということだ、希美が私の腕に抱きついて寝ているじゃないか。

 希美はとにかく幸せそうに、そして何か寝言を言っているようだった。

 何を言っているんだ?

 そう思いよく聞いてみる。

「大好きだよ。有彩ちゃん」

 不意打ちの愛の囁きに私の顔は真っ赤になり、恥ずかしくなっていた。

 そうだ、相手は寝ているのだから、何をしてもバレない。

 そう思った私は希美の耳に顔を近付け、一言言った。

「私も、大好きだよ」

 そして私は希美の頬にキスをした。

「お休みなさい。私の天使」

 そのあとは驚くほどぐっすりと眠れた。


 翌朝、起きた希美は私の腕に抱きついていることにビックリして、謝ってきた。

 寝言で愛の囁きをされたことも伝えると余程恥ずかしかったのか顔は真っ赤に染まり、布団の中には隠れてしまった。

 布団の中から震えた声で希美は言った。

「私ね、夢の中で有彩ちゃんにキスされる夢を見たの。そこでね、お願いなんだけど。キスしてくれないかな?おはようのキス」

 私の家に来てから希美は普段より大胆になっている気がするのは気のせいだろうか。

 私は無言で頷き、希美の方を向いた。

 希美の柔らかそうな唇と私の唇が触れあう感触。キスはこんな感じなんだと初めて気づいた。

「おはよう。希美」

「ありがとう。有彩ちゃん」

 

 キスをした後はお互いに顔は真っ赤だった。

 最高に幸せの瞬間だった。

 そして、これからも、ずっと幸せだろう。

 有彩ちゃんが

 希美が

 側にいてくれるから。


 完

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百合の蕾 しーら @hisyotomo

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