黒霧の少女9

ここから近い場所で大きな魔力の発生を肌にビリビリと感じる。空は咄嗟にくうの仕業だと当たりをつける。それはトーマスも同じ様だった。


「君のパートナーはとても寂しがり屋なのかもしれないな」


「どういう事だ?」


空の疑問にトーマスは戸惑った顔をして、何でもない。と答える。


それにしても、魔力の暴走と見紛う程の荒れ狂った魔力だと思った。


起源の魔法。まだよく解明されていない力。それを味方がいない場所で警戒心もなく使うなんて未熟にも程があるだろう。思わずため息も漏らす。


そんな空を見ていたトーマスが、


「これでくうが死んだら君のせいだな」


「はっ勝手に独断専行して暴走してるじゃないか、俺のせいにしないでもらいたいね」


とは言ったものの内心は不安が勝っていた。冗談じゃない、そう思いながらも空は魔力の発生源に足を進める。


それを見ながらトーマスは苦笑いをする。



発生源は

空はくうなんかを見てはいなかった。

フォールス。古代魔法の言語発見者が居るのだから。空にとってそれはファンにも等しく、空の目指す魔法の形だからだ。


それに引き換えトーマスは嫌悪感を隠しもしなかった。


「くう、離れるんだ。君達にはピンと来ないだろうが基本的には魔法使いは同じ派閥のもの以外は馴染まない生き物なんだよ」


フォールスはトーマスを一瞥し、隣の空を見る。ハッとした顔になる。


ああ、コイツ隠し事できないタイプか...その場に居る皆が同じことを思うのだった。


「嫌よ、私はあんたよりはこいつの方を信用するわ」


ムッとして、ムキになり言い返す。くうはトーマスを胡散臭そうにしている。眉尻が釣り上がって眉間にしわが寄っている。


「何故だ!何者か知っているのか!」


トーマスはそんな険悪感丸出しのくうに同時もせずに、叱るかのようにくうに強く言う。焦っているようにも感じられる。


「白の代行者」


ポツリと、くうがそう言った途端、トーマスが押し黙ってしまう。何か考えをまとめているようにも見えた。


「で、一人増えたって事でいいのか?」


空が痺れを切らしイライラした様子で一同を見渡す。


「俺は派閥も何もかも興味もないね、任務が終わるならそれでいい」


トーマスが窘めるように空に向け落ち着いた声音で言う。そこには心配も含まれていた。


「今後、同じようなことがあった時に君だけの問題ではなくなるんだ。代行者、そう名乗る者達は一種の宗教みたいなものだ。なにか一つの目的のために手段を問わない。そんな奴らだ。空は特別だ。狙われることも出てくるぞ」


心底どうでもよさそうに空はトーマスに向けて吐き捨てる。


「だから、関係ないって言ってるだろ。捻じふせればいい」


流石に聞く耳を持たなすぎる空。


「君に出来るのかい?」


トーマスは探るように空に問うた。


「どうとでもできるさ」


トーマスは溜息をつき、諦めた。何を言っても空は聞き入れてくれないだろうことはもう分かった。別のやり方を考える。


「ならアンタはどうなんだ?派閥とやらは自分には適応しないのか?」


「ああ、それなら心配ない。俺は無所属だからな。協会の一員なだけさ」


フーンとつまらなそうに相槌をうち、フォールスの方を向き問う。どこか声が弾んでいるようにも聞こえた。


「フォールスは何が目的なんだ?」


「......終末の使者を滅ぼす。そして、あの終末時計に纏わる全てを......終わらせる」


「なるほどね、目的は分かった。じゃあ、なんでくうと一緒にいる?」


「彼女と君に力を知識を与えるためだ。君達の......起源は多分この世の魔法のルーツに当たる。......力を貸してほしいんじゃないだ、ただ、死なせるわけには行かなくてね」


言い終わると同時に冷めきった声でくうが空に言う。


「ねえ、私は別にいいの。だからアンタはアンタで決めればいいでしょ?この人から学んで結果この人の駒になろうと関係ないの。目的の為には全てをねじ伏せなきたゃいけないから。だならね、私は教えてもらう。アンタは?」


「......同じだよ」


やり取りを聞いていたトーマスは顳かみを抑え投げやり気味に言う。


「ああ、分かった。なら俺も一つ魔法を教えるよ」


「「?、なんで?」」


タイミングピッタリで空とくうの言葉が重なった。それに両者ムッと睨む。


「あのな、君達はまだ学園にも行ってないにも関わらず既に一級に近い。そんな君達を協会の人間として訳分からん派閥に入れさすわけには行かないの。フォールスが教えるなら俺も教える」

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